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「な、何で⁉︎どう言う事⁉︎」
エルヴィーラは目の前にいる姉アレクシアを見て叫んだ。口元に押し当てられた菓子を叩き落とす。
「何であんたが此処にいるのよ⁉︎何よ、その格好は……私の、侍女の癖に生意気」
そこまで言ってエルヴィーラは黙った。普段と違う姉の纏う雰囲気を感じる。いつもは大人しく穏やかで何を言っても口答えをしない従順な姉。その姉が今射抜く様な鋭い視線を向けてきている。それに、つい先程姉は自分に何と言った?
ー そんなに勿体ないなら、貴女が食べなさい ー
そう言ってエルヴィーラの口にぐしゃぐしゃの菓子を押し当ててきたのだ。
あり得ない……あり得ない、あり得ない、あり得ない、あり得ない、あり得ない、あり得ない、あり得ない。
あの姉が自分に楯突くなんて、あり得ない。いや許されない。何もかもが自分より劣っている姉が、逆らうなんて、許せる筈がない。
「エルヴィーラ」
だが何故か声が出ない。姉が自分を呼ぶ声に一瞬びくりと身体が震える。姉は立ち上がるとまるで見下げる様な視線で見下ろして来た。
その姿に無性に腹が立つ。急いで立ち上がろうとするが、何故か足に力が入らなかった。
「彼女に、謝りなさい」
謝る?私がこの陳腐な娘に?笑わせないでよ。偉そうに、一体誰に向かって口を利いているのか。腹が立つ。腹立つ、腹立つ、腹立つっ。
「うう煩いっ‼︎私より劣ってる癖にっ、命令するなっ」
ようやく絞り出た声は静まり返る部屋の中に響いた。
「謝りなさい、エルヴィーラ」
どうして……いつもならこれだけ怒鳴りつければ黙るのに、何でも言う通りにするのに。まるで怯まない。動揺すら見せない。
「悪い事をしたら謝る。小さな子供でも知ってるわ」
「今度は私に説教⁉︎ふざけないでよっ」
苛々する。苛々する。苛々するっ何なのよ⁉︎
「言いつけてやる。お父様やお母様に言いつけてやるから‼︎」
そうよ、私にはお父様やお母様がついてる。言いつけてやるわ!それでこの生意気な姉に思い知らせてやる。私に楯突くとどうなるか、改めて思い知れば良い。
嘲笑を浮かべエルヴィーラは、姉を見上げる。
「今更泣いて謝ったって遅いから。調子に乗った事、精々後悔するといいわ」
そうよ後悔すればいい、あんたは一生私には逆らえないのよ。
だが、そう思ったのにまるで姉は怯まない。それどころか哀れむ様な目でエルヴィーラを見て来る。
「いつまでそれを続けるの?貴女は自分が王太子妃になると話してたけど、仮に貴女が王太子妃になったとして、それでもまだお父様やお母様に頼り続けるつもりなの」
「な、何よ‼︎自分がお父様達から愛されてないからって僻んでる訳⁉︎惨めな人!分かる?私はね、あんたと違って特別な人間なのよ!何をしたって許されるの!きっと王太子殿下だってこの私を選んでくれるに決まってるんだから」
そうよ、私は選ばれた特別な人間なのよ。だっていつもお父様もお母様もそう言ってたもの。
「う~ん、君を王太子妃にね。ははっ、面白い冗談だね。でも、それは無理かなぁ。だって王太子妃の前に……僕さ、人として嫌いなんだよね、君みたいな子」




