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「な、何で⁉︎どう言う事⁉︎」
エルヴィーラは目の前にいる姉アレクシアを見て叫んだ。
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あの後オリヴェルから説得されアレクシアは、結局次の日から妃教育に参加する事になった。いつも通り朝エルヴィーラを送り出すと、アレクシアは自身の準備を始めた。
侍女服を脱ぎ、用意して貰ったドレスに着替える。派手さはないが、上品な色合いと形だ。流石はリーゼロットの見立てである。その後簡単に髪を纏め、薄化粧を施す。
ドレスなどを用意して貰った際に、リーゼロットからは侍女を付けると申し出があったが丁重に断った。何故ならアレクシアは、身支度程度の事なら自身で完結出来る。
元々殆ど外に出る事が無く人と会う機会も無かったので、日々の支度は自分でする様にしていた。正直侍女達からも余り良く思われていない事は知っていたので、頼みたくないのもあったからだ。一々気を遣うのが嫌だった。
故に城に来てからの毎日のエルヴィーラの身支度程度、問題なくこなせていた。
アレクシアの支度が整うと同じくらいに、丁度良く扉が叩かれる。するとそこには、リーゼロットが立っていた。
「アレクシア様、準備は如何ですか」
「リーゼロット様」
「あら、私の見立て通りとても良くお似合いです。でも素材が良いのでドレスの方が霞んで見えてしまいますね」
そう言って艶やかにリーゼロットは笑う。アレクシアはお世辞とは分かっているが、これまで褒められるといった事に慣れていないので、どう返していいのか分からず頬を染め俯いた。その姿に益々リーゼロットの笑みは深くなる。
「では、参りましょうか」
アレクシアは彼女の言葉に頷くと、彼女に手を引かれ歩き出す。改めて彼女を横目で見遣ると、その堂々とした佇まいや洗練された姿に感嘆する。
相変わらず、美しい。
彼女は以前から何故かアレクシアを気にかけてくれていた。頻繁にお茶会に誘ってくれ、参加すれば隅っこにいて存在感皆無の自分にわざわざ話しに来てくれた。まあ、十回に一度くらいしか参加はしていなかったが……。
友人と呼べる人がいない中で唯一、それに近い存在とも言えるかも知れない。
「アレクシア様、貴女は素敵な女性です。堂々となさっていて下さい」
視線は前を見据え、彼女はそう言った。
正直不安しかないし、自信もない。内心戸惑うばかりでどうしたらいいのか分からない。昨日、オリヴェルから言われた……この妃教育はアレクシアの為に用意されたものだと。
彼が自分の事を想ってくれている事実に歓喜した。だが一方で情けないが、覚悟が決まらない。自分みたいな本の虫で何の取り柄も皆無の娘が王太子妃になんて、なれるのだろうか……。
「大丈夫です。貴女はオリヴェル様がお選びになられた方なんですもの。誰に遠慮なさる事も臆する必要もございません。……沢山のどの令嬢でもなく、他ならぬ誰でもない、選ばれたのはアレクシア様……貴女なんです。その事を誇るべきです」
まるでアレクシアの心内を見透かした様に、リーゼロットが話す。
選ばれたのは私……オリヴェル様が私を……選んでくれた。
改めてその言葉を噛み締める。彼はアレクシアを必要としてくれているのだ。そうだ。臆している場合ではない。自分は、オリヴェルが好きなのだ。これから先も彼の側にいたい。ならば、アレクシアはこの妃教育を受ける他はないだろう。
俯き加減だった顔をアレクシアは上げ、確りと前を見据えた。
「良い顔になりましたね、アレクシア様。さあ、参りましょう。これからが正念場です。私達女の闘いですよ……ふふ」




