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分からない。彼女が一体何を考えているのかが。
何故そんな顔をするんだ。まあ、これはこれで可愛いが……って違う、今はそうじゃないっ。
何か返答を間違えたのだろうか……先程の自身の言葉を思い浮かべて見る。
『あー……嫌いじゃ、ないよ?』
優しい彼女の事だ。兄弟仲が悪いのかと、心配でもしているのか……。
ならば、彼女を安心させるしかないだろう。自分と弟は頗る仲が良いと伝えれば、きっと彼女はいつもの笑顔に戻ってくれる筈だ。
「シア、訂正する……僕は、モーリスの事を心から愛しているよ」
だから心配などする必要はないよ。
そんな意味を込めて真っ直ぐに彼女の目を見て微笑む。伝わっただろうか。
「……」
彼女は心底驚いた様子で、黙り込んだ。口が半開きになっている……やはり、可愛すぎる。だが、想像した反応と大分違う様に思える。
「シア?」
「……っ」
「シ、シア⁉︎どうしたの⁉︎」
音もなく彼女の瞳から涙が溢れ落ちた。その美しい光景に息を呑むが、慌てて彼女の涙を指で拭う。
「え……」
自分でも気付いていなかったのか、彼女は自身の顔に触れて確かめると、困惑していた。
「申し訳、ございませんっ……こんなつもりでは」
オリヴェルは一瞬躊躇するが、未だ涙が止まらないアレクシアを優しく抱き寄せた。
「シア……何が悲しいの?僕が君を悲しませているの?……僕に教えて」
アレクシアとこんな風に話をするのは、初めてだった。彼女の言葉を気持ちを聞いて、なんて自分は莫迦なんだと笑えた。情けなさに吐気すらしてくる。
「ねぇ、シア……いや、アレクシア」
彼女の本当の名前を呼ぶと、アレクシアは弾かれた様に俯いていた顔を上げる。何かを言いたげだが、言葉が出ない様だった。
「ランブラン侯爵の長女、アレクシア・ランブラン侯爵令嬢」
「……」
「ごめん。君の事は初めから知っていたんだ」
彼女を抱き締める手に力が篭る。どう伝えれば良いか……また変な誤解を招きたくない。彼女の話を聞いて愕然とした。言葉にする事の大切さを改めて痛感せざるを得ない。
アレクシアに、オリヴェルの彼女への想いはまるで伝わっていなかった。それどころか、誤解が誤解を呼びオリヴェルが弟のモーリスを好きだとか訳の分からない話になっていた。兄弟愛に加えて、同性愛。最早どこから突っ込んで良いのか、頭が痛くなる。
まあ、人の事を言えたものではないのだが……自分も思い違いをしていた。
「アレクシア、君に頼みがある……。君に、妃教育に参加して欲しい」
ようやく言えた。だが実は先程彼女から自分の事を好きだと告げられている故、後出しの様で少し気が引けたが今更である。男として本当に情けなく嫌になる。だがこれで当初の予定通りに戻る。そして、この不毛な妃教育もようやく意味を成す。
「……それは、出来かねます」
暫く間があり聞こえて来たのは、予想だにしない言葉だった。
オリヴェルはまさか拒否られるとは思わなかった故、頭が真っ白になる。
「申し訳ございません」
更に、追い討ちをかけられる様に謝罪され愕然とする。
何故だ⁉︎さっき彼女は確かに自分の事を好きだと言ってくれたのに……まさかこの一瞬で心変わりをしたとか⁉︎
嫌な汗が背を流れるのが分かった。
「な、なんで⁉︎僕の事、嫌いになったの⁉︎」
「そんなっ、違います!ただ……私などが妃教育など、良い笑いものです。それに、父や母が許してなどくれる筈がありません……」
ああ、成る程……合点がいった。オリヴェルは安堵し落ち着きを取り戻すと、不敵な笑みを浮かべる。
「大丈夫だよ。アレクシア、君は何も心配する必要はない。後は僕に任せてくれたら良いよ」
オリヴェルは、そう言いながらアレクシアの頭を優しく撫でた。
アレクシアと相思相愛になった事で、オリヴェルは本来の調子を取り戻した。彼女の事を除けば、本来自分は女々しさからはかけ離れた存在だ。
興味のないモノ、必要のないモノ、使えないモノ……躊躇う事なく切り捨てる。
さて、どうしてあげようかな。




