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必死に柱にしがみつくオリヴェルをリーゼロットは引っ張る。
「リーゼロットっ、離してくれるかな⁉︎」
情けない格好で笑えてくる。普段はこれでも爽やかな笑顔で腹黒でもあり少しスカしている彼なのだが、そんな事を微塵も感じられない。
「全く、アレクシア様の事になるとどうしてそんなに情けなくなるんですか」
グイグイと負けじとリーゼロットもオリヴェルを柱から引き剥がそうと必死だ。
「いや、それはっ……兎に角、無理だから‼︎離してよ」
「ダメです!いい加減腹を括ったら如何ですか?当たって砕けても、粉砕しても、粉々になっても、紳士なら立ち向かうべきです!」
「いや、それ同じ意味だよね……しかも全部砕けてるし……」
リーゼロットは内心苛々が止まらない。この不甲斐ない男をさっさとアレクシアの前に引き摺り出し、早々に方を付けたい。リーゼロットは女々しい男が嫌いだ。今の彼を見ていると、平手打ちの一発でもお見舞いしたくなる。
「……ねぇ、何してるの」
「あら」
リーゼロットとオリヴェルは攻防戦に気を取られ全く気付かなかった。気付けば随分と至近距離でモーリスとアレクシアがこちらを怪訝そうな表情で見ている。
「こ、こここれは、違うんだよっ」
「殿下……」
「シアっ、違うんだ……本当に、違うんだよ……」
オリヴェルは慌てて柱から離れるも、今更だ。確りと情けない姿をアレクシアに目撃されていた。
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頭の悪い莫迦な奴だと我ながらに思った。アレクシアを前にしてひたすらに「違う」としか言葉が出ない。情けないやら恥ずかしいやら……オリヴェルは今直ぐこの場から立ち去りたかった。
「兄上……いい歳して、虫真似ごっこですか?流石にちょっと。遊ぶならもっと違う場所でやって下さい」
「なるほど……そうだったんですね!所で虫真似ごっことはどんな遊びなんですか?」
モーリスとアレクシアの少しズレた会話が遠くで聞こえる。相変わらず可愛い……いや、今それどころじゃ無かった。オリヴェルは羞恥と不甲斐なさで意識が朦朧としていた。
「オリヴェル様」
不意にリーゼロットに肘で小突かれた。そして小声で耳打ちしてくる。
「今です。これはいい機会です」
いやいや、どう考えても今じゃないだろう⁉︎何処を如何見たらそうなるんだ⁉︎
オリヴェルは愉しげに話すモーリスとアレクシアを盗み見る。やはり、二人は……。そもそもリーゼロットとの不毛な遣り取りの所為で、肝心のアレクシアのモーリスへの返事を聞きそびれてしまった。聞くまでもないが、物凄く気になる。もしも、という事もあるかも知れない……。
「兄上、俺はシアが」
好きです、と続けようとしたのは聞かなくとも分かる。きっと告白した結果でも報告するつもりなのだろう。だがそこまで弟が言い終わる前にリーゼロットが動いた。
「モーリス様っ」
いつの間にかモーリスの前に立ち、弟の両手を徐に自身の手で包み込み力強く握り締めた。
「リーゼロット?」
モーリスは無論訳が分からず呆然としている。
「私……私リーゼロットは、モーリス様をお慕い申しております」
瞬間その場には異様な空気が流れた。




