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アレクシア達が城に到着するや否や、侍女に広間へと案内をされた。中に入ると、既に候補者らしき令嬢が集まっている。
皆一様に、気合いが入っているのが伝わってきた。空気が重苦しく、互いに牽制し合っている様に見える。兎に角、気迫が凄い……引く程に。
アレクシアは、エルヴィーラからは離れ壁際に下がった。すると、横にいた侍女の娘に話しかけられた。
「ねぇ、貴女はどなたの侍女なの?」
人懐っこそうな笑みを浮かべ、彼女はアレクシアを見ている。
「私は、侯爵家のエルヴィーラ、様の侍女です」
まさかエルヴィーラを様付けで呼ぶ日がくるとは……その瞬間、妹の思惑が頭を過ぎる。これから暫くの間城の中では、常にエルヴィーラに様付けをする事になる。妹がにやにやと嫌な笑みを浮かべているのが容易に想像出来た。
アレクシアは、げんなりする。
「侯爵家!凄いのね。私は男爵家のモニカ様の侍女のドリスよ」
男爵家……本当に選別の仕方が分からない。本来なら王太子妃には上位貴族がなるものだと、一般的に認識されている。王太子でなく第2王子などでも、余り下位貴族を娶ったなどこれまでの歴史の中で、聞いたことがない。愛妾などならありうるが……。
まさかとは思うが、王太子妃候補のみならず、側妃や愛妾候補も纏めて選んでしまおうという事なのか……それなら納得出来るが、雑すぎる……。
だがそうなると、これは形だけの選別となる。此処にいる20人の令嬢の中に、既に本物の王太子妃候補がいるのだろう。後はおまけで、物のついでに側妃、愛妾と選べば一石二鳥という訳だ。
そんな風に考えると、本当にアホらしくなってきた。
こんな事するくらいなら、舞踏会で適当に見繕えば良いのでは?とさえ思う。わざわざこんな事をする必要はない。一体目的は何なのか……色々と分からない事だらけだ。
兎に角、面倒事に巻き込まれたアレクシアからしたら、迷惑以外の何者でもない。
そんな事を考えていると広間が少し騒がしくなった。上段に姿を現したのは、無駄に光り輝いている美男子だった。
エルヴィーラは勿論の事、他の令嬢達も目を輝かせている。
「本日より、王太子妃の選別を執り行う。此処にいる20名の御令嬢方は、選ばれた方々だ。その事を誇りに思い、これから約半年間妃教育に勤しむように」
先に臣下らしき男がそう話すと、無駄に輝いている美男子が前へと出てきた。
「この様に美しい御令嬢ばかりに、集まって貰えて僕は幸運だ。……僕の為に、是非君達には頑張って欲しい」
それだけ言うと彼は去って行った。
……無駄に、視界が煩かった。それに、胡散臭い。
あの手のタイプは苦手だ……アレクシアは眉根を寄せた。
あれが王太子ねぇ……。
実はアレクシアは、王太子を知らなかった。その理由は、ただ単に城で開かれる舞踏会には1度も参加した事がないからだ。両親はいつも妹のエルヴィーラだけを連れて参加していた。
だからアレクシアは、屋敷でいつも留守番だった。なんでも、自分がいると場が白けるらしい……。
意味が分からない。ただの言い掛かりだが、別に参加したいと思った事はないので気に留めた事はない。
それに、正直社交の場は苦手だった。たまにお茶会などには参加する事はあるが、あの雰囲気が好きになれない。皆一様に貼り付けた様な笑みを浮かべ、心にも無い事をつらつらと話す。余り気分の良いものではない。
「シア、何してるの。早くしなさいよ」
エルヴィーラの声に、アレクシアは我に返った。
周囲を見渡すと、いつの間にか広間の人影は少なくなっていた。どうやら、お開きになったようだ。
それよりも……もしかしなくとも「シア」とは自分の事だろうか。態度もいつもにも増して太々しい。
だが仕方がない。今のアレクシアは、エルヴィーラ侯爵令嬢の侍女なのだから。
半年だけ、半年だけだ。そうしたら、解放される。我慢だ。アレクシアは、自分にそう言い聞かせた。
そして丁寧に頭を下げて「申し訳ございません」と返した。そして、エルヴィーラの後に付いて、広間を出て行った。




