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グオォォ……。
相変わらず獣の様ないびきが隣のエルヴィーラの部屋から聞こえて来る。最近は慣れたもので、アレクシアの脳はそれを雑音として処理しておりそこまで気にならなくなった。
慣れって、怖いわ……。
まあだからと言って、寝付けるかと問われたら否だ。流石にこの雑音が子守唄代わりにはならない。
いつもの調子で書庫から持ってきた本をペラペラと捲り読む。昼間も書庫で読んではいるが、最近はオリヴェルが気になり余り集中が出来ずにいた。
彼はお茶を優雅に口にしながら会話をした後、適当な本を持って来て何故だがアレクシアの隣に腰を下ろしそれを読む。最近異様に距離が近い。物理的に。
彼が気になり横目で見遣ると、よく目が合う。という事は、彼もこちらを結構な頻度で見ている事になる。オリヴェルもまたアレクシアを気にしているという事なのだろうか。
しかも彼と目が合うと、顔に熱が込み上げてきて鼓動が速くなり異様な程に落ち着かなくなる。何故そうなるのかアレクシアには分からない……最近自分が変だ。
本を前にして集中出来ないなんて……まさか病にでもかかっているのだろうか⁉︎
いや、でも平常の時は別段何もない。今こうしていても、熱が込み上げてくるとか心臓が速くなるとかは感じない。ならばアレはなんなのか……。こんな事は生まれて初めてだった。得体の知れない恐怖を感じる。
「……もう、朝になっちゃった」
手元の本に目線を落とすと数ページしか捲られていなかった。しかも内容なんてまるで頭に入っていない。
「やっぱり、私どこか悪いのかも知れない……」
「シア、どうしたの」
アレクシアは、いつも通り書庫に来て椅子に座っていた。だが机にも手元にも本は一冊も見当たらない。オリヴェルが暫くしてやって来ると、目を見開いて声を掛けてきた。
「殿下……っ」
ぼうっとしながらオリヴェルを暫し眺めていたが、ふと我に返り立ち上がる。慌てて挨拶をして頭を下げた。
「いつも言ってるけど、此処には僕とシアだけの二人だけなんだから、そんなに畏まらなくていいよ」
柔らかい笑みを浮かべオリヴェルはシアの肩に触れると、座る様に促す。ただそれだけの事なのにも関わらず、異様に恥ずかしい……一瞬触れられた肩が熱く感じた。
「それより、どこか優れないの?」
彼は眉根を寄せてアレクシアを心配そうに見てくる。
「い、いえ……何故その様な事を」
今朝鏡を見た時は気付かなかったが、顔色でも悪いのだろうか……やはり何かの病とか……。今まさに心臓が煩いくらいに脈打っているし、身体全体が熱を帯びている。
「シアが本を一冊も手にしていないなんて、どうしたのかと思ってね……」
その言葉にアレクシアは、ハッとなり自分の手元や机に視線を向けた。いつもなら書庫に入るなり、いそいそと本を物色しあっという間に手元には本の山が出来る。それなのに、今日は書庫に来てから本を選ぶのを忘れて席に着いていたようだ。完全に無意識だった……。
彼が来るまでの間、何をするでもなくただぼうっとして過ごしていたのだ。
「殿下……私、変な病にかかってしまったかも知れないんです」
アレクシアの意外な言葉に、オリヴェルは首を傾げた。
「変な、病……?」




