22
アレクシアは書庫で机に今日読む予定の本を積み上げている。向かい側にはオリヴェルがその様子を見ながら優雅にお茶をしていた。ここ最近の日常の光景だ。
「あの、オリヴェル様」
アレクシアは不意に本から視線をずらし、彼へと視線をやると話しかける。
「何かな?」
話しかけられたオリヴェルは、爽やかに笑う。
「あれからモニカ様とは……その、如何ですか」
その言葉に彼は眉根を寄せた。突如振られた話題に、何の事か分からない様子に見える。
「最近モニカ様をお見かけしないので……」
お節介だとは思いながらも、つい気になり口を衝いて出てしまった。モニカがどうしているかと言うよりも、本音を言えばオリヴェルとモニカの仲が気になる……。
他意は、ない。これは興味だ。恋物語の本は苦手だが、二人の行く末は何故か気になる……他意はない。頭の中でそう復唱する。
「あー、モニカね。僕も最近会ってないから、どうだろう。……生きてるとは思うよ」
「え?へ……あ、いえ、申し訳ございません」
モニカと会っていないという彼の言葉に何故か安堵しながら、最後の妙な物言いにアレクシアは思わず失礼な声を上げてしまった。
生きているとは思う、とは一体……。
怪訝そうな表情を浮かべるアレクシアに、オリヴェルは気にする素振りはせずに話を続ける。
「モニカは妃教育からは降りたからね。もう離宮には戻らないし。もしかして、何か彼女に用でもあった?」
さらりと驚愕な事実を告げる彼にアレクシアは呆然とする。いつの間にそんな事になっていたのだろうか。
モニカはオリヴェルの本命だと確信していたのに、まさか妃教育を降りたとは驚くほか無い。どうやらアレクシアの考えは見当違いだった様だ。
「いえ、特には……」
自分から話を振ってしまった故、何か言い訳をしなくてはと使命感的なものを感じるアレクシアは、必死に頭を悩ます。
「……」
「……」
目を泳がしながら考えるアレクシアを、オリヴェルは黙って笑顔で見ている。気不味い。これはやはり、何か言わなくてはと、焦る。
そう、そうだわ!ピンと来た。
「実は、私モニカ様に本をお借りしておりまして」
モニカには返さなくていいと言われたが、致し方がない。そう言う事にしておこう。
「モニカに本を?」
「はい、実は借りたといいますか、落ちているのを拾ったのですが」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
アレクシアの言葉にオリヴェルは「おや」と思った。
「詳しく聞きたいな、その話」
ニコニコしながらオリヴェルは、話を促すと彼女は事の顛末を話してくれた。
本を二回も拾った事に加え、上着の話も聞いた。彼女は本の内容については微妙な面持ちで話していたが、上着の辺りは少し照れたように見える。
モーリスの奴、何勝手に自分が本を落とした事にしているのかな。
苛々する。あの二冊の本はオリヴェルが厳選に厳選を重ね、アレクシアの為に用意した本だ。
かなり悩んだ。彼女の好みが全く分からず、従姉のリーゼロットに相談するも教えて貰えなかった。
『そのような事は、直接本人にお伺い下さい』
面識のない人間に聞ける筈がないだろう。そう返したが、その後も何を言っても取り合って貰えなかった。
『女性への贈り物でしたら、ご自身で考えるのが紳士というものです』
そしてよく分からない理論を並べられた後、そう締め括られた。
結局、悩んだ結果オリヴェルからアレクシアへの恋文的な内容の本を選んでみた。
彼女を姫に見立てて、無論自分が王子だ。
彼女の生家である侯爵家の事は、大方調べがついている。彼女が両親や妹から、どのような仕打ちを受けて来たのかを……。
だからあの醜悪な両親や妹から彼女を救い出し、幸せにするという意味を込めて選んだのだ。
だがアレクシアは余り気に入らなかったようだ……オリヴェルはかなり落胆した。
「オリヴェル様?」
「あ、ああ……大丈夫、何でもないんだ。ハハ……」
乾いた笑いが書庫に響いた。




