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「おはよう。良く眠れたかな」
アレクシアが目を開けると、オリヴェルと目が合った。
「お、王太子殿下⁉︎」
驚きアレクシアは慌てて立ち上がろうとしたが、勢いの余り思わず後ろによろめく。
「シア!」
倒れる寸前、オリヴェルがアレクシアを抱きとめてくれた。恥ずかしさと情けなさに、顔は真っ赤に染まる。
「申し訳ございませんっ、殿下」
「いや、驚かせてしまった僕の所為だから」
そう言って彼は優しく笑った。
暫くするとオリヴェルの従者がお茶を手に書庫に入って来た。アレクシアと彼の前に淹れたてのお茶と共に焼き菓子が並び、甘くいい匂いがする。
そう言えば……あの後フィリベールは大丈夫だったのだろうか。ドリスに引き摺られて行ってしまったが……焼き菓子を見て思い出した。
そうだ、そろそろエルヴィーラのお菓子が切れてしまう……どうしよう。またあの悪夢が……。
「ねぇ、シア。少し僕に付き合ってくれるかな」
あれこれ考えていたアレクシアはオリヴェルの声で、我に返った。そして彼からの意外な申し出に驚く。
「私などの一介の侍女が、殿下のお相手などと……恐れ多いです……」
アレクシアは眉根を寄せる。
「少しだけでいいんだ。僕の話し相手になって欲しい」
何だろう……今貴族や王族などの間では侍女とお茶をするのが流行りなのだろうか……。モニカといいオリヴェルといい……普通なら侍女とお茶をして話し相手になど、考えられない。
アレクシアは社交界の事には疎いので、もしかしたら……などと悩む。もしそうなら、断るのは逆に失礼にあたるかも知れない……。
アレクシアは、オリヴェルの顔を凝視し彼の真意を探ろうとするが、その笑顔からは何も読むことは出来ない。
「やっぱり、僕なんかが相手では気乗りしないよね……」
暫く沈黙が流れた後、悲しそうな表情を浮かべたオリヴェルがそう言った。
そんな風に言われたら頷く以外に答えはない。
「わ、私などで……宜しければ……」
「嬉しいよ、シア」
瞬間、彼は笑顔に戻った。もしかして、これはワザとなのでは……。
この感覚、前にもあった気が……アレクシアは内心苦笑した。
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「シアは、本当に本が好きだね」
アレクシアの足元に積まれている本を興味ありげにオリヴェルは見遣る。
「はい、大好きです」
本の事になると思わず頬も緩む。アレクシアが屈託のない笑みを浮かべると、彼は口元に手を当て顔を逸らした。
どうしたのかしら……まさか⁉︎このお菓子に毒が⁉︎
アレクシアは、彼が菓子を口に入れていたのを見た。その直後にこの反応……これは、間違いない‼︎
スッと血の気が引き、アレクシアは顔を青くした。
すると次の瞬間、ガタンッ‼︎と勢いよく立ち上がるとアレクシアは、オリヴェルの元へ行き突如背中を叩いた。
「殿下‼︎大丈夫ですか⁉︎」
「えっ⁉︎シアっ、ゴボッ」
思いの外、強い力で背を叩かれたオリヴェルは咽せる。オリヴェルは、何故背を叩かれているのか分からず混乱していた。
「殿下っ、しっかりして下さい‼︎吐き出せますか⁉︎」
アレクシアは頭の中で、懸命に毒を盛られた時の対処法を引き出す。確か随分と前に読んだ記憶が……だめ、思い出せない。このままでは、王太子殿下がっ。
「シア⁉︎お、落ち着いて?どうしたの⁉︎」
「落ち着くなんて無理ですっ、殿下のお命が」
「命?」
「はい……毒を盛られたのでは」
オリヴェルはその言葉に一瞬間の抜けた顔になり、次の瞬間には大きな声で笑い出した。
「あはは」
彼に盛大に笑われ、呆気にとられたアレクシアだったが、その後自分の勘違いだと分かり、首元まで赤く染まった。




