18
アレクシアは、久しぶりに満足感を味わっていた。書庫から借りて来たアレクシア好みの冒険物の本。夢中になって読んでいたら、気付けば窓の外は白んでいた。
相変わらず、隣部屋からはエルヴィーラの獣の様ないびきが聞こえるが、気分は爽快だった。
ただ……やはり眠いが。
アレクシアは大きな欠伸をした。はしたないが、別に誰が見ている訳でもない。構わないだろう。
「……眠すぎる」
アレクシアは、また書庫へと来ていた。実は昨日、王太子ことオリヴェルから書庫への出入りの許可を貰った。
半年なんて長すぎると思ったが、寧ろ今は短いとすら感じる。何しろこんなに沢山の本があるのだ。半年いや後5ヶ月程で読める量は限られている……。
アレクシアはいそいそと本棚を物色し、机に積み上げた。
眠い、眠いが……読みたい。
睡魔と闘いながらも、アレクシアは本を開くのだった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「君は、眠り姫なのかな」
アレクシアが机に突っ伏し眠っていた。オリヴェルはその姿を見て、くすりと笑うと例の如く上着を掛ける。
「ようやく、君に少し近づけた。……それにしても」
眠るアレクシアの横に積まれた大量の本に、驚く。まさかこの量を今日一日で読もうとしたのだろうか。
無欲そうなのに、本に関してだけは違う様だ。かなり、欲張りに見える。
「可愛いね」
オリヴェルは、頭をそっと撫でた。
さて、これからどうするか。
思わずため息が出る。……彼女の両親の侯爵夫妻には、困ったものだ。
書状には確かにアレクシアの名を記してあった筈なのに。何故か、蓋を開ければ妃教育に現れたのは妹のエルヴィーラの方だった。
正直、かなり腹が立った。一体どういうつもりなのか。侯爵家に抗議でもしようかと思ったが、取り敢えずはやめた。
その理由は、妃教育を受ける妹の侍女として彼女が共にやって来たからだ。
あのランブラン侯爵夫妻は、元々良い噂はないが……流石にここまでするとは、ほとほと呆れる。
「……」
静かに寝息を立てるアレクシアを見て、オリヴェルは違う意味のため息を吐いた。
見ているだけだった彼女が、こんなにも近くにいる。不器用な性格故、どうしたらいいのか分からなかった。
初めて彼女を見た瞬間、心奪われた。彼女から目が離せなくて心臓が止まるかと思ったんだ。正直、自分自身でも驚いた。
こんな事が現実に起こり得るなど、信じられなかった。これが所謂……一目惚れなのかと。
彼女を見かけてからは、従姉のリーゼロットの屋敷へ足繁く通った。だが、彼女は滅多に現れない。リーゼロットには、執拗に彼女をお茶に誘う様に頼んだが、彼女は当日になると体調を理由に殆ど欠席だった。
たまに出席しても、オリヴェルは彼女を覗き見るだけで中々声を掛ける事が出来ずにいた。これまでこんな経験をした事がなく、自分でも戸惑う中、時間だけが過ぎてしまった……。
父の国王からは、婚約話を頻繁にされる様になり内心焦るがどうする事も出来ずにいた。本来なら彼女を婚約者に推薦したいところだったが……
アレクシアと面識の無い自分がいきなり婚約を申し込んだとしてあの夫妻の事だ、揉めるのは目に見えている。きっと彼女を困らせる事にもなるだろう。しかも、調べた所彼女はほぼ屋敷に引き篭もっている様子だ。
『でしたら、王太子妃候補を集めてその中から選ぶのは如何ですか』
王太子妃候補を募り、選ぶ。まあ、形式だけで実際にはアレクシアと決めているのだが。そうすればすんなりと事が運ぶ。無論彼女は立候補などしないだろうが、どさくさに紛れて書状を送ればいい……。
昔から柔軟な発想の持ち主のリーゼロットから、そう提案され、それを採用した。父に話すと、最初は奇怪な顔をされたが、そこは少々強引に押しきった。
だが、甘かった。この可憐で花のような彼女ではなく、代わりにだらし無い闘犬のような妹がきた……。
まあ、少し予定は狂ったが致し方がない。
「……ん」
身じろぎしたアレクシアから、声が洩れる。
「これは、やばいな……可愛い過ぎる」
オリヴェルは、口元に手を当て感嘆の声を洩らした。




