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モニカの唇がアレクシアのそれに触れる寸前に、ピタリと止まった。そして一瞬顔を歪ませた彼女は、ゆっくりとアレクシアから身を離した。
「いい所だったのに」
舌打ちこそしないが、かなり不機嫌そうな顔でモニカが低い声で呟く。
その言葉に心臓が跳ねた。アレクシアの顔は真っ赤になり、酷く熱く感じる。
私今……モニカ様と……。
モニカの唇がゆっくりと近付いてくるのが、頭から離れない。頭の中がぼうっとして、ざわざわとする……。
だが、アレクシアは直ぐに我に返った。その理由は、遮った声の主にある。……聞き覚えのある声だった。
これは、まずい状況かも知れない……。
「リーゼロット様がこの様な場所へ来られるなんて……如何なさいましたか」
モニカは、控えめな笑みを浮かべ声の主リーゼロットを見遣る。いや睨む……目だけは笑っていない。その時リーゼロットの視線を感じて、アレクシアは慌てて顔を背けた。
「実は気分転換にお散歩、しておりましたの。モニカ様」
「まあ、お散歩ですか。それは素敵ですわね」
「そうでしょう?こんなにいいお天気なんですもの、お散歩日和です」
俯いているアレクシアには、2人の顔は見えない。故に会話だけなら微笑ましく思えるのだが……何故か不穏な空気を感じる。
「ところで、リーゼロット様。妃教育は如何なさいましたの?まさか、リーゼロット様ともあろうお方が、自主的にお休みなさっている訳ではありませんよね?」
「あら、心外ですわ。まるで私がサボっている様な物言いですわね、モニカ様。私はただ、自分の感性を磨く為にこうしてお散歩をしているだけですわ。モニカ様こそ、妃教育はどうなさって」
「私は、こうして他家との親睦を深める為に致し方なくお休み致しました」
それを世間一般には、サボりというのでは……アレクシアは、顔が引き攣る。
2人の会話は色々突っ込みどころ満載だが、今はそれどころではない。一刻も早くこの場から立ち去りたい。
暫くよく分からない攻防戦をくり広げる2人を、アレクシアは覗き見た。
気付かれただろうか……嫌な汗が身体を伝う。
実は、初日広間にて集められた妃候補の面々を確認した際に、顔見知りがいないとアレクシアは密かに安堵していた。まあ、ほぼ引き篭もり状態のアレクシアの事を知っている者など限られている為、さほど心配はしていなかったが。
だが、安堵したのも束の間その中に1人だけ見つけてしまったのだ。顔見知りであるリーゼロットの姿を。
彼女は、公爵家の娘であり国王の姪、そして王太子の従姉にあたる。今回の妃教育の本命はアレクシアが考えるに、彼女だと踏んでいる。
あの瞬間、正直アレクシアは焦った。
ただ、今のアレクシアは一介の侍女に過ぎない。普通に考えて他家の侍女の顔など貴族の令嬢は一々気に留める事はないだろう。まして、顔を合わせる機会もそうそうにない筈、と思っていたのだが。
思いっきりありました……アレクシアは、愕然とした。
「まあ、そうなんですね。なら、私も是非親睦を深めないといけませんわね。私もご一緒しても、宜しいかしら……シアさん」
名前を呼ばれたアレクシアは、身体をびくりとさせる。
……ドリスもモニカもそうだったが、何故まだ名乗ってもいないのに人の名前を知っているのか。妃候補である妹のエルヴィーラなら分かる。だが、今は一介の侍女にしか過ぎないアレクシアの、しかも偽名を初見で言い当てるなど、正直怖すぎる……。
一体どうなってるの……。
内心混乱しながらも、リーゼロットからの視線を痛いくらいに感じ、いつまでも顔を背けているのは失礼になる故、アレクシアは覚悟を決めて顔を上げた。




