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「いつも、お菓子を分けて頂く際にお茶に誘って下さるんです」
いつまでも何も言わないフィリベールに代わり、アレクシアがそう答えると、フィリベールは「申し訳ございません」と消え入りそうな声で囁いた。
「魔が差したんです!ほんの出来心で……」
必死にモニカに申し開きをしているであろうフィリベールを見て、アレクシアは目を丸くした。彼は一体何の弁解をしているのだろうか?
それにモニカとフィリベールは、どうやら知り合いの様に見えるが。
男爵令嬢のモニカと、料理人のフィリベールにどの様な接点があるというのだろうか……。
もしかして、モニカ様も彼に密かにお菓子を作って貰っていた、とか……それはないわよね、モニカ様に限って。あの妹と同じ程度という事になる。……いや分からない、無きにしも非ずかも知れない。
実はモニカ様は、ヤセの大食いとか……それで、モニカ様の分のお菓子をエルヴィーラ用に取られたから、怒っている、とか……あるかも知れない。
アレクシアは顔を引き攣らせて、そんな事を考えながら2人の様子を眺めていた。
「あら、そうなの。なら仕方ないわ……」
モニカは満面の笑みでそう返した。だがやはり目は据わっている。
「ドリス」
「はい、モニカ様」
モニカがドリスを呼ぶと、彼女はフィリベールの元へと歩いて行く。そして、彼の腕を掴んだ。その瞬間フィリベールは身体をびくりとさせ声を上げた。
「モ、モ、モニカ様!」
「大分お疲れのようですから……少し休まれた方が宜しいですわ」
フィリベールと一瞬目が合った。彼は縋る様な視線を向けて来たが、アレクシアは声すらかけられなかった。モニカの放つ空気が怖すぎた。
フィリベールさん、妹のお菓子の所為で、すみません……この御恩は一生忘れません!あ、でも明日からエルヴィーラのお菓子は、どうしたら……。
アレクシアが密かに心の中で謝罪している中、フィリベールはドリスに引きずられる様にして、何処かへ連れて行かれてしまった。
それにしても、ドリスがあんなにも力があるとは驚いた。大の大人の男を引きずる形で連れていくなど中々出来る事ではない。そう言えば、先日彼女と扉で押し問答になったが……あの時もかなり力が強かったのを覚えている。とても女性とは思えない……。
アレクシアが呆気に取られていると、モニカが真横に座り直して来た。
「モニカ、様?」
「シア……2人きりね」
手を握られ、思わず身体がびくりとなった。こんな至近距離で真っ直ぐに見つめられて、アレクシアの心臓は一瞬止まりそうになる。
「あ、あの」
「どうしたの、緊張しているの?……可愛い」
握られた手はそのままに、モニカはもう一方の手でアレクシアの頬に触れてきた。優しい手つきで何度も撫でられた後、唇を親指で撫でられる。
「ぷっくりとして、美味しそう……」
モニカから目が逸らせない……全身が熱くて、頭が真っ白になる。まるで金縛りになった様に身体が動かない。
抵抗しないアレクシアをいい事に、モニカは好き勝手にしてくる。握っていた手はいつの間にかアレクシアの腰に回され抱き寄せられる形になっていた。
そして、ゆっくりモニカの唇がアレクシアのそれに近づいてきて……そのまま触れたかに思えた瞬間。
「はい、そこまで」
パンッと、声と共に手を叩く音がした。




