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落ち着かない。
アレクシアは、目前に座っているモニカを盗み見る。見れば見るほど秀麗だ。まだ彼女と出会って何時も経っていないが、少し話しただけで分かる。彼女が、実に聡明である事が……。
「ごめんなさいね、私などのお相手をして貰って……つまらないでしょう?」
モニカは苦笑しながら、こちらを見ている。
「い、いえ、そのような事は決して……寧ろ卑しい身分の私などがモニカ様とこうしてお話しさせて頂くなど恐れ多く……」
アレクシアが言い終える前に、モニカに唇を人差し指で押さえられた。
「ダメよ。余り自分を卑下するような物言いは……貴女はとても素敵よ。聡明で優しくて、本当に……愛らしい」
まるで射抜かれる様な強い視線に、彼女から視線を逸らせない。自信に満ち溢れている、堂々とした笑み。
何かしら……。
鼓動が速い気がする……それに、心がざわめいていて落ち着かない。
指先で触れられている唇が、やけに熱い。
「ねぇ、シア。もっと私に貴女の事を教えて」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
あれは一体何だったのだろうか……。
アレクシアは昼間の事を思い出し、顔が熱くなった。あれからモニカと色々な話をした。モニカからは色々と質問されたが、あくまで侍女として答えた。まさか実は侯爵家の娘なんです、などと言える筈がない。
いや寧ろ話した所で信じて貰えないかも知れない。普通の感覚なら理解し難い事実だ……。それ程しょうもない事をしているという事をエルヴィーラも両親も全く理解出来ていない。
冗談ではなく本当に、頭が沸いているのかしらね。
「ねぇ、疲れた。肩揉んで」
その言葉にアレクシアは我に返った。エルヴィーラはベッドで横になりながら、こちらを見ていた。
本当にこの妹は、口を開けばろくな事をいわない。苛っとするが、断ればまた騒ぎ出す。自分の思い通りにならないと、喚き散らしながら暴れる……本当しょうもない。幼子でもまだましだろう。
内心ため息を吐きながらも、アレクシアはエルヴィーラに言われるがままに肩を揉み始めた。
「人気者って、困るわぁ」
妹はそんな言葉を洩らした。お茶会から戻って来てから、エルヴィーラはやたらに上機嫌だった。何かいい事でもあったのだろう。
「やっぱり、この美貌だから性別問わず魅了しちゃうのよねぇ……罪だわぁ」
切なそうにため息を吐く姿に、背筋がゾワゾワっとする……美貌、ね。
先程から同じような独り言を繰り返すエルヴィーラに、アレクシアは苦笑する他ない。もう少し、いやもっと己を顧みた方がいい……毎日鏡を見ている筈なのに、おかしい……。
エルヴィーラの使用している鏡に仕掛けでもあるのではないかと本気で疑いたくなってしまう。
それ程に、妹は自分というものを理解していない。まあ、全ての要因はあの両親の溺愛の所為なのだが。
「明日から愉しみが増えたわ」
意地の悪い笑みを浮かべるエルヴィーラに、何か不穏なものを感じた。
アレクシアは眉根を寄せる。まだ城に来てから、ひと月も経たない。後いく月もあるかと思うとぞっとする。兎に角平穏にやり過ごしたいというのがアレクシアの願いだ。面倒事など起こされたら堪ったものではない。
何か問題を起こさないといいのだけれど……。




