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早く帰ってくれないかしら……アレクシアは、切実に思った。
「あの、ですから私の様な一介の侍女が他家のお嬢様の話し相手などと、そんな事は恐れ多くて出来かねます」
扉を開けた先に立っていたのは、なんと初日に挨拶をした男爵家の侍女ドリスだった。最初はエルヴィーラをお茶会に誘いに来たかと思ったのだが……エルヴィーラは既に他の令嬢のお茶会へと行ってしまっていると伝えると……。
「そうなんだ。ならシアさんが来てくれない?モニカ様、未だご友人が1人も出来ないみたいで、話し相手になってあげて欲しいの!」
ドリスの主人であり友人のいない男爵令嬢のモニカ嬢が、どういった経緯でエルヴィーラを誘いに来たのかは謎だが……それよりも、エルヴィーラに代わって侍女の自分が何故お茶の席に赴かなければならないのか……そっちの方が謎過ぎる。
いくら友人がいないからといっても、他家の侍女を話し相手になどと……あり得ない。
アレクシアは不審な目をドリスへ向ける。だが彼女は強引に押し切るつもりのようで、頑として譲らない。
「少しだけでいいから!一刻!いえ、半刻!なんなら四半時でも!どう⁉︎」
どうと、言われても……。何かの押し売りの様だと思った。
「申し訳ないのですが、私の様な礼儀もなっていない侍女が相手では、モニカ様に粗相があってはなりませんので……これで」
そう言ってアレクシアは素早く扉を閉めようとするが、もの凄い勢いで扉を掴まれる。
「ま、まって!ちょっとだけだから!」
「いえ、本当に私には身にあまる事ですから!遠慮致します!」
ギッギッー。
扉を閉めたいのに、ドリスがどうやっても離さない。
絶対に行きたくない。何か裏がありそうで嫌だ、とアレクシアも頑として譲らなかった。
「お願いっ!ね、ね⁉︎」
ドリスの必死さにアレクシアが根負けしそうになった時だった。
「何してるの」
ドリスの背後から声と共に現れたのは、長身で美しく凛々しい女性だった。少し声は低めで落ち着いている。
「モニカ様!」
瞬間ドリスが叫んだ。
まさか……この方が、男爵令嬢のモニカ様……?
アレクシアは呆然として、思わず扉から手を離してしまった。その瞬間扉は勢いよく外側に開き、全開になる。
想像していた方と、まるで違った。友人が1人もいないと聞いたので勝手に、弱々しく内向的な令嬢を思い浮かべたが……なんというか、強そうだ。
悪い意味ではなく、堂々とした雰囲気で高貴なものを感じる。
不思議……。
「中々、ドリスが戻らないから心配になって見にきたの」
「モニカ様、それがシアさんがモニカ様のお茶の席にはご一緒したくないと仰っておりまして」
ピシリとアレクシアは固まった。何故そんな誤解の生まれそうな物言いをするのだろうか。それでは、アレクシアがモニカを拒否している事になり、失礼極まりない……。
「……そう、それなら仕方がないわね。無理を言ってごめんなさいね、シアさん」
「い、いえ……その」
見るからに落胆しているモニカに、アレクシアはどう返事をすればいいものかと悩み……罪悪感でいっぱいになった。
「お手間をおかけしました。それでは……」
モニカとドリスが踵を返し、歩き出した時アレクシアは、気付けば呼び止めていた。
「あ、あの、私で宜しければ……ご一緒させて下さい」
口が勝手に、動いていた。




