3-2
やはり5日単位で投稿が一番落ち着きます
出来る限り投稿したいとは思いますが難しいこともあるやもしれませんね
その日帰還した魔騎士団員の報告を団長室で受けた近衛隊長カイヴァス=フォア=イガレスは報告内容に驚いていた。
そばには副官が立っており彼もまた驚いていた。
「我が近衛隊随一の追跡者に気が付くというだけでも驚きなのに身のこなしにスキがなかったというのは相当の手練れという噂は本当だったということだな」
副官は頷いた。
手に持っていた報告書を見つつ付け足すように報告する。
「そのようですね私のほうでも姉のエルナからそれとなく聞いてみたのですが実力は本物のようです。姉と実戦で戦ったことがよくあるとのことですが最近はエルナでも勝ててないそうで実力に差が出ているのだとか」
「クリスティーナ殿下の話では魔術師としても上位の実力を持っているらしい。警護の兵からもそう報告されている」
「文武両道というわけですか」
カイヴァスは頷いた。
「しかも本人は姫のことを気にもかけていないらしいから驚きだ」
「いくら道中身元を知らなかったとはいえ姫と知れば大抵のものは態度を変えるものだがそれもないようですし…」
「迷惑と断じたらしい。その上、兵たちの話では人の上に立てるだけの判断と知識もあり素質もあるようだぞ」
「それで迷惑と言い放つとは、無欲…ですね」
「…うむ。しかもかのマリノス公の次男という立場。後継ぎではないところから見ても婿候補としても問題はない」
「そうですね。マリノス公も貴族。しかも本人はエルナと同じ覇王様の末裔。しかも十七歳の殿下とそう歳も変わらないうえに成人したばかりということもあってか婚約者もいないようですし」
「意中の相手もいないようだ。頭の痛いところだが国王陛下にはこのまま事実を報告するしかないな」
リュウは自身も知らないうちに婿候補にされていた。
本人の予想通り厄介事になっていたのである。
リュウは王都に到着してから強い自動浄化スキルを発動しつつ数日間ギルド依頼の魔物討伐に精を出していたが、王都の魔素の乱れが改善の兆しが全くないのに違和感を強くしていた。
王都に滞在している間に王都中を散策したが気になることが一つ出ていた。
それは城に近ければ近いほど魔素の乱れは濃くなっていたことだ。
そのためリュウは人為的な魔素の乱れではないかと予想していた。
通常の乱れによる汚れではなく人為的な穢れが城に近づくほど多くなっているからだ。
人為的な魔素の穢れは自動浄化では癒せないのは知っていた。
スキルとして意識的に使わなければ穢れは癒せないのだ。
穢れの中心は恐らく城の内部にあるので今のリュウでは立ち入れない以上どうしようもなかった。
なんとか城を調べる必要があるが部外者を入れてもらえるほど緩い警備ではないだろうしな
意図的だとして何が目的か…
リュウは姉エルナから今日は家にいてほしいと頼まれ留守番をしていた。さりとてすることもなく魔素に関する思考にはまっていた。
姉には城に穢れがあることは言っていたので上司と相談するからと留守番だ。
この国の外からの可能性は高いだろうな。魔素が乱れれば乱れるほど人心も魔法も乱れる。すでに回復魔法が効き辛いと言っていた。俺には穢れによる弱体化は関係ないが他の僧侶たちには致命的だ。
それだけではない。穢れもここまでくると王都内に魔物が発生する可能性もある。
一度発生すればおびただしい強力な魔物が大発生するだろう。
そうなればこの国の騎士たちでも難しくなるかもしれない。姉さんクラスの手練れが平均的な兵力なら問題はないがそうではないらしいからな。
先だって姉に聞いていたのだ。姉のような実力を持った人はたくさんいるのかと。
答えは違った。姉は近衛隊の中でも上位に位置する強さだそうだ。
魔素の穢れはすでにかなり厳しいほどの穢れがたまっている。
いつ魔物が発生しても実はおかしくない状況なのである。
いやな気配だ。空気が張っている気がする
いてもたってもいられなかった。
一度帰ってくるはずの姉は時間になっても帰ってこないばかりか、いやな気配だけは強くなる。
これは魔物が発生している可能性が高い。おそらくは城の内部。発生していれば帰宅どころではない。クリスは大丈夫か?心配になってきたな…
意を決してリュウは施錠をして家を出た。行先は城だ。門前払いでもいいと思った。
だが家を出てすぐ近衛隊と思われる騎士たちが俺に声をかけてきた。
かなり慌てている。それだけですぐ事態は把握できた。
「リュウ=クドウ=マリノス様ですね。お力を貸していただけませんか」
言いたいことはわかっているがあえて聞いた。
「騎士団の方が何故?」
「リュウさんの技量はエルナ殿より聞いています」
「エルナ殿より伝言です。そこに行けないから城まで来い。最悪の事態だ、と」
「それだけ言えばわかるといわれここまで来ました。入城許可は上司よりいただいております」
「わかった」
俺は頷き騎士たちと共に城へと向かった。
城への道中騎士たちから城の状況を聞いていた。
玉座に向かう廊下からおびただしい魔物が大発生しているという。
玉座の間には国王とクリスティーナ姫と数人の衛兵がいるが魔物に阻まれ安全を確認できないという。
回復薬が効き辛く回復魔法の使い手も数が少なく手が足りないという。
ギルドからも数人の手練れに協力してもらっているという。
主にBランクまでの手練れだ。Cからは俺だけだという。二つ名持ちな上に親族に騎士がいるからだろう。
城に到着し門をくぐるとそこは地獄のようだった。
死者こそ出てはいないが回復が追い付かず野戦病院化していた。
城に入る前に一度立ち止まる。このままではいずれ死者が出ることは予想できた。
『ラ・ヒーラー』
中級範囲回復呪文を唱えた。周囲のけが人が回復していった。
「内部は効いていないはずだ。急ごう」
「は、はい!」
ついてきた近衛隊の騎士たちはリュウの回復呪文のすごさに驚いているようだったがお構いなしに城の内部に入っていくリュウの後を追っていく。
内部に入ってすぐにおびただしい魔物の気配を感じ修羅を抜く。
扉の先は大広間になっていた。そこかしこに戦闘の音がする。リュウは修羅を手に警戒しつつ先に進む。
最奥に扉があった。豪華な扉で明らかに玉座に通じる扉と分かった。扉は開け放たれており扉の向こうは廊下になっているようだった。
「あそこか」
「ええ、あの向こうにはエルナ殿もいるはず」
「わかった。俺だけでいこう。非常事態だから構わないだろう?」
「もちろんです。俺たちはここの制圧に協力するつもりです」
「お願いします」
彼らは己の技量を知っているようだった。俺と別れて走ってゆく。
俺はといえば先には進まず、まずはここで戦う彼らの補助もするつもりだった。
修羅を収めて杖を念じ、取り出す。現れた叡智の魔導をにぎり振りかざす。
『ブレイブ・フォア・エクステンション』『マジック・フォア・エクステンション』
聖呪文の物理強化と魔法強化呪文を大広間中にいきわたらせるように使った。
だがいきわたったのは大広間ではなく城中になっていた。
「…どうも効果が高くなるな。杖のせいだがまあいい、今は都合がいいだろう」
先を急ぎ扉の向こうへとリュウは足を進めた。
魔素が濃くなるのを感じる。だがすぐそこが中心ではなさそうだ。その先…玉座か
杖を持ったまま扉をくぐった先にはエルナがいた。
「姉さん!」
「リュウか。この先に陛下とクリスティーナ姫と近衛隊長らがいらっしゃるんだが食い止めるので精一杯でな。安否が気にかかる」
「穢れの中心はここじゃない。この先だ。何事もなければいいが…」
「この先は玉座の間だぞ!」
「ここよりこの先のほうが危険だ」
俺は言い置き目の前にいる魔物、ヘビモスを見た。四つ足歩行のヘビモスは獣種にあたりBランク相当の魔物だ。
弱点は炎とでたのでギガファイアが指示に出てくるが、ここが狭いためそれは使わず中級のファイアボールを使うことにした。
『ファイアボール』
杖を魔物に向ける。
杖の先から極大の炎の塊が魔物めがけ飛び出し命中する。
魔物はその炎に威圧感のある叫び声をあげる。
エルナはその隙をついて持っていた剣を振りぬきとどめを刺した。
俺はそれを見届けてから杖をしまう。
エルナたちは玉座の間に急ぐ。
玉座の間へと通じる扉は無残に壊されていた。
壊された扉をよけつつ玉座の間に入ると先ほどのヘビモスの上位種キングヘビモスが入り口から背を向けるように居た。
俺は思わず声が出た。
「キングヘビモス…まずいな」
「ああ、コイツたしか攻撃魔法が効かないんじゃなかったかリュウ?」
俺は頷く。
「束縛系の呪文しか効かない。弱体化がわずかに効くだけだ」
俺は無意識に修羅を握った。キングヘビモスはAランクの魔物だ。
魔物の向こう側を見れば数人の兵たちに守られるように身なりの良い貴人とクリスがいた。
クリスを見つけて安堵している自分を自覚してしまった。
何考えてるんだ俺は!
気を取り直して周囲を観察し魔物のすぐ横には黒い禍々しい球体が空に浮かんでいた。
穢れの源か。呪術のようだな。あれを何とかしないとじり貧だ。呪術ということはやはり人為的な穢れだった
魔物がこちらに気が付いた。
「GAAAAAA」
威圧感のある雄叫びを上げる。威嚇するように口から熱を持ち始める。
「まずい!『アンチブレス』」
俺は反射的に魔物を取り囲むように結界を張った。
結界を張った直後、灼熱のブレスが吐き出される。結界に阻まれ周囲に被害はない。
ブレスで魔物の硬直するのを確認する前に俺は拘束呪文を繰り出した。
『ダークネス・チェイン』
漆黒の闇をまとったような禍々しい鎖が魔物を拘束してゆく。
魔物が拘束されるのを見るやエルナが剣を振り魔物に向かっていった。
エルナの一撃が拘束された魔物に無防備に入る。
「GAAAAA」
痛みからか魔物は叫び声をあげる。
その声でほかの騎士たちも魔物に切り付けてゆく。
「今のうちに!」
俺は向こう側に声をあげる。
慌てて彼らはリュウの後ろに逃げてきた。
「けがは?」
「大したことはない」
近衛隊長と思われる人が返してきた。
「援護と守りを頼む」
彼は俺にそう言って魔物に向かっていった。
「しばらく動かないでください。退避結界を張る」
『セイント・フォース・エリア』
クリス達の周囲に半透明な結界が出来上がる。
安全を確保し騎士たちと魔物との戦闘を冷静に観察していた。
押しているが決定打に欠けているようだ。
防御が強すぎるのか
杖を召喚し手に握る。杖はもちろん叡智の魔導だ。
『アンチブレイブ・エクステンション』
魔物に向けて防御破壊呪文をくりだす。
効いたようだ。そのおかげか魔物は騎士たちの剣筋に傷を負いだした。
慎重に戦況を見極め、拘束呪文を途切れさせないように再び同じ拘束呪文を繰り出した。
『ダークネス・チェイン』
杖をしまった。
呪文でできることはやったので終わらせるのに修羅に手をかける。
「その場から動かないでください。動かなければ大丈夫」
ちらりと一瞬だけ背後の二人の貴人に目を向ける。
クリスが頷いたのを見て俺は修羅を握り鞘に納めたまま魔物に向かい構える。抜刀の構えだ。
早く終らせないと次が来る
そばにある穢れの源が力を徐々に強くしているからだ。
『ハイ・エンチャント・ブレイブ』
武器強化を修羅に施し動きが弱まった魔物に向かって飛び出す。
その動きはほかの騎士たちに比べ圧倒的な早さだった。
俺の行動を阻害するように魔物は巨大な腕を振り回し爪で俺をけん制するが俺は大きく体をかがめてやり過ごす。かがめた勢いで魔物の真下に飛び込んだ。
魔物は虚を突かれたのかリュウの繰り出す修羅に反応できなかった。
無防備な首めがけ鞘から修羅を下から上に引き抜き、抜刀した勢いで首を胴から切り離しにかかる。
だが頑丈な体は瀕死にはさせたが両断できなかった。
「ち」
俺は軽く舌打ちし、抜刀の勢いで宙に浮いた体を着地させる。その隙を狙ってか魔物は再び爪を俺に向けてきた。
紙一重で回避する。距離をとると決断を迫られる。
あれを使うか
修羅を肩の辺りにまで両手で持ち上げ腰を落とし魔物に向け構える。
この世界で習得した奥義ともいえる俺の抜刀技術の一つの構えだった。
その構えにエルナが反応して周囲に退避を指示した。
「皆、離れろ!」
俺が奥義の構えをとったことを知っていた。一斉に騎士たちは魔物から退避した。
それを見届けるように集中していた俺は一言呟いた。
「奥義・雫」
一瞬で再び魔物に寄ると一閃振りぬく。振りぬく勢いをそのまま向きをかえ二閃・三閃と繰り出し6回魔物を両断した。
魔法と抜刀技術の融合技。極限まで殺傷能力を高めた技だった。
勢いで魔物の体は宙に浮き幾重にも筋が魔物の体に刻まれていた。俺はそれを確認して一歩後退した。後退しないと魔物の体の下敷きになる可能性もあった。
その瞬間、魔物の体は原型をとどめないほどの肉塊になり、切り刻まれて床に落ちる。
見届けておれは血糊を振り払い修羅を鞘に納めた。
荒かった息を整えていると周囲の騎士たちは静まり返っていた。
視線が俺に集まっているので困った顔を浮かべた。
一瞬のことで決着がついたので騎士たちは勝どきのように歓声を挙げた。
魔物の体は霧散して消えた。ドロップ素材の牙を残して。
周囲は歓声をあげて騒がしかったが俺は警戒を解かなかった。
魔力のこりを気にしてステータスを開く。
やはり結構消費したか。このままでは浄化できんな。かといってハイキュアを使うにはのこりが多い
杖を召喚した。
周囲を見ると騎士たちはそれなりに満身創痍だった。
杖の最下部にある宝玉を床に意識的に接触させると玉座の間いっぱいに広がる大きな魔方陣が描かれた。
その場にいた一同は大きすぎる魔方陣に驚いていた。クリスが声を上げる。
「これ、まさか増幅の魔方陣?」
俺はその声を無視し目をつむり集中して杖に魔力を込める。
杖の上部にあった水晶が白く輝きだす。
『アルティメット・ラヒーラー』
俺の眼前に巨大な魔方陣が浮かび上がる。杖を両手で持ち振りかざす。床の魔方陣も白い輝きを放つ。久しぶりに陣込みの詠唱をした。
増幅されたその効果は抜群で、王都を覆うほどの範囲になり回復呪文である最上級範囲回復呪文を繰り出した。
桁違いの回復呪文を繰り出したことでさらに視線が集まったことはわかっていたが周囲を気にすることなくリュウは再び窓を出し魔力を確認した。
窓と杖をしまうと道具収納からハイキュアを取り出し飲み干す。
魔力が回復したのを実感して修羅を抜き、穢れの源に近づく。
不思議となぜか穢れの力を俺は勝手に一部を取り込んでしまった。
さすがに驚いたがそれどころではないので気を取り直した。
リュウの動きに最初に気が付いたのはエルナだった。
「やるのか?」
エルナを見た。
「ああ、後を頼む。これだけの規模だ。全力でなければ無理だ。全力でやれば意識も途切れる」
おって近衛隊長がリュウに気が付き、二人に近寄る。
「何をする気だ」
それは確認だった。
俺は簡潔に言った。
「この人為的な穢れの呪術を浄化するんだ」
「やはりそれは魔素の呪いか」
俺は頷いた。
「これをこのままにしておけば再び魔物がでる。封印するなり浄化するなりして無害化する必要がある」
「そんなことができるのか」
「できる。これの浄化は俺の使命だ。その為の旅だ」
「使命?」
「ああ、イヴから頼まれた使命ともいえる役割だ」
それ以上は言葉にしなかった。というよりできなかった。
穢れが再活性しつつあったからだ。
俺は全魔力をスキルに注ぎ込む。これだけの規模の穢れは全魔力を使わないと浄化できないからだ。
浄化スキルは集中する必要がある。修羅を久々に両手で持ち、向き合うように剣先を穢れに向けていた。
目を閉じ魔力が活性化し始める。
俺の体は浄化スキルの輝きによって光を周囲に放っていた。
それは一種神の降臨ともいえるほど神々しい輝きだった。
騒いでいた周囲もその光で静まり返る。
俺の体は浮いていた。
浄化の力の高ぶりを抑え込むように限界までため込む。
こらえるのが難しくなり自然と眉間が寄り厳しい顔になる。それでもこらえる。やがてイヴの力を内に感じるようになり限界が近いことを知る。
あふれそうになる力が限界まで溜まったのを感じ俺は目を見開く。
【浄化スキル発動準備完了】
脳内に声が響いた。はじめて聞いたが聞き覚えがあると思えばイヴの声だった。
『発動』
声に出ていた。
俺は無意識に穢れに修羅の剣先を振り下ろし二つに割った。
あふれる光は建物を貫き王都中に輝きをもたらした。
浮いていた俺の体は浄化の終息と共に地面に降りる。修羅が手から滑り音をたてて床に落ちる。
俺は心身ともに力を使い果たし輝きが収まると同時にその場に崩れ落ち意識を失ったのだった。