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異世界に戻った異世界賢者の備忘録  作者: 夏
1章 転生と継承
5/98

3-1



王都に到着して早々に俺は空気の悪さに眉根をしかめた。

 空気というより魔素が汚れているな。不自然なほど汚れている…なにかあるのか?

そんな王都の印象をもったリュウだったが、そんなことは気にしていないようにクリスが声をかけてきた。

「護衛ありがとうね。オークに囲まれたときは困ったけどリュウのおかげで無事帰ってこられたわ」

「依頼完了というわけだな」

「ええ、残念だけどね」

「職のことは口外しないでほしい。報酬はいらないからそれだけ頼む」

「無欲ね、リュウは。その気になれば名誉も地位も思うままだと思うのに…」

「地位や名声なんかいらないんだ。気ままに旅がしたいからな」

「そう。でもこの後どうするのか予定あるの?」

「王都には姉が騎士として仕官してるから顔を出すつもりだ」

「へぇ、女性騎士?珍しいわね」

「珍しいかもな。でも、それなりに名は通ってるはずだ。《疾風のエルナ》といえば…ね」

「疾風のエルナってエルナ=マリノスのことよね」

「ああ」

「貴方、マリノス家の人間だったの?」

「何のことだ?俺はリュウ=クドウ=マリノス。マリノスの家をしっているのか?」

「知ってるも何も…!」

「?」

俺はクリスが、何が言いたいのかよくわかっていなかった。

「……貴方、御父上のことを知らないのね」

「まぁ、父は寡黙なほうであまり過去はしゃべらないから」

「御父上のことを知らないもしかたないのかもしれないけど…驚いたわ」

「…父は王都では有名なのか?」

「有名も有名よ。救国の宰相として王都で知らない人はいないわ」

「まじか」

聞くと父は十六年前にこの国を襲った魔物大襲来と大飢饉を短期間でいなし、救い立て直したという。人に歴史ありだ。


事情を聞いて驚いていると遠くから騎士たちが駆け寄ってきた。それも大人数である。

「クリスティーナ姫。ご無事でしたか」

「お迎えありがとう。無事王都に帰ってきたわ」

「クリスティーナ?」

俺が不思議な顔をしているとクリスは笑みを浮かべた。

「私の名前はクリスティーナ=フォン=ヴェリアス。この国の第二王女の称号を持ってるの」

「え」

「驚かせてごめんなさい。警護の関係で王女であることは隠さなければいけなかったのよ」

「ああ、そういうことか。それは仕方ないな」

「お互いの身元に驚かされたわね」

「はは…」

苦笑するしかなかった。

「報酬はお姉さんを経由させてもらうわね」

「ああ、それでいいよ。じゃあこれでお別れだな」

俺は別れの握手を差し出した。

クリスは無言で手を握る、がクリスは握ったまま強く腕を引っ張った。

不意のことでおれは前かがみに体が傾く。傾くと同時にクリスの顔が目の前にあった。

唇が柔らかい感触に触れる。


俺は頭が真っ白になった。

その間、数秒あっただろうか。されるままにキスをされていた。


思考が戻るとクリスの肩を押して距離をとる。

「なにするんだ」

無意識に口を拭っていた。

クリスは極上ともいえる笑みを浮かべていた。

「わたし、あなたが好きよ。だから逃がさないから」

「は?」

クリスは用が済んだとばかりに騎士と共に歩を進め城に向かって立ち去った。

あとに残された俺は茫然と立ちすくむしか、しばらくできなかった。

「なんなんだよ…」



気を取り直して事前に知っていた姉エルナの住居へと向かう。

「ここか。随分と立派な建物だな」

 この時間は留守かもしれないな。時間的に勤務中な気がする

ドアについていた取っ手を握りノックをしてみるがだれも応答しない。

 やはり留守か。先にギルドに行ってからもう一度来よう。宿も調べておくか

引き返そうと踵を返して数歩歩くと見慣れた姿を見つけた。

「姉さん!」

姉は手に食料を抱えていた。すぐそこの食料店で買い物をしていたらしい。

「リュウ?」

「よかった。すれ違わなくて済んだ」

「いつ王都に?」

「さっき到着したばかりだ」

俺は姉の荷物を持った。

「ありがとう」

鍵を開けて姉が家に入る。

「まあ、遠慮するな」

「一人暮らしのわりに立派な家だなぁ」

家の中を見まわしての感想だった。

「ああ、最近、近衛隊に配属されたのさ。その時に持ち家を持つことになってな」

「そうなんだ。それでか、最近忙しそうで帰ってこなかったから」

ダイニングテーブルをはさんで座る。

「ああ、そうなんだ。近衛に移って仕事が増えたからな。リュウ、成人の儀を終えたんだって?」

俺は頷いた。

「母さんがっかりしてたよ。皆揃わなかったのが残念だって」

「はは、私もそうだよ。お前の儀式の姿を見れなかったのはな」

姉は言って俺に紅茶を持ってきた。

「ありがとう」

一口飲むと少し安堵が出た。無意識に警戒していたらしい。

それは姉も気が付いていたのか笑った。

「やっと警戒を解いたな。お前らしいが…」

「あはは。王都について早々、ちょっとあって気が張ってたみたいだ」

「そうか。ところで今日の宿はどうするつもりだ?」

「まだ決めてない。姉さんにあえなかったら宿を探すつもりだったけどさ」

「ならちょうどいい、王都にいる間はここで寝泊りしろ」

「そうしてもらえると俺も助かる。宿代もばかにはできないし、何より王都周辺の魔素が随分荒れてるからしばらくは逗留しないといけないようだ」

「やはり荒れているか」

俺はまじめに頷いた。

「かなりやばいかも。ひょっとしたらもう影響が出ているかもしれない」

「強力な魔物がいるかもということか?」

「ああ、それも一匹や二匹じゃないだろう」

「心当たりがある」

「やっぱりか」

俺は言いつつ家を見ず『シーラ』の呪文を使って王都周辺を俯瞰する形で見ていた。

「王都全体が汚染された魔素で充満してる。息苦しいくらいだ。これでは人にも影響があるかもな」

「影響は出ている。すでに回復呪文が効き辛いと報告に上がっている」

「これだけ魔素が乱れているとなかなか浄化は効き辛い。全体に浄化スキルを使いたいところだけど、王都だと騒ぎになる」

「だな」

「長期を覚悟しないといけないかも」

「上司にお前のことを報告してもいいが説明に困るな」

「上司というと近衛隊の?」

「ああ」

「……。これ以上、王家にかかわりたくないなあ」

本音が出た。

「何かあったのか?」


俺は王都に来るまでに起こったことを説明した。

王女の護衛依頼とその王女に気に入られてしまったことなどだ。

「会いたくない」

俺は露骨に表情に出ていた。

エルナは爆笑したが気を取り直し真顔になる。

「散々王女殿下に振り回されたか。しかしリュウ、まずいかもしれないぞ」

「まずいって何が?」

「唇にキスされたといってたな。それは厄介だぞ」

「厄介?」

「ああ、王都では異性同士の唇へのキスは結婚へのアプローチとされている」

「え」

紡ぎだされた言葉に俺は驚いた。

「騎士たちの前でされたといっていたな。王女殿下はかなりお前に本気らしいな。今頃城では大騒ぎになっているぞ」

俺は額に手を当て思い出しただけで顔がゆがむ。振り払うように首を横に振った。

「第二王女殿下は良くも悪くもできるお方だからな。この国は女性も王位を継承できるが、第一王女殿下は病弱で王位は難しい。最有力王位継承者だ。えらいのに気にいられたな」

「…まじか。厄介なことになりそうだな。このままでは指名依頼もありそうだ…」

うんざりしていた。

「指名依頼といえばギルド登録したんだろう。ランクは何になった?」

姉は俺が未登録のままギルドに貢献していたことを知っているのでランクが初期のFではないことは予想していた。

「Cだ。確かDから指名依頼ができると聞いていたから気が滅入る」

指名依頼は名指しで依頼することで依頼者側は信用できる冒険者を調達できる。冒険者にとっても指名依頼は名を挙げる機会であり通常依頼より報酬もいいので冒険者にとっては一種のステイタスだ。

「ほうCか。あがったな。それだと国防にも任意で関わることになるな。近衛でもまれに依頼するランクもCが多い。…名が挙がるぞリュウ」

姉は俺の実力を知っているので即、名が売れることを指摘した。

「あまり名は通りたくないが、ある程度は諦めているよ。あ、そうだ。その護衛依頼報酬だけど姉さん経由でくるはずだから」

「それは構わないが聞いたのか、親父のこと」

俺は頷いた。

「びっくりしたよ。救国の宰相って聞かされてさ。もしかして知らなかったのは俺だけか?」

エルナは頷く。

「親父がな、自分のことは知らせるなと。のびのび育ってほしいからと言っていた」

「そうか…気を使ってくれていたのかなぁ」

「はは、いずれ自分のことは知るだろうけどお前の背負ってるものを考えたとき少しでもお前らしく生きてほしいからといっていたよ」

「……気を使いすぎだ」

「そうおもう。でもそれが親ってものだ」

エルナは笑みを浮かべた。


おれは王都にしばらく滞在することに決め、滞在中はエルナ姉さんの家で寝泊りを決めたのだった。



翌日、おれは早速王都にあるギルドに顔を出した。

Cランクの依頼書を見ると魔物討伐に事欠かないほど大量にあった。

 想定以上に多いな

その中でも一枚気になる魔物があった。

 見たことないな。この魔物…トカゲ?

図鑑を使い調べるとウォータードラゴンとあった。

 ドラゴンというわりにブレスのない奴だ。生息場所からCになったらしいな。雷弱点ね。だが物理が効きにくいとあるな。魔法か。依頼書には西の山頂の水源に生息とあるな。飛行呪文『フライ』をつかえばすぐか

西の山頂がどこかがわからないのでひとまずギルドを出て『シーラ』をかけると、さほど遠くない位置に山がある。

よく見ると山頂に情報通り水源があるようだ。集中するとそれらしいドラゴンがいるのが見えた。

 これくらいの距離なら『フライ』でも問題なさそうだな。早速受けるか

即断してギルドに入り依頼を受ける。

受けるときはカウンターに行き、登録カードと共に依頼書を提出して完了。

さすがに一人なのが心配されたがここでもある程度俺の名は通っているらしいのか俺だと知ると笑顔で送り出された。


この国のギルドではどうやら有名になっているらしいことを知る。CランクどころかAランクでも通じる実力者としてギルドに通達がいっているとのこと。なんだかなぁ。

 フライは目立つから門を普通に出てから距離を置いて使うか

そう判断して王都の西門を出てある程度歩きだす。

『フライ』の呪文はかなり珍しく難易度の高い呪文らしいので王都で使うと目立つのだ。

ん?

王都では雑踏に紛れ気が付かなかったがどうやらつけられていることに気が付く。

 『フライ』を使えば振り切れるか

そう判断して山のふもとに近づいたところで討伐に向かうべく『フライ』を使った。

案の定、追ってはこられなかったらしい。

意識を討伐に集中させる。

短時間で山頂の水源上空に到着すると降りられそうな場所を見つけ降り立つ。

水源といっても湖のようだ。さほど深くないのかドラゴンの影を見つけた。

水源なはずの湖は内包する魔素がドラゴンのせいなのかかなり汚れていた。

この水が王都の一部に水源になっていて庶民の生活に利用されているがこの汚れでは利用しづらい、依頼も納得である。

 もう少し上におびき寄せないと魔法でも致命傷には難しいか

肉食とあったので、王都で食料用に持っていた生肉を水面近くに罠で浮かべ、気配をけしてかかるのを待った。

しばらく待つと罠の肉に目的のドラゴンが掛かる。

それを見届けてリュウは魔法を唱えた。

『サンダス!』

けたたましい轟音と共に雷がドラゴンに命中するとドラゴンは一撃で撃沈した。

「……弱くないか?いや呪文の威力があるのか」

自分の呪文の威力に改めて驚く。

ドラゴンの黒焦げが水に浮いていた。しばらくするとドロップ素材を残して霧散する。

素材を拾い、水源に浄化スキルを発動して汚れを取り払い、山を後にした。



ギルドに戻り依頼書とカードを出して討伐完了の報告を示しドロップ素材を見せる。

ギルド職員は脇にある水晶型の魔道具をちらりと見て色が変化しないのを確認すると笑みを浮かべ依頼書に済の判を押す。

水晶型の魔道具はいわゆるウソ発見器だ。どういう仕組みかは企業秘密だがかなり確実だ。

「さすがは《未完の貴公子》仕事が早いですね」

職員は報酬の金を差し出して感心していた。

「《未完の貴公子》ってなんだ?」

知らない言葉が出たので聞いてみる。

「ああ、リュウさまの二つ名ですよ。未成年なのにギルド貢献が素晴らしく実力もおありですし、さすがはマリノス家の血筋だということで《未完の貴公子》の二つ名がつけられているんですよ」

職員はなぜか俺を見てほんのり顔を赤らめた。

「…マジか…」

「マジですよ。最初は私もオーバーな二つ名と思っていたんですがご本人様にあって納得しました」

「納得?」

俺はよくわかっていなかった。

「はいリュウ様をみて納得しました。立ち振る舞いも気品がありますし、何と言いますかスキのない身のこなしも堂に入ったものです。しかも見目も整っておられる。貴公子も納得です」

職員はほほを赤らめじっと自分を見つめていた。

「………」

おれは金を受け取り、ギルドを後にした。

 王都にきて驚きの連続だ。俺に二つ名があるとは思ってもみなかったな

自分の見目がそれなりにいいのは自覚していたがそれほどとは思ってなかったからだ。

 厄介なことにならないといいが…

ため息が漏れた。


気を取り直しおれは王都の武具通りにやってきた。

時間も夕方ということもあり二つ目の依頼を受ける時間には向いておらず帰宅には早いと判断して武具を見てみたいと思ったのだ。

 鎧は要らないけど魔法耐性のあるローブが見たいな

今着ている服は村の民芸品に自分で軽くつけた魔法耐性があるだけだ。

俺がつけた耐性はそれなりにいいものだが、元になっている生地が魔法付与には向いていないので若干耐性が下がるのだ。

前世で纏っていたハイスペック服があるが公式用とでも言わんばかりに派手なので普通では着れない。欲しいのは通常で着れる防具だ。

いいのがなくても良い生地と付与に向く素材であればあとは自分で付与するだけなので比較的安価で済む。

しばらく武具店を見て回っていたが背後で視線を感じた。

どうやらまたも追跡されているのに気が付いた。

 どうするか。放置するのも気になる。追跡している理由を聞いてみてから決めるか。害になるなら闇魔法で記憶を消すなり処断すればいい

目のまえにある手ごろな通路に入ると土魔法の浮遊『レビタン』を使う。かなりの上空に浮遊した。

追跡者たちはしばらくすると追ってきたが俺の姿がないのに気が付き慌てていた。

服装から王国兵のようだった。

背後に回り退路を断つように降り立つ。手には愛刀修羅だ。

「ケガをしたくないなら動くな」

剣先を追跡者に向けて威嚇した。

俺の姿に驚き気が付いた追跡者たちは無害と示すように両手を挙げた。

「俺に何の用だ?」

警戒を解かず修羅を向けたまま質問をしてみた。

「気分を害されたのなら謝ります。貴公に危害は加えるつもりはありません。剣を収めてはもらえませんか」

俺は警戒を解かずに修羅は鞘にしまった。

「その気配、今朝の奴らと同じのようだな。何者だ?」

「我らはヴェリアス王国近衛隊魔騎士団所属の者です。貴公の人となりの調査が目的でした」

「近衛隊の魔騎士団といえばたしかエリートだろう。そんなエリート様がおれを?」

「はい、クリスティーナ殿下の件で調査していたのです」

「ほう。それはご苦労様だな。たかが一介の冒険者を調べなきゃならないとは宮仕えも大変なことだ」

「そういって頂けると幸いです。しかし追跡は腕に自信があったのですが、さすがは《未完の貴公子》様です。見つけられてしまうとは…」

「……」

「私共は上に貴公の人となりを伝え聞いているので調査は必要ないと言ったのですが、クリスティーナ殿下への国王のご寵愛は深く…」

「悪い虫かどうか判断するための調査というわけか」

「はい。すみませんでした」

「いや、気にはしていない。それに姫殿下にこれ以上接触する気は毛頭ない。というか来られても迷惑でしかないからな」

「…これ以上会う気はないと?」

「ああ。というか会いたくもない。振り回されるのは御免被る。上にそう報告してもらえるか」

「報告はそうさせてもらいますが、そのまま上が理解されるかはわかりかねます」

「理解しているつもりだ」

俺は言うとその場を立ち去った。



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