第47話:聖なる森のルーフセント
ハァ…ハァ…!!
タイランは砂漠地帯を疾走する。残る体力を振り絞って。
背中には、気を失った勇者アレクと、そのメンバーを背負っている。
幸い後ろから魔力を感じない。魔王ヴェルネの追随からは逃れられたのか?
だが、まだ気を抜けない。
タイランは、南の森林地帯を目指し、決死の覚悟で逃走する。
・・・
……………。
どのくらいの間、奔り続けたであろうか…。
ここは…どこまで来たのだろうか…。
タイランは息も絶え絶えに、俯きながら何とか重い足を進める。
もはや走る体力は残されていない。
顔を上げて、辺りを確認する。
追っ手はいない…。
ぼやける視界の片隅には、大きな黒い壁。
あれは…森!!
森の入り口を確認した途端、タイランの力がフッと抜ける。
そのまま崩れるように、タイランは倒れ落ちた。
・・・
ピチャ…。
冷たい雫が顔にかかる。
同時に、感じていた疲労感がスッと抜け、心地のいい感覚にタイランは目を覚ます。
「ここは?」
「お気づきになりましたか、タイラン様。」
「…ルーフセント。辿り着けたのか…。」
タイランが体を起こし、辺りを確認する。
ここは、以前に一度だけ来たことがある。
樹木に囲まれた静寂な集落。
青々とした葉が空を覆い、まるで屋根のようだ。
葉々の隙間から、太陽の木漏れ日が差し込み、集落を優しく照らしている。
ここは“ルーフセント”。
獣王国ガルガンティアの南の“迷いの森”の中の深くに在る、エルフの隠れ里だ。
「ご紹介が遅れました。私はエルフ族のセルテと申します。タイラン様には、このエルフの里を常日頃より護っていただき、深く感謝をしております。
セルテは麗しくお辞儀をする。
「先ほど、“精霊の森”の近くでタイラン様が倒れている様子を、里の者が発見致しました。誠に勝手ながら、介抱させて頂きました。」
「それは、ありがたい。他の皆は…?」
「お連れの皆様も、同様に介抱させて頂いております。女性の方々はタイラン様よりも傷が浅かったので、エルフの“霊薬”ですっかり元気になっておいでです。」
「勇者の連れか。そうだ!勇者は?勇者アレクはどうした!?」
「…お連れの男の方の事でしょうか…?その方でしたら、あちらで特別な介抱をさせて頂いております…。ですが…。」
セルテは俯き、言いにくそうに言う。
「…マナを…を感じないのです。あの方は人間ですよね?この世界の生き物は、魔王や魔物を除いて、みなマナを持っているものです。私達の“霊薬”は、そのマナを活性化することで、生命力に変えています。ですが、あの方からはマナを感じません…まるで抜け殻の様です。いくら“霊薬”を使っても傷が治らないのです…むしろ、残念ながら徐々に生命力が失われている様子です。」
「…。」
タイランは、アレクが治療を受けているであろう奥の間を見る。
あの、魔王ヴェルネの最後の攻撃…深い“闇”がアレクを包んだ。あれと、アレクの“マナ”の消失に関係があるのだろう。
「あの者は、“マナ”を奪われておる。」
タイランが遠い目をしていると、エルフの老人が一人、奥の間からこちらに歩いてくる。
「久しいな、タイラン。」
「ヨルデン様、お元気そうで何よりです。この度は、レオンを止めることができず、本当に申し訳御座いません。」
「よいのだ、タイラン。もともと我らの力不足が原因よ。エルフに“大樹”を護る力が足りなかったのじゃ。」
この精霊の森には、“大樹”がある。
“大樹は”、この世界に5つしかない「マナの遺跡」の1つだ。
“大樹”からはマナが溢れている。
エルフ族は、この“大樹”を長年護ってきた。
しかしながら、この“大樹”を巡って魔族の侵略は絶えず、エルフの軍力では対抗しきれない程であった。そこに隣国であるガルガンティアが協力し、共に魔族と戦っていたのである。
エルフ族の長ヨルデンは、奥の間を見て言う。
「あの者は勇者であろう。マナの器が異様に大きい。だが、何故だか…器が空なのじゃ。本来在るべき“マナ”がないのじゃ。」
「マナが…ない…?」
「そうじゃ。マナの器は、普通は空になることはない。この世界にはマナが溢れておるからの。何かが、あの者のマナを失わせたみたいじゃ。」
「ここに来る前、魔王ヴェルネという者と戦いになりました。ヴェルネは、何やら怪しい“箱”を開けた途端、アレクが闇に包まれました。その時からです、アレクのマナを感じなくなったのは…。」
「…箱!!?それは、黒く魔力を放った箱ではなかったかの?!」
「そうです。真っ黒な…嫌な感じのする箱でした。」
「そうか…魔王の手に渡っておったのか…。おそらく、それは初代魔王の“約櫃”じゃろうて…。マナの力を奪う、恐ろしい道具じゃ。とうの昔に封印された魔道具のはずじゃが…誰かが封印を解いたのか…。」
「それで、アレクは…アレクのマナの力は戻るのでしょうか。」
「…器はある。じゃが、マナが入らんのじゃ。この“精霊の森”はマナが濃い。儂の力で、何とかあの者の器を、この森のマナで満たそうと試みておるのじゃが…器に入らん。おそらく、これも“約櫃”の影響なのかの…。」
ヨルデンの周りに、精霊達が集まってきた。
精霊達は悲しそうに、ヨルデンの周りを飛び回る。
その中で、赤いトカゲのような精霊、サラマンダーがふっとヨルデンから離れ、奥の間に近づく。
「サラマンダーが泣いておる。あの者の生命力は、少しずつ失われていっておる。このままでは、もって数日の命となるじゃろう。」
「そんな…ヨルデン様、何とかなりませんか!アレクは、我々のガルガンティアを護るために戦ってくれたのです!!」
「…そうじゃな。精霊王様なら、何か知っておるやもしれん。」
「精霊王…言い伝えで聞いたことのある“マルナ”様のことでしょうか?神話の話ではないのですか?」
「マルナ様は実在しているのじゃよ。今も、“大樹”を護っていらっしゃる。我々エルフでも、滅多に会うことは叶わんがな。」
「精霊王マルナ様…どうやったら会えるので?」
「うーむ、お主に辿り着けるかの…。まずは大樹に行かねばならん。」
「ヨルデン様!私を大樹に連れて行ってください!!」
タイランは大樹に向かうことになった。
引き続き、不定期ですが更新できるように頑張ります。
今度とも宜しくお願い致します。




