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悪役令嬢は泣かされました02

 地雷気質の恐ろしさを再認識したため、その後はおとなしく過ごした。過ごす努力をしたが、ちょいちょいトラブルを起こしていた。

 王宮内で若く可愛らしいメイドが野蛮な騎士に無理に誘われていたため、騎士を魔法で吹っ飛ばした。

「まぁ、王宮の騎士ともあろう者が小娘の魔法一つで地面に寝てしまうなんて、まさか、そんなねぇ。所属は…、その鎧の色と紋章は第四歩兵中隊の方かしら?イーサン殿下にご報告しなくては」

 こういった時は王子の婚約者ってのを振りかざす、当然だ。大人の男に本気で襲ってこられたら撃退…できるかもしれないが面倒だ。

 後に若いメイドは王妃様の知り合いの娘で行儀見習いとして来ていた子爵家の令嬢と知った。この縁でメイドが必要な時は付き添ってもらうようになった。

 不埒な騎士の行いについても。

「騎士団は男所帯で人数も多いですから仕方ありませんわ。王宮内でか弱い女性を襲うような獣が現れても。えぇ、私はまだ子供ですが理解しているつもりですわ。己の欲求を抑えられない野蛮な騎士がいたとしても…、王宮内にケダモノがいるのならば、そのケダモノを退治する騎士団も必要となりますわね。あら、その騎士団も男所帯で…、やだわ解決策はないのかしら」

 第四歩兵中隊の中隊長は三十代半ばのイケメンだったが、その顔は真っ赤になりヒクヒクと引きつっていた。

 そんな中隊長にイーサンが同情的な声をかける。

「言い方はアレだが…、間違った事は言っていない。普段、女性と接する機会がなくとも、騎士たるものは己を律しなければ。そしてどれほど人数が多かろうと、部下が不祥事を起こせば上司たる中隊長の責任だ。幸い今回はジェシカのおかげで大事に至らず、母上も内々の処分で我慢すると言ってくれた」

 メイドに何かあれば王妃が黙っていなかった。そして王妃が動けば中隊長も良くて降格処分。役職がついたものはもれなく減給等の巻き添えをくらっただろう。

「まぁ、イーサン殿下、幸いとは聞き捨てなりませんわね。見知ら大男に覆いかぶされた乙女の気持ちがわかりますの?あなた方も一度、自分よりも大きな者に襲われてみれば良いわ」

 そのままネチネチと嫌味を言う。

 イーサンと中隊長、そして同席していた副隊長と書記官、イーサンの従者、護衛まで何故かおとなしく私の厭味を聞いていた。

 ここまでしても婚約破棄はされなかった。

 騎士団に楯突く令嬢とか駄目だろう。令嬢たるものもっとたおやかで清楚、可憐でなくては。

 ジェシカは年齢とともにあちこち成長し、魅惑の悪女ボディになっていた。顔は相変わらず派手なままで騎士団では『真紅の苛烈姫』と呼ばれている。

可憐ではなく、苛烈。

 熱心な信奉者がいるとかいないとか。

 ま、下僕となるのならののしってあげても良くってよ。

 などという趣味はないため、よほどの用がない限り騎士団には近づかないことにした。


 イーサンに『あまり騎士団に近づかないでくれ』と頼まれてコロコロと笑う。

「騎士団へ行く理由などございませんわ。騎士や文官の中には女性もいらっしゃいますが、私自身が混ざろうとは思いません」

 女性の地位向上のためになら動くけど。実際、見かけたり耳にしたりした時は現場に乗り込んで徹底的に厭味を炸裂させた。

 彼女達はおまえの憂さ晴らしのためにいるわけではない、対等な仕事仲間だ、仕事の邪魔をするな、恥を知れ、無能共。

 という事をわりとストレートに伝えている。

 言われた方は憤慨するものの、その場では私に言い負かされて終わり、そして信奉者となるか、信奉者たちによって粛正されるか。あまりにひどい時は騎士団をクビになるが、その後、復讐のために私の元へ訪れた者はいない。

 いつか報復されるかもとお父様に相談をしたら『心配しなくても大丈夫だよ。おまえはそのままで良いとイーサン殿下からも言われているからね。自分が正しいと思った道を真っすぐ進みなさい』と。

 いや、駄目でしょう。毒舌すぎでしょ?

「そんなことより殿下、まだ婚約を破棄してはいただけませんの?」

「破棄する理由がないだろう?」

「いいえ、ございますわ。まず我が家は伯爵家。王族に嫁ぐのならば公爵家か他国の姫君が望ましいはずですわ。それに私のこのふるまい。苛烈姫と呼ばれていることはご存知でしょう?」

「真紅の苛烈姫だね。ジェシカは赤が似合うから」

「赤しか似合いませんのよ、残念ながら、この派手な顔には」

「他の色も似合うと思うよ?例えば…、白とか」

 目を細めて笑う。

「私のために早く純白のドレスを着て欲しいな」

「白ならデビュタントの時に着ましたわ」

「そうだね。とても似合って可愛かった」

 白があまりにも似合わなくて、メイド達が着せるのに苦労していたあのドレス姿が可愛いと?自分でも『うわぁ』と思い、両親が苦笑し、弟達がそっと目をそらした、あのドレス姿が、本当に、可愛らしいと?

 目がおかしいのか、頭がおかしいのか、困ったものだ。

「ともかく、婚約破棄はいつでも受け入れますから決心したら早めにお願いいたします」

「ジェシカ…、私はまだ君にふさわしい男になれていないかな?」

 漆黒の髪と瞳のせいもあり、真面目で落ち着いた雰囲気だ。努力することを覚えたイーサンはあらゆることにその才能を発揮している。

 優秀すぎて家庭教師が『教えることがない』と予定の半分の日程で退散し、今は専門知識に特化した教師が交代で来ている。

 学園生活でも成績優秀で、剣技も魔法技術も他の追随を許さない。

 文句なく、最高の王子様だ。

「殿下…、ふさわしくないのは私の方です。私に王妃は務まりません。どうかご賢明な判断を」

 イーサンは困ったように笑い『君は謙虚だな』と言った。

 どうして、そうなる。


 物語は順調に進み、貴族ばかりが通う学園に平民であるヒロイン、デイジーが途中入学してきた。

 全属性の魔力を使いこなす天才だ。

 栗色の髪に薄茶色の瞳。これってヘーゼルの瞳ってやつかしら。緑がちょっと入っている気がする。

 今、私は真っ赤になっているヒロインの顔をまじまじと覗き込んでいた。

 そして、くるりと振り返る。

「箒のような髪と雑巾のような瞳とおっしゃったのは貴女かしら?」

 デイジーを取り囲んでいた公爵令嬢以下五人は私の迫力に押されつつも頷いた。

 この五人は皆、色に差はあれば大きなくくりで金髪、碧眼。貴族の中では多い色合いだ。

 公爵令嬢がずいっと前に出てきた。

「何の御用かしら、ジェシカ様。貴女は確かにイーサン殿下の婚約者だけど、まさか公爵家である私に意見するつもりではないでしょうね?」

 貴族内での階級は絶対だ。ただし学園内では階級を振りかざすなと言われている。

 学びの場では対等に。

 実際、難しいけどねっ、公爵家に喧嘩売るとか無理すぎる。

 ゆえににっこり笑って頷いた。

「もちろんですわ。ただ…、えぇ、私も『真紅の苛烈姫』などとありがたくもない異名を持つ者。箒のような髪と雑巾のような瞳と聞いて、黙ってはいられませんでしたの。よろしいですか?厭味というものはもっとえぐるような、心臓を突き刺すような、呼吸が止まるようなものでなければ、ダメージなどございません。お手本をみせましょう」

 にっこり笑って、右端の子爵令嬢からつつく。

「子爵家の三女で卒業後は六十歳になる侯爵様に嫁ぐとか。五人目の妻として。私にはとても務まりませんわ。初婚で四十歳以上も年上の方に嫁ぐなんて。あら、でも愛があれば大丈夫かしら。素敵な旦那様なのでしょうね。年齢よりもお若く見えるのかしら。禿げ上がっても太ってもいない美丈夫ならば、四十歳上でも全然、オッケーですわね」

 もちろん女性関係でイロイロと問題があり髪が寂しくおデブな老人だということは承知の上である。情報収集は貴族の基本だ。

 はい、次。

「貴女は私と同じ伯爵家ね。イーサン殿下の婚約者候補の一人…ではなかったわね。ごめんなさい。同じ伯爵家なのに候補には入らなかったわね。どうしてかしらぁ…。まさかお家が借金まみれで火の車、なんて理由じゃないわよね」

 ここの当主は有名なギャンブル狂いで、賭けが始まると我を忘れてつぎ込んでしまうため、そのうち娘も借金のカタで売り飛ばされるのではないかと言われている。

 三人目は男爵家で容姿に少々、難ありだった。容姿を貶めることは人として最低だが、このご令嬢は強奪系の食欲魔人。かの有名な『妖怪一口ちょうだい』であり公爵家令嬢と仲が良いことを武器に、気弱な少女たちからは一口どころか丸ごと昼食を貢がせている。わりと最低な女なので手加減はしない。

 そして四人目はサクッと後回しで。

 最期に公爵令嬢である。

「あらあら、お友達があれこれ言われているのに反論しないのかしら。意に染まぬ婚姻を止めてはあげないの?父親がギャンブル依存で明日にも潰れてしまうかもしれないお家を助けてあげないの?弱き者から強奪を繰り返す方を見て見ぬふりして放置しているのは何故かしら?それから…、四人で常日頃から一人をいじめているなんて、さすがは公爵家、随分と高尚な趣味をお持ちなのね」

 四人目が真っ青な顔で崩れ落ちた。

「貴女、座り込んで泣いているだけでは何も変わらないわよ。嫌なら言い返しなさい、家族に訴えなさい。退学して自領地に引っ込めばいいわ。長女なのだから領地経営の勉強をして婿をとり、いずれ家督を継ぐ弟を助けるのよ。結婚のアテがなければ修道院でもいいわ。この学園に残るのならばこのご令嬢達と離れられるようにイーサン殿下に頼んであげる」

 婚約破棄されるまでは、王太子の婚約者で未来の王妃だ。公爵家が何か仕掛けてくるのならば、戦ってもらおう、イーサンに!

 四人目の令嬢には言った方法以外にも選べる未来がいくつでもある。家族と相談をして自分で答えを出すようにと告げると、涙を拭いながら何度も頷いた。

「で、公爵令嬢様はどういった答えを出すのかしら。そうね、私なら…、あんな素行の悪い老人との結婚は全力で潰すわ。今後の夜会では裕福で優しい商人の息子が狙い目よ。侯爵との婚約破棄で発生する違約金を商人が払ってくれたら一番、良いけど、難しければ侯爵の素行調査をするわ」

 軽く情報収集しただけでも悪い噂が集まってくるような相手だ。ほぼ間違いなく犯罪にも手を染めている。

「ギャンブル依存のお父様はきっともう駄目ね。でも立派なお兄様がいるもの。お兄様には早く結婚していただいて、お父様には隠居してもらったほうが良いわ。田舎に引っ越して地元の人達と競馬やポーカーをする程度なら、許容範囲ではないかしら。ギャンブルの相手を最初から伯爵家で用意しておけば、なお、安心ね」

 決められた範囲内、金額内で遊ばせるのだ。田舎ならば掛け金はたかがしれている。王都で散財されることを思えばまし。

「それから貴女は…、残念ながら強制的になんとかするしかないわね。他人の食べ物を強奪するって相当よ?自分の頭がおかしいってわかってらっしゃるのかしら?きちんとどこかで食生活を管理してもらい、規則正しい生活を続けなければ長生きできないわ」

 最期に公爵家令嬢をもう一度、見つめる。

「おわかりかしら?箒のような髪と雑巾のような瞳って…、お粗末すぎますわよ。それにこういった平民の子はこの程度の嫌味など言われ慣れておりますもの。そうね、困らせるのなら…」

 デイジーの瞳を改めて正面から覗き込んだ。

「柔らかな栗色の髪に光が溶けてとてもきれいね。ヘーゼルの瞳も素敵だわ。あら、震えているの?顔も真っ赤だわ。可愛らしい子猫のようね。そうだわ。子猫ちゃんなら私が飼ってあげる。いいこと?今後、私以外の誰かが貴女を傷つけようとしたら、私が飼い主として守ってあげるから報告するのよ、いいわね?」

 デイジーはコクコクと素直に頷いた。

 いや、ここは頷いちゃ駄目でしょ、子猫ちゃんって、我ながら寒いわッ。

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