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悪辣殿下は嵐を呼びました03

 招待されたため、隣国にはすんなりと入れた。まずは王都に向かい、歓待を受けた後、現地へと視察に向かう。

 視察の同行者はヴァージルで、これは想定していたことだった。

「恥ずかしながら我が弟はついに善悪の判断もつかなくなってしまった。私を討つために戦力を集めている」

 国内ではあまりうまくいってないようで、国外から旅行者や今回のように使節団をそのまま拉致している。一か所に集め、洗脳しようとしているようだ。

 最終的には自爆の首輪でもつけて強制的にいうことを聞かせるのだろう。

「私と弟が表立って争えば、国内が乱れる。それは最終手段だと思っている」

「成功をお約束できませんが、できる限りのことはしますよ。こちらも我が国の魔法師を返してもらいたい」

「雨を降らせてもらうだけでも十分だというのに…、本当に申し訳ない」

「今回はまず魔法師の救出を優先させていただきますが、成功した暁には必ず雨を降らせます」

「必ず…か。我が国にも魔法師はいるが、そこまでの水は生み出せない。どうやっているのか想像もつかないな」

 想像などされたら、パトリシアが真っ赤になって真っ青になるだろう。

 私も想像してほしくない。

 あれは私のもので、指一本、触れられたくない。本音で言えば夜会でのダンスも男女問わず断りたい。頭の中まで覗けるのであれば、想像している頭ごと潰したい。

 すべてパトリシアが可愛すぎるせいであり、私の心が狭いわけではない。

「ところでパトリシア妃は同行されるのですか?不安なようなら城に残っていただいてもかまいませんが」

「パトリシアは連れていきます」

「とても仲がよろしいようですね。すこし羨ましいです」

「国内のゴタゴタが片付けば、すぐに婚約者も決まりますよ」

 第二王子からの攻撃が婚約者に向かう恐れがあるため、婚約者も決められない。

 普通の女性は荒事に耐えられないからな。

 その点、うちのパトリシアならば返り討ちにするだろう。実際、何人かはしているようだ。本人の自覚があるかどうかは別として。

 第一王子との会談を切り上げて、客室で待つパトリシアの元に向かう。

 部屋に入ると私の顔を見てパッと笑う。

 本当に可愛い。

 早くヴァージルを始末して、可愛がりたい。本音で言えば天候など関係なく思う存分可愛がりたいが、そのためにはどこか島をひとつ手に入れる必要があった。


 王宮に三日間滞在した後、干ばつに苦しんでいる地へと移動した。国からは馬車の世話のために御者を二人と護衛を六人、陰で四人。

 メイドは連れてきていない。パトリシアは長い髪をひとつにまとめて男装している。さすがに長剣は携帯していないがあちこちに武器を仕込んでいることだろう。生き物を殺すことには抵抗があるが、武器をあれこれ考える仕込むことは楽しいらしい。私にはわからない感覚だ。武器は戦うためのもので、戦えば殺すこともある。

「メイ様、馬車が目的地に到着したようです。屋敷…ですね。かなり大きな建物です。周囲を囲まれています。…百人はいるかと」

「わかった。こちらは国賓だ。すぐに殺されることはないだろう。魔法師達の位置が確認でき次第、動く」

 二人で馬車から降りると武装した兵に囲まれていた。

 少し驚いたふりをする。

「また随分とものものしいですね」

 ヴァージルが『抵抗すれば殺す』と。

「私達は雨を降らせるためにここまで来たのでは?」

「雨を降らせる方法はわかっている。その女、だろう?」

「確かにパトリシアが降らせていますが、彼女一人では無理です」

「それもわかっている」

 兵達が近づいて来て、私達を革のバンドで拘束した。

 これも想定内なので抵抗はしない。証拠とするために陰達が魔法具で記録しているはず。

「その女を抱けば、雨が降るのだろう?」

「いや…、君では無理です」

「パトリシア、殺されたくはないだろう?同じ第二王子…、いや私はこの国の王となる。王妃にしてやるから、私の元に来い」

「第一王子が王太子では?」

「この国の王も、王太子もオレが討つ!そして王になる!干ばつ続きのこの地で雨が降れば、国民人気もあがるだろう。異を唱えるものはいない」

 演説をかましながら悦に入っているヴァージルは放って、パトリシアに聞く。

「そろそろ良さそうかな?」

 パトリシアが力強く頷いた。

「はい!あの建物の下に地下牢があるようです。何人か巻き込むかもしれませんが…、ほとんど建物内には残っていないようなので」

 パトリシアが革で作られた拘束具を引きちぎった。

「邪魔な建物を壊します!」

 広さはどれほどだろうか。貴族の別荘…といった建物に向かってパトリシアが走り出した。建物に衝突すると思った瞬間、壁が砕け、吹き飛んだ。わぁ、建物って簡単に壊れるものなのだな。

 パトリシアの手にかかれば。

 ヴァージルがあっけにとられている。ヴァージルだけでなく推定百人の武装兵達も一歩も動けないでいた。

 その間に私についている陰達が現れ、拘束具を外す。パトリシアがあまりに簡単に引きちぎったので、護衛達もやろうとしたが無理だった。うん、無理だと思っていたよ。やはりうちのパトリシアは規格外だ。

「隠密部隊は地下牢に監禁されている人達を救出して」

 四人の陰が建物に向かい、それと入れ違いでパトリシアが戻ってくる。

「えっと、あとは…、全員、ぶっ飛ばして良いですよね?」

「もちろん」

「じゃ、行きます!皆さん、メイ様をよろしくお願いします!」

 普段は逆の布陣だが、今回は敵の人数が多い。御者二人は既に退避済で、護衛六人が私を守るように取り囲む。そして…、パトリシアが駆け巡る。地を蹴り、空を舞い、敵を戦闘不能にしていく。

 うん、電撃棒の威力はすごいね。使う機会がなかなかなかったが、今回、思う存分使えて良かったね。

 あっという間に半数が倒れ、中には逃げ出そうとした者もいたが、そろそろこの国の正規軍が到着する。もともとそういった作戦だ。

 パトリシアを見れば、電撃棒だけでなく物理的に…蹴りでも相手を沈めていた。

「相変わらず美しい蹴りだな。出会った時より威力が増している」

「そうですね。パトリシア妃が護衛を吹っ飛ばしたことは私も鮮明に覚えておりますよ」

「可愛かったなぁ…。今も可愛いけど」

「メイナード殿下は出会った時からパトリシア妃に夢中ですな」

「当然だよ。あんな子、世界中を探してもどこにもいない。可愛くて強くて素直だ」

 護衛達と昔話をしているとヴァージルが割って入ってきた。

「なんなんだ、あの女は!」

「私のパトリシアを気安く呼ぶな、見るな、近づくな」

「………ッ、女に戦わせて隠れている腰抜けめ!」

「私のパトリシアはとても強いからね。しかし…、君に関しては立場上、私が倒したほうがよさそうだ」

 剣を抜き、護衛達に『下がって』と指示を出す。

「他国の王族に怪我をさせたらあとが面倒だが、私なら君と同じ立場。我が妃を侮辱されたとでも言えば許されるだろう」

「面白い」

 ヴァージルも剣を抜いた。

 自身に身体強化、魔法防御、物理攻撃防御をかけると、ぶわっと強い魔力に包まれた。

 パトリシアの魔力か。防御魔法を重ねがけしてくれた。

「メイ様、そんなヤツ、ぶっ飛ばしちゃってください!でも殺しちゃ駄目ですよ!」

「わかっている」

「ふんっ、女に守られた腰抜けにオレが倒せるものか!」

 ヴァージルは体格が良く、鍛えているのがわかる。腕力に自信もあるのだろう。体格だけなら私より一回り大きい。しかし私達は『自分より大きな相手』と戦う術を知っている。

 力任せに振り回される剣を受け流し。

 圧縮した空気弾をがら空きのボディに叩き込んだ。

「がっ…!」

「実戦には剣の道も騎士道もない。卑怯だと言うなよ?その前に君達は百人で私達を囲んでいる」

 落ちたヴァージルの剣を拾い利き腕を地面に縫い留めた。

 悲鳴があがる。

「クソがッ、クソッ、抜け!殺す!てめぇ、殺してや…」

 見下ろした。

「うるさい」

 殺してやりたいのは、こちらのほうだ。パトリシアを抱く、だと?軽口でも許せるものではない。舌を抜くか、口を引き裂くか。

 見下ろす私の目から何かを感じ取ったのか黙った。そうそう、黙っていればここで殺しはしない。

 振り返れば視界に入る範囲内の敵兵達はすべて地面に倒れていた。

 パトリシアが駆けてくる。

「メイ様、ご無事ですか!?」

 剣を捨て、パトリシアを抱きしめた。

「防御魔法を重ねてくれただろう?今の私にはどんな剣も届かないよ」

「でも、心配でした…。次は私が戦います!」

「君は建物を壊して、百人をほぼ一人で倒しているだろう?電撃棒を使えて良かったね。楽しかったかい?」

「はい!でも弱すぎて、他の装備はあまり試せませんでした…」

 しょぼん…とした姿が愛らしい。

「そうか。それは残念だったね。なんならそこに転がっているヴァージルに使ってもいいよ?」

「え、やめておきます。私、あの人はちょっと…、生理的に無理です」

 心底、嫌そうな顔をした。近づきたくないようだ。

 ヴァージルの顔立ちは男らしく、きりっとあがった眉に通った鼻筋で美男子だ。目鼻立ちが濃いな、とは思うが女性には好かれるだろう。

「どこが無理なの?参考までに聞かせて」

「え、えっと…、あの………、顔が」

「顔が?」

 床に転がったヴァージルが聞き耳をたてている。面白いのでそのまま言わせてみた。

「顔が嫌いなの?美男子の部類だと思うけどな」

「でも………」

 ささやくように言った。

「顎が割れているの、無理です」

 笑った。

「そっか、顎が割れている男は無理か」

「セクシーだって言うメイドもいましたが…、あれ、セクシーですか?」

「さぁ。私は気にしたことがないからね。でも良かった。それなら私の顔は大丈夫ってことだね」

「メイ様はいつでもどこでも優しくてかっこいいです!」

「ありがとう。私のパティもとても可愛らしいよ」

 ギリギリと歯ぎしりするヴァージルの目の前でいちゃついていると正規軍が到着した。惨状に目を点にしていたが。

「あの、どうやって建物を破壊したのですか?」

「う~ん、国家機密、かな」

「そ、そうですか…。メイナード殿下のお国は強力な武器をお持ちなのですね」

 いずれバレるだろうが、今は面倒なので笑ってごまかしておく。そうこうするうちに地下牢から何人もの人達が現れた。

「パトリシア様!」

 可愛らしい女の子が子犬のように駆けてくる。女性二人を含む六人の魔法師達もやってきた。自分達の足で歩いているところを見れば、大きな怪我はなさそうだ。

「耳が壊れるかと思う破壊音を聞いて、絶対、パトリシア様がいらっしゃっていると思いました!」

 うん、正解。

「驚かせてごめんね。地下牢の入り口を探すのに、全部壊したほうが早いかと思って…。皆が無事で良かった。怪我はない?」

「はい!」

「じゃ、メイナード殿下にもお礼を言おうか」

 ハッと気がついて慌てて地面に膝をついた。

「申し訳ございません。ありがとうございました」

「ここは正式な場ではない。君達も疲れているだろう?さぁ、立ち上がって」

 私はそんなに心の狭い男では…狭い男ではあるが、旧友にまで礼儀を強要する気はない。今回はひどい目にもあっているからな。

 正規軍が用意した医療用テントへと向かい、健康状態を確認してもらう。幸い無茶なことはされていなかったようで、六人ともこのまま帰国できるという。

 他国からも何人か捕まっていたが、皆、無事だった。

「さてと、では我々は雨を降らせに行こうか」

 パトリシアがヒクッと顔をひきつらせた。

「あの…、どうしても、ですか?」

「他国とはいえ、苦しんでいるのは庶民だ。見捨てることはできない」

「そう、ですよね…。わかりました」

「頑張ろうね?」

 優しくささやく声に、耳を真っ赤にして頷いた。

 この程度ではまだ雨は降らない。

 楽しみだなぁ、目的地に到着したらどこまでやろうか。

 どこまで…、やれるかな?


 他国にまで赴き雨を降らせたアルヴァレス王国第二王子の話は瞬く間に広まった。干ばつで苦しむ国からの要請が多く舞い込み、先に調査団を派遣した後、危機的状況の国から優先的に回っている。

 実際、雨を降らせているのはパトリシアだが、パトリシアだけでは雨は降らない。

 遠く離れた国まで行くことに不安を唱える者もいたが。

「パトリシアがいて、どこに不安が?私のパトリシアなら、必ず私を無傷でこの国に帰してくれるよ」

 実際、雨を降らす力を狙って襲われることもあったが、すべて返り討ちにしていた。

 パトリシアという最強生物が、メイナード及び護衛にあたる騎士全体の力を底上げしている。アルヴァレス王国内では並の護衛騎士でも、他国に渡れば最強だ。

 しかし騎士達は『本当に強い生き物』を知っているため驕ることはなかった。

 メイナードとパトリシアの人気は他国でも凄まじいもので、どこに行っても歓迎される。

「パティ、旅はつらくない?」

 今までよりも遠くの国へと行くことになり、魔法で補助をしていたとしてもそれなりに行程日数がかかる。馬車を使えば座りっぱなしだ。

 優しく笑うメイナードにパトリシアは『大丈夫』と答え。

 夜、優しく…、言葉と態度は優しいのに困らせるようなことばかり命令するメイナードがつらい。というか恥ずかしい、そして嫌々ながらも従ってしまう自分に困っている。

 内心の葛藤は言葉にしなかったが、メイナードが何かを察したように笑い。

「今夜は何をしようか」

 と、呟いた言葉にパトリシアはこれ以上ないほど顔を赤くしていたが、この程度では雨が降らないと知っている。

 皆のために雨を降らせる。という大義名分のため、二人の新婚旅行は当分、終わりそうもなかった。

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