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悪役令嬢は嵐を呼びました03

 ヒロインがよくわからないまま、平穏な学園生活は過ぎ、殿下の卒業が近づいてきた。

 殿下は一歳年上だが、私は護衛として特別に同じ年での入学を許可されていた。貴族の場合、学力は家庭教師がなんとかしてくれる。そしてこの学園の最大の特徴、魔法に関しては教わるべきものがない。

 魔法の実技はメイナード殿下を抑えてトップだった。

 殿下をたてるべきでは…と思ったが。

「私のパトリシアがどれほど優秀か示してほしい」

 なんて言われたらね。

 単純なパトリシアの脳は『殿下に期待された』とお花畑になり、張り切ってぶっちぎりトップの力を見せた。でも頭の中身はポンコツなので、乙女ゲームでは脳筋騎士ポジションってところか。

 入学してすぐに騎士団長の息子に『女のくせに生意気な』と喧嘩をふっかけられたが、秒殺してご退場いただいたのでそこに収まった感じ。

 ちなみに賢い側近、侍従候補達は最初から私の事を受け入れてくれた。気の弱い子が『し、死にたくない、まだ死にたくない…』と呟いていたが、失礼な。可愛い男の子を殺す趣味はない。

 私が吹っ飛ばすのは権力を笠にきて威張り散らす者、魔力や腕力で弱者をいたぶる者だけ。破滅回避のために弱者を守って好感度も上げてきた。

 殿下の卒業とともにパトリシアも学園を去るが、破滅エンドはない。

 確信している。何故なら。


「あなたは…、どうして殿下の卒業パーティでドレスを着ないの」

 母に言われて『護衛だから』と答える。

「ひらひらした服は動きにくいのです」

「でも、パーティなのよ?」

「まぁ、そう言うな。このことは殿下も了承されている」

 そうなの。メイナード殿下がいいよって言ってくれたの、ほんと、大好き。

 おかげで殿下とお揃いに見える騎士服っぽいものとなった。特注品のヒールブーツを履いているため足が長く見える上に背も高くなっている。我ながらかっこいい。

「殿下も何がよくてこんな子を…」

 そりゃ、強いからに決まっている。

 準備が整ったところで殿下が迎えに来てくれた。いつもならば私が王宮にまで迎えに行くのだが『今夜は特別』なのだそうだ。

 卒業だからかな。

 今夜の殿下もとても凛々しくかっこいい。

「パトリシアの男装も見納めかな。いや、結婚をしても乗馬服ならありか」

「殿下の護衛を続ける限り、男装はやめませんよ」

「うーん、では王宮内では許可しよう。公務で外に出る時はドレスだよ」

「外の方が危険は多いのに…」

「公務となれば他に護衛が多くつく」

 手を差し出されて、ポケッと見つめてしまう。

「エスコートはさせてくれないの?」

 エスコート…、そうなるの…か?何か変な感じもしたが、素直に手を乗せた。並んで立つと頭半分、殿下の方が大きい。

 見上げると、目が合う。

「卒業後の予定は…」

「すぐに公務が始まるけど、結婚式は早めにとお願いしてある」

「そう、ですか」

 メイナード殿下の結婚。相手は誰だろう?

「楽しみだね。ウェディングドレスはもう準備に取り掛かっているから。兄上よりも早く結婚するのは申し訳ないが、私が我慢できそうもない」

「殿下…、そろそろ出発されませんと」

 父の咳払いで慌てて馬車に乗りこむ。お忍びではないため王家の豪華な馬車だ。

 殿下が結婚されたら、私は騎馬で付き添うことになるのかな。それはなかなかに苦痛を伴いそうで、周囲が落ち着いたら隠密部隊もいいなと思っていた。


 学園の卒業パーティは社交の場でもあるためとても華やかだ。学園長の挨拶や卒業生代表であるメイナード殿下の挨拶も簡単なもので、あとはダンス、会食の場となる。

 ゲームではパトリシアが大暴れしたせいでトラウマものの悪夢となったが、きっと大丈夫。天候も乱れ…ないはず。

 そもそもこの国は雨の少ない乾いた気候なのだ。王都は海に面しているが、少し離れれば乾燥した草原地帯が続く。山も遠く、森も少ない。その分、魔物も少ないのは助かるが、雨量が少なすぎると農作物の収穫に影響が出る。

 この国を支えている大半の人が農民だ。収穫が減れば困窮により混乱が起きる。

 そのため日照りの際には王宮にいる魔法師が駆けつけて強制的に雨を降らせている。

 なのに、豪雨に雷って、パトリシアの最期を壮絶なものとするためだとしても無理矢理すぎる。

 心の中で何度も『大丈夫』と繰り返す。

 殿下とは婚約をしていない。婚約者だからと付きまとっていたわけではなく、あくまでも護衛のために側にいた。

「パトリシア、ダンスは踊れるよね?」

「もちろん。私は頭を使うことはさっぱりですが、体を使うことに関しては恵まれましたので。ダンス教師も褒めてくださいました。男性パートも完璧です!」

「うん、女性パートは?」

「できますが…」

「私達が踊らないと、他の皆が踊れないからね」

 夜会では出席した貴族の中で一番、高位な者から踊ることが多い。今回はメイナード殿下しかいない。

「私でよろしいのですか?」

「他に誰がいるの」

 苦笑しながら手を引かれてホールの中央へと出ると、嫌でも視線を感じてしまう。

 いや、今はダンスに集中せねば。

 キリッと気を引き締めたが…、近い。殿下が近すぎる。

「あ、あの…」

「ダンスを踊るのに離れてどうするの」

「しかし」

「こっちを向いて、目線を合わせる。習ったよね?」

 ぶわわ…と頬が熱くなった。いや、耳まで熱く手足が震える。

「あ、あの…」

「早く結婚したいね」

「は…、あ?」

「子供は何人がいいかな。パトリシアは何人ほしい?」

「私は…、考えたことがないので。殿下の護衛騎士として一生を終えるつもりです」

「ではその辺りは私が考えよう」

「あの」

「何?」

 ほんと、顔が、近い。こんなに近づいて踊っていたら誤解される。

 ………誰に?

 殿下の婚約者ってそもそも誰?ヒロインは?

 ダンスが終わったらあれこれ聞こうと思ったが、立て続けに三曲も踊ってしまい、そこでやっと自分が婚約者である可能性に気が付いた。

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