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悪役令嬢は嵐を呼びました02

 これで婚約回避できた。と、思っていた。実際、父からは婚約したとは言われなかったし、誰からも説明がない。貴族としての教育、令嬢としての作法教育から完全に逃れられなかったが、武術訓練も続けてよし。と、言われたので我慢して受け入れた。

 男装も止められなかったので、学園には男の制服で通った。

 女性にしては背が高いほうだし、胸にはさらしを巻いている。きつい顔立ちなので違和感があまりなく、私を見てぽーっとのぼせてしまうご令嬢も多くいた。

 わかる、わかるよ。男装の麗人ってときめくよね、是非、ときめいてくれ。そしていざという時は味方になってくれ。と、ばかりに優しくした。

「パット様、お菓子を作ってきましたの」

「私、刺繍が得意で、パット様を想いハンカチに刺しましたの」

「パット様、是非、我が家のお茶会に来てくださいませ」

 パトリシア嬢ではなく、パット君はモテモテである。

 中には成績優秀、特待生として入学してきためっちゃ可愛い子もいてウハウハだ。可愛い女の子の手作りお菓子、美味しい。

 貴族としての付き合いや駆け引きがあるし、嫁に貰ってはやれないため自重はしているが『凛々しく優しい男』としてふるまうよう心掛けている。

 ご令嬢達も絶対に自分を傷つけない『男』は、疑似恋愛をする相手として最適だ。

 一線を越えても子供はできない。

 いや、越えないけどっ。かっこいいパット君でいる自分も好きだが、そんな趣味はない。

 誰にも言わないし悟られてもいないと思うが、普通にメイナード殿下の事が好きだった。

 男装をあっさり受け入れてくれたし、強いことも褒めてくれる。

 それもとびっきりあまい笑顔で。

「パトリシアが居てくれるおかげで自由に動けるよ。本当にパトリシアはいい子だね」

 こんな台詞を言われたら、もうっ。

 背中が痒くなるような台詞は少ないが、乙女ゲームの攻略対象となるほど凛々しい美形だ。何気ない仕草、台詞で私のハートを狙ってくる。そういった意味ではないと思うけど、信頼されているのは間違いない。

 常に側にいて、どこへ行くにも一緒だ。

 鎧を着た護衛とは異なり『ご学友』にしか見えず、実際、街の人達にも『貴族の息子達が遊びに来た』としか思っていない。護衛を多く引き連れた他の王族に比べると、かなり行動の制限が少ない。


「メイが羨ましいよ。私の学生時代は自由に動けなかった」

「兄上は王太子ですから立場が異なりますよ。ま、それを差し引いても私のパトリシアは優秀ですが」

「恐れ入ります」

 控えめに答えつつ、心の中では『でしょ?』と大はしゃぎである。

 パトリシアの武勇は王太子であるマティア殿下の耳にも届くほとだ。今やパトリシアを女と侮る者はいない。

 物理的にぶっ飛ばされるから。

「王室の隠密に指導するご令嬢など前代未聞だよ」

 マティア殿下にクスクス笑いながら言われる。

 そう、私の能力は騎士ではなく隠密の皆様にも活用していただいている。うっすら残った前世の知識から探索、隠蔽、感知…等々、繊細な調整が必要な魔法を多く開発したが、こういった魔法は騎士道精神とはかけ離れている。

 騎士は正面から正々堂々と戦うものだ。その戦い方でもパトリシアは強いが、普段はメイナード殿下の護衛なので常に探索魔法を展開し、不審な者が近づかないか警戒している。

 今も隠れている護衛の位置と動きは把握している。王太子には四人の護衛騎士と別に陰に四人、メイナード殿下は陰に二人。

 私が側にいる時は護衛騎士をつけていない。

 メイナード殿下のパトリシアに対する信頼がわかるよね。

「私達は王太子、いずれは王となる兄上を支えるためにいます。パトリシアがいればどこにでも行けます。兄様は安心して城でお待ちください」

 破滅エンドは遠慮したいが、外交のための国外行きや、国民のために魔物と戦うことは受け入れている。実際、パトリシアにはその力があった。

 前世の平和慣れした記憶のせいでもっと恐怖心があるかと思ったが、戦闘に関しては強心臓。怖いと思うよりも先に体が動く。魔物を殺すことに抵抗はあるが、必要なことだとどこか冷静に受け止めている。

 殺さなければ、殺される。この世界にはそういった生き物が…、人間も含めて多く存在している。

 マティア殿下とは王宮内での立ち話で、公務があるからと立ち去った。

 その後ろ姿を見送った後。

「兄上にはああいったが、パトリシアを危険な目に合わせたいわけではないからね」

「わかっております」

「本当は…、護衛もさせたくないけど、残念ながらパトリシア以上の適任がいない」

 その通りだ。パトリシアより賢い者達は多くいるが、強い者はいない。何人かに挑まれたが、すべて軽くいなしている。

 パトリシア、ほんと、最強すぎる。生き延びて、続編のラスボスとして登場してもおかしくない。

「私は殿下の剣であり、盾であることを望んでいます。殿下がご結婚された後も、護衛は続けたいと思っております。どうか末永くお側に置いてください」

「うん…、君ならそう願うと思っていたから、そのつもりで根回しはしている。ただね、結婚後も男装はちょっと外聞が悪いから」

 男装したままのほうがお嫁さんに誤解されないと思うが、男装したままだとお嫁さんが私に惚れる恐れがある…か?いや、ないとは思うが、新妻が男装の麗人を侍らせていると思われかねない。

 誤解されにくい服装といえば…、侍女か。メイド服ならおかしくないかな。


 戦闘用のメイド服を作ってもらった。ぱっと見た感じは王宮で働くメイド達と変わらないが、見えないところでの装備が異なる。

「まず、袖に仕込みナイフとワイヤー、靴も足先に強化素材を使い、踵は蹴りの威力が増すよう重くしました。それからスカートの下ですが…」

 殿下に装備を自慢…、いや確認してもらおうとしたところ、慌てて止められた。

「ま、待って、まくらなくていいからっ」

「でも、本当に凄いのはスカートの中で………」

「わかった、大丈夫、報告は聞いている」

 そうか。見せたかったのに。太ももに装着した特殊警棒ホルダー。

 警棒はシャキンッ…と伸びて剣になるのだ。電気を帯びやすい素材にしてもらったので雷魔法と合わせたら一振りで五人は戦闘不能にできる。

「メイド服姿も可愛らしいかと思って許可したけど…」

「ですよねっ。王宮のメイド服が可愛らしいので、チェンター公爵家のメイド服のデザインも変えてみました。同じにはできませんが、胸元とか…。この、胸を強調するようなエプロンのデザインは特に素晴らしいです、誰でも巨乳に見えます!」

「………うん」

 控えめに同意された。殿下も男の子だものね。女の子に興味を持ってもおかしくないが、真面目な性格だし立場もある。

「殿下、もしかして気になるご令嬢がいたりします?」

 勢いよく顔をあげて、全力で否定された。

「いない。いるわけがない」

「そう、ですか」

 でも…、既に学園には通っている。ヒロインとの接触はないのだろうか?

 ヒロインがどんな女の子かわからないが、きっとすごく可愛くて才能があって性格も良いはずだ。

 成績優秀で学費免除の特待生とかかもしれない。勉強ができる上に、女の子らしい趣味ももっていそう。

 パトリシアはあまり器用なほうではなく、刺繍を刺せば謎の物体ができる上に、いつの間にか他の布を巻き込んで刺している。詩集を読めば三秒で眠り、花を活ければ翌日には枯れる。一番、家人の反対にあったのがお菓子作り。

 カマドが爆発した。何故、爆発したのか謎だが、二度と厨房に入らないでくれと料理人達に泣いて頼まれた。

 逆にヒロインは刺繍とかお菓子作りとか得意そう。見た目もふわふわした可愛らしい子…のはず。

 嫉妬なんかしてはいけない。それは破滅の道とつながる。

 殿下が誰を選んだとしても、自分は剣として、盾として、騎士道精神で一生を捧げよう。

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