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悪役令嬢は〇〇しました[連載版/読切短編集]  作者: 幸智ボウロ(bouro)
悪役令嬢は入れ替わりました
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悪役令嬢は入れ替わりました02

 今やすっかりトリエナは嫌われ者だった。婚約者とはいえ嫌がる男につきまとっているのだから、女子はもちろん男子にも引かれている。

 レイモンドと話し合ったが。

「君が嫌がる理由がわからない。私達は婚約している。レイモンドは他の女性に優しくするべきではない。わかっているのか?私は王太子だぞ?それとも側室や妾を好きなだけ作れとでも?」

「レイモンド様が望むのなら…」

「ならば、体が元に戻ったらそうすればいい。私は愛人などいらないが、君が作りたいというのならば止めない。ただし、王宮内ではやめてくれ」

 何度目かの話し合いもまた険悪な雰囲気となってしまった。うまく伝えられないことがもどかしい。

 死ぬかもしれないと言えればよいが、言っても信じてもらえるかどうか。

「そんな…、作りません。そんなことはしません」

「君が今、やっていることはそういったことにつながると自覚してくれ。君が中途半端に優しくした女性達の親が、娘を献上しようとするかもしれない」

 今だってレイモンドの周囲にはギラギラした目のメイドや女官がいる。王太子としての地位もだが、見目麗しい男性…、前世風に言うのならば、イケメンと一回でもやれたらラッキー。という女性も混ざっている。

 肉食獣、怖い。

 ぶるっと震えると。

「トリエナ、何をそんなに恐れている?もしかして階段から落ちた時のこと?」

「………何かわかったのですか?」

 ため息をついて頷いた。

「実は犯人はわかっている。が、政治的な裏がないか探るために泳がせている」

「誰、ですか?もしかして…」

 このゲームのヒロイン、とか?トリエナを憎む相手などヒロインくらいしか心当たりがない。王子の婚約者として嫉妬はされても、公爵家に表立って喧嘩を売るような真似、普通はできない。親も全力で止める。

 厭味を言う程度ならば『受け取り方』や『誤解』で流せるが、直接的な暴力はフォローできない。やってしまえば、領地で謹慎か修道院送りとなる。

 華やかな貴族社会を愛するご令嬢達は、トリエナをチクチクといたぶることもまた娯楽として楽しんでいるのだ。

 とても迷惑だけど。

 そして自分の娘を本気で王太子妃にしようと狙っているのならば、学園内で中途半端な脅しなどしない。外出先で事故を装うか、夜会で醜聞まみれの罠に落とすか。確実に狙ってくる。

 そういった裏の思惑もなく短絡的な行動を起こしそうな人間は一人しかいない。

「心当たりがあるの?」

 迷ったが、知りたい気持ちもあり頷いた。

「グレンジャー伯爵家のシェリー様ではないでしょうか」

「知っていたのか?」

 驚いた顔をされて、首を横に振る。

「彼女は幼い頃は平民として育てられたと聞いております。貴族社会に疎いのでしょうが、その分、無邪気で愛らしいご令嬢のはず。成績も悪くなく、親しくしている男性が何人かいるのでは?レイモンド様のことも好ましいと思っているはずです」

「確かに何度か近づこうとしていたが、阻止してきた。ややこしいが、私の体に近づこうとしていたから、トリエナとして撃退してきた。驚いた、どうやって知った?君個人で情報屋でも雇っているのか?しかし、接触する機会はなかったはずだ」

 ヒロインを虐める悪役令嬢のスチールが頭に浮かぶ。内容はともかく視覚的にはゲーム通りの構図だ。私一人があらがったところで、今後も似たことが起きる…かも。

 これ以上、険悪な雰囲気になるよりは頭のおかしい女だと思われたほうがましだ。

 前世の記憶について正直に話した。

「夢のようなものですから、その通りに話が進むとは思っておりません。ただ…、シェリー嬢にしてみれば入学式当日はレイモンド様との出会いのイベントがあったはず。それが起きなかったため、衝動的に私を突き飛ばしたと思われます」

「なるほど。そして…、今の状況は君が夢に見たままだと」

 頷いた。

「嫌がるレイモンド様にそれはもうしつこく、たくましく、恐ろしい根性でつきまとっておりました…。結果的に私が『レイモンド様であること』に及び腰となったせいで、似た状況となっております」

「そうだね。何人かに『レイモンド様のご迷惑になるようなことはやめろ』と言われたよ。その度に『レイモンドが好きなのはトリエナただ一人!迷惑ではない、絶対に喜んでいる』と豪語してきたが…。見方を変えれば、とんでもない傲慢な令嬢だな」

 ははは…と笑われるが、笑い事ではない。

「もう、どうすれば良いのか…、わかりません。私に王太子役は無理です」

「しかし、中身を元に戻す方法など…」

 階段からもう一度、落ちるなんて真似はできない。本当に死んでしまうかもしれない。二人同時に同じような衝撃を受けるようなことって…、同時に頭を殴ってもらうとか?それも危険だ。

 体を傷つけずに、精神にだけ衝撃を与えるなど不可能としか思えない。

「よし、今夜は王宮に泊まろう!」

「………はい?」

 首を傾げた。

「二人並んで眠れば中身が入れ替わるかもしれない」

「それで元に戻れるでしょうか?」

 不安になってそっとメイドを見ると、冷静な彼女にしては困惑の表情を浮かべていたが。

「殿下にいくつか注意すべき点はございますが、戻る可能性もあるかと思います。それと、お嬢様の夢の記憶については心当たりがございます」

 幼少期、突然、寝込んだと思ったら急に聞き分けの良い子になっていた。

「謙虚で真面目、コツコツと退屈な努力を惜しまず続けられる姿に驚いたものです。しかし、私にとってはどちらのお嬢様もお守りすべき可愛らしい主人です」

 レイモンドが泣かせるようなことをすれば命をかけてでも守ると誓ってくれた。

 レイモンドの侍従にも目線で意見を求めると。

「ご結婚前ですが、この場合は致し方ないかと思われます。トリエナ様の名誉が傷つくことがないよう、細心の注意を払います」

 戻れるのならば、なんだってやってみたい。レイモンドの身に危険がないのなら反対する理由はない。

「心配しないで。君を傷つけるようなことはしない」

 どういった策なのかはわからないが、精神的に限界が近い。素直に頷いて、侍従の協力のもと二人一緒にレイモンドの私室で眠った。


 いつもとは違う目覚めだった。

 目を覚ますと端正なレイモンドの顔があって、声にならない悲鳴があがる。

 元に…、戻っていた。

 悔しいが、レイモンドの破廉恥この上ない作戦は成功していた。そりゃあ、衝撃を受けますとも、あんなことをされたのでは。

 嫁入り前なのにっ!

「ふふっ、目覚めてすぐにトリエナに会えるのはいいな。このままここで生活しないか?」

「む…、無理です、まだ、無理です」

 真っ赤になって言うと、嬉しそうに笑う。

「そうだね。やっと元に戻ったから、今日からは恋人としての時間を楽しみたいな。結婚も早くしたいけど」

「あ、あの…、シェリー嬢はどうなさるおつもりですか?」

「今のところ何もしないよ。君を階段から突き落としたことは許せないが、すでに事故として処理している」

「そう、ですか…」

「ただね、ここは夢の世界ではない。万能な世界ではないのだから、そう都合よく個人の思惑通りに事が運ぶことはないだろう」

 乙女ゲームの悪役令嬢だと気づいたが、それはそれとして婚約破棄されるまではと王太子妃になるための努力をしてきた。この世界で生き抜くために、必要なことを学び、他者の意見に耳を傾け、公爵家の娘として恥ずかしくないふるまいを心掛けた。

「高価な贈り物よりも、共に過ごす時間が欲しいと言ったトリエナだから、私も生涯をともに過ごそうと思えた。トリエナも同じだろう?私の顔と体をとても気に入っていることは昨夜、わかったが…」

 がばっと飛び起きて、顔めがけて枕を投げつけた。

「着替えてきます!」

 信じられない、ほんと、嫁入り前なのにっ!


 レイモンドにつきまとうトリエナ…は、いつの間にかレイモンドにつきまとわれるトリエナとなり、強引な色仕掛けに落ちただの、実は本当に相思相愛だったのでは…と、好き勝手に噂された。

 それも数カ月のことで落ち着いた。

 レイモンドも私も友達を作るには難しい立場だが、学園に通ううちにそれなりに親しい友人もできた。

 ヒロインであるシェリーは何人かの男子生徒を攻略したが、それは貴族令嬢としては致命的な醜聞となった。

 納得いかないが、男性の女遊びは…良くはないが、暗黙で許されることが多いが、男遊びは絶対に許されない。

 トリエナはただ一途にレイモンドだけを追いかけまわしていたし、婚約者だから醜聞とまではいかなかった。

 しかしシェリーの行動は許されたものではなく、徐々に遠巻きにされていった。

 おそらく彼女も前世の記憶持ちなのだろう。

 諸刃の剣となった前世の記憶は、今後、彼女を苦しめ続けるかもしれない。


「トリエナ、お茶にしよう」

 王宮での勉強会の後、お茶に誘われて素直について行く。お茶はサンルームに用意されていて、庭園を眺めるような位置に豪奢なソファが置かれていた。

 並んで座ろうとしたら腕を引かれて…、すとん…と膝の上に座ってしまう。

「レ、レイモンド様…」

「君の体の中にいるのも良かったが、君をこうして愛でるのも…、あ、この言い方は誤解されてしまうかな」

「知りません、降ろしてくださいっ」

「何故?こうすれば同じ目線だ」

 レイモンドの膝の上に座ったことで、確かに目線の高さがほぼ同じとなっている。

 しかし…、しかし、だ。

 私の中の岩子さんが、無理だと叫んでいるのだ。

「イワコサン?」

 聞き返されて、ハッとする。

「声に…出ておりましたか?」

「それは何?また夢の話?」

「いえ、あの…」

「何を言っても驚かないよ。教えて?」

 こんな恥ずかしいこと、絶対に言えないと思っていたが…言ってしまった。さすが攻略対象、定番の王子様キャラ、優しいのにちょっと強引とか、恋愛ど素人に抵抗できるわけがない。

「岩子さんは私の内面の人格で…」

「それも前世の記憶?夢の話?」

「迷走した上の、妄想上の人物です。岩子さんは容姿はちょっと難ありですが、気は優しくて力持ちで、食堂で働いています」

「そう、働き者の良い子なんだね。ではイワコサンの話でもしながらお茶にしようか」


 結局、膝の上に乗ったままお茶をすることになり、挙句、口元までお菓子を運ばれた。

 レイモンドは始終、楽しそうで。

「早く結婚したいね」

 なんて言われたけど、思わず全力で首を横に振ってしまい…、以降、ティータイムの度に膝の上に座るという羞恥プレイを強いられた。

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