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悪役令嬢は嵐を呼びました01

【あらすじ】乙女ゲームの世界に転生した悪役令嬢パトリシア。気性の激しさゆえにトラブル回避は難しい。破滅エンド回避の起死回生の策は、男装だった。最強の護衛騎士となり、殿下をお守りいたします!

 幼い頃からお転婆だった。運動神経が良く、ちょこまかと走り回って猿のように木に登る。

 公爵家の庭は広く、メイドが追い付けない速さで逃げ回り、勢いのまま池にダイブした。

 溺れた。

 当時、五歳。いくら運動神経が良くても活発でも、泳ぎは教わっていない。

 水の中でもがき苦しむうちに、以前にも同じことが…と思い出した。

 溺れたことがある。あの時は『学校のプールで、男子生徒にいきなり突き落とされたせい』だった。

 あふれた膨大な記憶と現実の狭間で、五歳の脳みそはすぐに限界を迎えた。

 目を覚ましてもすぐに気絶するように意識を失い、三カ月も寝込んでしまった。

 いっそこのまま寝込んでいたかったが、庭を走り回るほど活発な性質だ。部屋の外に出たい。でも、出たら絶対に巻き込まれる。

 乙女ゲームの世界に。

 私、チェンター公爵家の娘パトリシアは悪役令嬢だった。

 赤毛で瞳の色も赤味がかっている迫力ある美人…に成長予定。

 そのことは思い出せたが、いかんせん、ゲームの内容をよく覚えていない。よくある乙女ゲームで魔法学園に入学して、三年間で攻略対象を落とす。攻略対象はおそらく七、八人いて、パトリシアはヒロインをいじめる悪役令嬢の一人で、リーダー的存在だ。

 主要キャラの顔と名前はなんとなく思い出せたが、イベントは多すぎて無理。私はパトリシアの婚約者、この国の第二王子であるメイナード殿下が一番好きで、そのルートばかりやっていたのでパトリシアの悪行だけは思い出せたが…。

 メイナード殿下は黒髪の真面目キャラで、痒くなる台詞も少ない。ぞわぞわするような台詞を聞くためにゲームをしている人も多いと思うが、私の場合は通勤電車での暇つぶし。通勤途中に恥ずかしい台詞はやばい。顔面が崩壊する。

 何度もやったはずだが、転生のせいか細かな設定や台詞は思い出せなかった。前世の記憶だと確信をもって言えるが、細かなところは覚えていたり、いなかったり。学校に通っていたこと、社会人となり働いていたことは理解できても、具体的な家族構成や会社での業務がもやもやしている。

 ゲームの内容もそんな感じで、半分以上が抜け落ちている。

 ただパトリシアの結末だけは鮮明に思い出せた。

 メイナード殿下と親しく話すヒロインに嫉妬していじめまくり、メイナード殿下の卒業イベントで断罪された。

 婚約破棄されて激高し、暴れてパーティ会場を破壊した挙句逃亡して、最後は衛兵たちに追い詰められて崖から転落。何故か嵐となり豪雨とドカンドカン落ちる雷の中、呪いの咆哮をあげながら。

 ………大変、激しい女性である。

 激しすぎるよ、パトリシア。

 そしてこの気質は前世の記憶があったとしてもなかなか抑えきれるものではない。

 もちろんいじめなどしないし、弱い者もいじめない。絶対にしないが、おとなしく目立たないように生きられるのかと聞かれたら…、たぶん無理。

 屋敷の外に出たいし、元気に走り回りたいし、学校にだって行きたい。

 家柄を考えたらメイナード殿下との婚約は避けられず、婚約者となればヒロインとの接触も避けられない。

 だって、私は悪役令嬢………、令嬢?

 ひらめいた。

 そうか、令嬢だから婚約者に選ばれてしまうし、ヒロインとも敵対してしまうのだ。

 なら、令息になろう、うん、それならイケそうな気がする。


 成長した後で考えると無茶な作戦ではあったが、当時五歳。前世の記憶があったとしても五歳の脳みそで、戦闘力が抜きんでて高いが、学力は平均的なのだ。単純思考で考える前に行動してしまう。

 その時は良いこと思いついた…とばかりに実行に移した。

 五歳にしてメイドを振り切る脚力がある。

 そして魔法も使える。

 キツイ顔立ちなので、髪を切り男の子の服を着ればオッケー。まぁ、髪は切れなかったけどね。メイドに泣いて止められて、仕方なくひとつにまとめて縛るにとどめた。

 服装は『溺れないように』動きやすい服から始めて、成長にあわせて『乗馬のため』『護身術のため』と理由をつけて男の子っぽい服ばかりを着る。

 最初のうちは渋い顔をしていた両親だが、二、三年で父から指示が入るようになった。

「この子は武の天才かもしれん。魔力も子供にしては多い上に、覚えが異常に早い。座学は目も当てられないのに」

 才能があるのならば伸ばしてやりたいと思うのが親心。か、どうかわからないけど、父の許可が下りれば母は従うしかない。

 武術、魔術に関しても専門の教師がつき、体格差により不利を魔法で補う技も身につけた。

 そして十歳になる頃には立派な貴族令息が出来上がっていた。


「はじめまして。チェンター公爵家のパトリシアです」

 一歳年上のメイナード殿下は少し戸惑ったように『よろしく』と答えた。

「その…、今日、会う相手はチェンター公爵家のご令嬢だと聞いていたのだが」

「はい。私はチェンター家の子です」

「公爵家には確か…」

「兄が二人います」

「そうか」

「私のことは長女ではなく三男だと思っていただければ。殿下の剣となり、盾となり、必ずお守りいたします。あいにくと…、頭の出来はアレですが、身体能力と魔力には自信があります!」

「………」

 混乱しているようだった。しばらく考え込んだ後。

「何故、君はそのような姿を?」

「女性らしい行動の全てが苦手で、放棄しました。今は乗馬と剣術、体術、それから魔法も教わっております」

「一人で馬に乗れるのか?」

「遠乗りもしますよ」

 破滅エンドで国外逃亡もあるかもしれないからね、馬でいけるところまで行った後は、自力走行だ。脚力も鍛え、補助するための身体強化魔法も覚えた。

 最後の最後、本当に頼れるものは己の身についた力のみ!

「遠乗りもできるのか?私はまだ許されていない…」

「では、殿下が遠乗りされる際にはお供しましょう」

 コクコクと頷く。

「他には?剣術はわかるが…、体術とは具体的に何をするのだ?」

 私自身についている護衛を呼ぶ。

「殿下が体術を見たいそうだ」

「では派手なヤツがよさそうですね」

「そうだな」

 この国では柔道、空手…といった呼び名はなく、すべて体術とされているが、厳密には流派?がある。デモンストレーションならば空手のように打ち込みや蹴り技があるほうが良いだろう。

「お嬢、身体強化魔法、かけてくださいね」

「おまえに蹴られるほど鈍くない」

「だから、オレに。お嬢の蹴り、まともにくらったら骨がいかれます」

「私に技を教えたのはおまえだろう。避ければいい」

「いえ、それだと見ているほうがつまらないかと」

 ちょっと考えて、確かに…と身体強化魔法をかけてやる。これで技がまともに入っても、骨折まではしない。

「では、やるとするか」

 軽く体をほぐした後、護衛と組み手を始めた。


 実戦ならば大技は命取りだが、他人に見せるのならば派手なほうが良い。飛び蹴りとか回し蹴りとか。大きな男相手なので、自身に風魔法を使って空を飛び、斜め上から蹴りをいれる。

 護衛の男が吹っ飛んだところで終わらせた。

「こんな感じです」

 殿下は目をキラキラさせていた。

「すごいな。かっこよかった!」

「実戦ではこんな派手な蹴りは使えませんが、護衛とは何度も稽古をしているので可能です。習い始めの頃は派手な技ばかりやりたがり、何度も痛い目をみました」

 殿下がくるりと振り返って自分の護衛に聞く。

「どう思う?」

 すこし戸惑いつつ答える。

「殿下にお見せするために派手な技で構成していたとは思いますが、それを差し引いても素晴らしい身体能力と技術かと思われます。特に体の動きを補助する魔法の使い方が素晴らしい」

「魔法、使っていたのか?」

「身体強化と防御、それに高く飛ぶため、着地の際に風魔法を使っていたようです。蹴りの威力を損なわない完璧な調整です」

 その通り。パトリシアは戦闘力が異常に高い。なんせパーティ会場を一人で大破するほどで、逃亡の際には騎士が何人もやられている。令嬢としての教育しか受けていなくても、歩く破壊兵器である。

 ほんと、悪い意味で強すぎる。

 たぶん…、今、ヒロインと戦ったらパトリシアが圧勝してしまう。己の戦闘センスが怖い。そのうち赤髪が金髪になってスーパー〇〇人に進化しそう。

「パトリシア嬢はすごいな…」

「令嬢としては失格ですが、殿下の騎士にはなれます。同じ学園に通う際には、護衛としてお側に置いていただければと思います」

 メイナード殿下は少し考えた後、頷いた。

シリーズ管理と迷いましたが、連載で章区切りのほうが管理しやすいため再掲載としました。短編から連載への変更がきかないなんて…、変更できないと書いてありましたが、気にしていませんでした、よく読めって話ですね、すみません。短編での評価、ブクマ、ありがとうございました。日間一位は良い思い出となりました。皆様の優しさに感謝しつつ、今後ものんびり更新していきたいと思います。

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