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この作品には 〔ガールズラブ要素〕〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

エルフの奴隷商人

「民を食い物にして生きている貴様のような奴がいるから人身売買が蔓延るのだっ!!」


 首筋に剣を突き付けられ、憎悪に歪む男の顔を見上げる。


 民を食い物に、か。奴隷商人である私は、この男にとっては間違いなく悪人だろう。否定はしない。

 清廉潔白な王国の騎士。王国を守護する断罪の剣。正義の執行人よ、どうか教えて欲しい。


 どうすれば守りたい人たちを救うことができた?






 私は山深い森にあるエルフの里で生まれた。

 女神と精霊を身近に感じ、森の恵みに感謝を捧げ生活をしていた。変わらない毎日。全てがここにあると信じて疑わなかった。


 ある日、人間の女がエルフの森を訪れた。

 森には迷いの結界が張られており、おそらく里まで辿り着けないだろう。だが、私はその女が気になった。女の帯びる神気が女神に仕える者であることを知らせていたからだ。

 私は森に入った女の前に姿を晒した。女は少し驚いた様子であったが、森に踏み込んだ理由を教えてくれた。国が荒れ、救いの手が足りないのだと。助けて欲しいと頭を下げられた。里を出るエルフは少ない。ましてや、人間と共に暮らす選択をする者などごく少数の奇特な者だ。


 ……どうやら私は、その奇特な者だったようだ。若気の至りかもしれない。外の世界に興味が湧いた。

 ひと悶着あったが長老に許可を貰い、私は産まれてはじめて森の外に出た。

 私を連れだした女の名はセリア。修道女として神に仕える傍ら、孤児院を経営しているらしい。彼女自身も元は孤児であったことが今の職に就くきっかけになったそうだ。

 私も里では祭事を執り行っていた経験がある。教会の作法はわからないが、女神や精霊と心を通わす方法は知っている。彼女の力になれるだろう。


 彼女たちの国は他国と交戦状態にあるという。兵が足りず、男は一般人でも戦いに駆り出されているそうだ。

 街に着いた私は、大聖堂に向かう。道すがら、私の顔をジロジロと見る者が多い。やはりエルフは珍しいのだろう。セリアの手伝いもそうだが、身分を証明するためにも教会に所属しておく方が良さそうだ。


 大聖堂で私を迎え入れたのは司教の男だった。彼はエルフの助力をいたく感激してくれた。セリアの手助けをする意志を伝えると、司祭と同等の権限を与え、彼女のいる教会の管理をお願いされた。エルフを街に引きとどめる意味合いもあるのだろうが、些細なことに思えた。

 セリアの教会に着いた私は驚いた。修道女が彼女だけしかいない。司祭も私が来るまで空席になっていたというのだから、よほど人員が足りていないのか。孤児院は教会に併設されていた。


 人間の暮らしに興味はあったが、早くも里が恋しくなった。

 緑が少ない分、精霊の声もどこか遠くに感じられる。里では物々交換が基本だったが、街では貨幣で取引を行う。

 子どもたちの世話はセリアが中心になって行っているが、孤児院の年長者も手伝い運営しているようだ。

 司祭としての給金と教会で精霊魔法を使用した治療を行い得たお金も孤児院の運営資金に回した。それでも生活は良くならない。戦争が長引き孤児が増えているのだ。

 子どもたちに救いの手を差し伸べる彼女の姿は、私の胸を打つ。彼女たちを幸せにしてあげたかった。

 そんなときだった。私に従軍の打診が届いたのは。




 エルフ族が戦争に介入することは長老に禁じられている。当たり前だ。里にまで戦火が及ぶ可能性があるのだから。しかし、治療という名目でなら大丈夫だと私は判断した。何より、お金が必要だった。


 戦場は凄惨な状態だった。ひっきりなしに来る負傷者を懸命に治療した。

 負傷の度合いにより、命に優先順位をつける作業は酷く精神を消耗する。寝る間も惜しみ、それでも助けられない命に涙した。帰りたい……。セリアと子どもたちの顔が浮かんだ。


 どのくらいの月日が流れたのだろうか。助けられないことを割り切り、顔見知りの死体が運ばれてきても涙が流れなくなった。

 故郷の里での生活は、もう遥か昔のことのように思えた。教会に残してきた彼女たちだけが支えになっていた。

 従軍している間の資金は全て送っているから、以前より良い生活を送れているとは思うが。




 戦争が終わった。こちらの国が勝ったようだが、私にはどうでも良かった。ようやく帰れるのだ。


 セリアがいる教会に辿り着いたとき、彼女と子どもたちは教会で祈りを捧げていた。涙で前が見えなくなった。帰って来たと実感できた。

 私に気がついたセリアと子どもたちが駆け寄る。セリアが私を抱きしめた。子どもたちも群がって来た。彼女も泣いていた。

 毎日、無事を祈っていたという。ずっと側にいて欲しいと懇願された。私のしたことは間違いではないのか、それはわからない。でも、彼女らの生活を守れたのなら意味があったと思えた。

 孤児院でささやかな宴も催してくれた。これからの生活に明るい未来を夢見た。


 教会と孤児院の日常に戻った矢先、王都から使者が訪れた。

 戦場での功績と精霊魔法を買われ、宮廷魔術師として迎え入れる準備があると知らされる。

 考えるまでもない。王都に移住することになれば、子どもたちは連れてはいけない。それに、エルフが国に仕える訳にはいかなかった。

 私は断るために王都に向かうことにした。王都まで馬車で数週間の道のりだった。


 整然とした街並みの王都は、私たちが暮らしている街とは比べ物にならないほど豊かだった。清潔な衣服に身を包んだ人々、活気溢れる商人たちの声。同じ人間の暮らしでも、こんなに違う物なのかと驚いた。

 私を宮廷魔術師にしようとしていたのは、とある大貴族だった。魔術師を多く輩出している家らしく、婚姻を交換条件に宮廷魔術師にするという。

 丁重にお断りした。意味がわからない。どうして契りを交わす必要があるのか。そもそも宮廷魔術師にも興味はない。

 かなり食い下がれたが、なんとか帰路につくことができた。


 薄汚れた街並みに何故か安心感がある。私も随分とこの街に染まったものだ。

 馬車を降り、足早に帰る私を待ち受けていたのは、焼け崩れ廃墟となった教会と孤児院だった。




 何があったのか? 急いで大聖堂に向かい、司教と会った。聞かされたのは、街の荒くれものが襲撃し火を放ったということ。セリアたちは無事なのか!? 気が動転してしまう。私は、何のために……っ。

 司教がさりげなく周囲を見回し、私に耳打ちをした。「奴隷商の店です」紙切れを手渡された。


 指定の場所は複雑に入り組んだ路地の先にあった。

 膝が震え身体がすくむ。店に入るのが怖い。逃げ出してしまいたい。それでも私は確認しなければならない。彼女たちが奴隷として売られたことを。


 店に入ると、私を値踏みしているかのような視線を感じた。資金を見せ、奴隷を見せて欲しいと頼んだ。――いた。孤児院の子どもだ。奴隷商にこの奴隷について聞くと、敗戦国からの奴隷として売られてきたそうだ。そんな……ばかな……。大口の取引で一緒に連れてきた奴隷は他にもいたが、状態が良くて大半が売れてしまったらしい。私の反応で奴隷と知り合いだと気がついたようだが、契約で取引相手の情報は話せないと念を押された。

 どうすればいいのか。手持ちの資金でこの子だけ買い戻すことはできる。でも、他の子はどうする? 今まで稼いだ金の大半を孤児院で保管していた。焼け跡には何も残っていなかった。先立つものが無いのだ。


 だから、私は「奴隷商人になるにはどうすれば良い?」


 奴隷商が唖然とした。


 蛇の道なら蛇になればいい。

 隷属魔法が使えることが最低条件のようだ。動物を使役するために憶えたが……こんなものを使って奴隷にしているのか? 信じられない。

 私は奴隷商に交渉する。私が貴方の仕事を手伝う見返りに、情報が欲しい。もし、私が貴方を裏切ったならこの身を差し出す。そのための契約も結ぶ。

 困惑する奴隷商に私は素顔を晒す。先ほどまでフードを深く被り、極力見せないようにしていたからだ。零れる長い白銀の髪とエルフの特徴である長い耳。エルフの里で巫女をしていたハイエルフ。それが私だ。

 奴隷商は目を見開き息を呑む。奴隷商も教会にいるエルフのことは知っていた。だからこそ、目の前にいるのが信じられなかった。


 契約は結ばれた。




 この国において奴隷は一つの財産らしい。奴隷を保護する法律も整備されていた。

 奴隷には、借金のカタとして売られた借金奴隷と犯罪に手を染めた者が堕とされる犯罪奴隷の二種類がある。特に借金奴隷はむやみに扱うことは許されていないようだ。


 奴隷を取引した相手を記録した帳簿は厳重に保管されていた。

 私と契約を交わした奴隷商、アルバンに許可を貰い確認する。取引の相手は貴族か? アルバンによると、奴隷の中でも教養のある高額の奴隷を買うのは王都の貴族が多いらしい。取引金額を見て、頭が痛くなる。とにかく金だ。セリアと子どもたちを買い戻すために金がいる。アルバンは私の身体を買ってやると言っていたが、そんなに安売りするつもりは無いぞ?

 奴隷商として利益を上げる必要がある。数か質か。敗戦国まで買い付けに行く同業者も多いらしいが、奴隷の質を高めて利益を伸ばす方策ならすぐにでも出来そうだ。奴隷に合せた教養と技能。彼女たちと暮らしていたときと変わらないな。思い出にふける暇はない。私は売れ残っていた孤児院の子を買い戻し、教育係として手元に置いた。私や元孤児院の子に足りない部分はアルバンが娼婦を雇っているし、なんとかなりそうだ。




 私は奴隷商というものを誤解していたのかもしれない。彼らは金にうるさいが信用を最も大切にしている。金さえ積めば、貴族よりよっぽど信用できる。

 アルバンも当初は私を奴隷にしたいようだったが、いつの間にか店を切り盛りする仲間のような扱いになっていた。

 奴隷たちとの生活も充実していた。ただ、彼ら彼女らを売るときは、胸に痛みを感じる。アルバンは奴隷に感情移入しすぎだと言うが、慣れないのだから仕方がない。

 ハイエルフの私は、人間より遥かに長い時を生きる。既に私より上の年齢の人間など存在しないだろう。ここで暮らす奴隷は皆、子どものように思ってしまうのだ。買われた先で辛い思いをしないだろうか。


 私は隷属魔法に精霊魔法を組み合わせて改良を加えていた。

 隷属魔法で浮き上がる隷属紋は奴隷を戒める強い力が働き、逆らうと罰を与える効果がある。使用し続けると命に関わることもある。犯罪奴隷なら必要かもしれないが、借金奴隷にまで強い罰を与える必要性が感じられず、リミッターが掛かるようにした。

 また、アルバンの店から売られる奴隷には私の加護を与えた。命の危険にさらされ助けを願うなら、精霊が守護し私に知らせが届くようになっている。奴隷の扱いが悪い者には極力売らないようにしているが、仮にこの加護が発動するなら奴隷商の間で情報を共有し、弱みに漬け込む材料にもなった。




 いよいよセリアと子どもたちを買い戻す手筈が整った。相場の数倍でも余裕で支払うことができる。

 逸る気持ちを抑え、私は王都の貴族たちとの交渉に赴いた。やはりかなりの金額を提示してくる。足元も見られているのだろう。それでも一人二人と着実に買い戻し、ときには代わりの奴隷と取替えた。

 取り替える奴隷に思わず「ごめんなさい」と言ってしまったが、「大丈夫ですよ」と笑顔で応えられ胸を締め付けられた。私はもう碌な者ではない……。

 中には、今の主人のもとでの暮らしを捨てたくない子もいた。そんな子には、隷属紋の書き換えと加護だけ与えた。孤児院を巣立った子どもたちの顔が思い浮かんだ。

 子どもたちの買い戻しは終わった。残るはセリアだけになった。


 私は、見落としていた。必ずしも、今もその奴隷を所有している訳ではないことを。


 アルバンの店からセリアを購入したした貴族は財政難に陥り既に手放していた。

 私は王都の奴隷商に金を積み、セリアの行方を追った。娼婦になっていたようだが、既に買い取った貴族がいるらしい。私は金を積む。

 娼婦館から彼女の身元を買い取ったのは、あの大貴族だった。




 魔術師の家系、ルクレール侯爵家。またこの屋敷に来ることになるとは……。

 ルクレール侯爵は笑顔で私を迎え入れた。婚姻の話しを躱し、セリアについて問い詰めた。

 セリアは妾として迎え入れたという。彼女の顔が見たい。私は彼に頼み込んだ。渋る様子に不安を掻き立てられる。

 金を積もうとすると引き留められ、ルクレール侯爵は一度目を閉じた。再び目を開けた彼は真剣な眼差しで私に告げる。「後悔するかもしれませんよ?」


 私は、彼女の部屋でセリアと再会した。セリアはベッドの上に座っていた。顔に残る火傷の痕。そして、彼女の体形には不釣り合いなほど大きなお腹。私は息を呑む。私が部屋に入ったのにも関わらず、まったく反応の無い彼女の様子に。もう涙を堪えることはできなかった。嫌でも理解できてしまったから。私は崩れ落ちる。彼女はもう――壊れてしまっていたから。


 彼女の部屋を後にした私は、改めてルクレール侯爵に話しを聞いた。彼がセリアに始めて会ったのは娼婦館だったという。火傷の痕に加えて、既に心が壊れた彼女は相当酷い状態だったらしい。そんな彼女を引き取ったのは善意ではなく、一目でわかるほどの魔術適正の高さ。優れた魔術師を産む母体として彼女は選ばれたのだ。

 顔の火傷以外の傷は治療できたが、心はどうしようも無かったらしい。私も壊れた心を治す方法は知らない。


 ルクレール侯爵は提案する。セリアの出産が終われば、彼女を連れて行っても良いと。

 

 本当は直ぐにでも連れて帰りたかった。でも、ここまで妊娠が進むともう下ろせない。母体の安全のためにも今の環境を手放すことはできなかった。

 私はここに残り、出産に立ち会うことにした。セリアを死なせないために。


 反応の無いセリアに話しかける日々。それでもお腹はどんどん大きくなる。


 そして、前触れなく破水した。


 屋敷に待機していた産婆が介助する側ら、私は精霊魔法で母体と赤子を守った。セリアを失いたくない。その一心で長時間に及ぶ出産の間、魔法を行使し続けた。

 赤子の泣き声が聞こえたとき、私は意識を手放した。


 セリアの出産は無事に終わった。セリアの子どもは、女の子だった。産後の容態が安定するまで屋敷で暮らして、私はセリアを街に連れ帰った。




 私は目的を達成した。




 ――そんなはずはない。




 王都の奴隷商を再び問い詰め、火傷の痕と店にいたときのセリアの様子を尋ねる。

火傷の痕は貴族から買ったときには存在したこと、憔悴した様子ではあったが心は壊れていなかったことを聞き出した。アルバンの店に来たときのセリアは火傷を負っていなかったことは聞き及んでいる。

 セリアを購入した貴族と娼婦館、セリアを指名した客、そして教会と孤児院を襲った黒幕を含めた関係者全て。逃しはしない。


 娼婦館に雇われている娼婦に金を積み、個別に引き抜き抜いた。

 奴隷として身元を預かっている娼婦だけが残るはずだが、他の奴隷商が奴隷を売らないように手を回し補充できないようにした。

 奴隷商としての貴族との伝手も使い、娼婦館の悪評を広めた。経営が傾くのを待つ間に、セリアを購入した貴族を堕とす算段をつける。財政難で金はない。弱みも以前から握っていた。

 ルクレール侯爵に貴族を処罰する口実を与えると、速やかに爵位の取り上げと家の取り潰しが行われた。私は奴隷堕ちした貴族を買い取り処分した。

 私は気がついた。この国は、弱った獲物を差し出せば簡単に切り捨てる。経営の傾き始めた娼婦館の経営者の悪行を誇張し噂を広めた。直ぐに堕ちてきたので処分した。


 セリアの面倒は元孤児院の子が率先して行ってくれた。再会したセリアを見たときは泣き叫んでいたが、今は安心して預けられる。

 奴隷商としての経営も順調だ。積んだ金と握った弱みの分だけ貴族との繋がりが強まり、襲撃事件の輪郭が朧気に浮かび上がってくる。実行犯は処分したが、そこから依頼主には繋がらなかった。教会は直接関与していないが、見て見ぬふりをしている。国かそれに近い権力から圧力が掛かっているはず。

 真っ先にルクレール侯爵を疑ったが、彼の政治的立場と噂、人柄を考慮するとエルフと事を構える可能性のある手段は選ばないように思える。誇りよりも打算で動く商人に近い感性をしているからだ。利害が一致している限り信用できる。そう考えると、伝統を重んじる保守的な勢力か? ルクレール侯爵のような変わり者を除けば、大半が保守派とそれに付随する貴族たちになる。

 国ごと滅ぼしてしまった方が早いかもしれない。……本末転倒だ。守りたいものが多すぎる。




 国が奴隷商の摘発に乗り出すという噂が流れ始めた。

 奴隷制度が撤廃される動きはない。戦勝国になったことによって大勢の奴隷を手に入れたことを踏まえると、力を付け過ぎた奴隷商を潰すための布石と考える方が妥当かもしれない。

 もう手をこまねいている場合ではない。

 アルバンは国外に拠点を移すようだ。私はセリアたちを彼に託した。彼は私が何をするのか知っている。


 私はルクレール侯爵と会うために王都に向かった。そして、その道すがら王国の騎士に囲まれることになった。


「そこの馬車! 止まれ!!」


 強引に馬車を止められる。怯える御者にお礼を言い、私は馬車から降りた。王国の騎士団が道を塞いでいた。一人の騎士が私に近づき問いかける。


「貴様が件の奴隷商だな。この国にいるエルフは貴様しかいない」


「そうですが、それがどうかしましたか?」


「我々は現在、不正な取引を行う奴隷商の摘発を行っている。貴様が扱っている奴隷を解放しろ」


「私は国の法に則り商売をしています。彼らは私の財産です。その指示には従えません」


 義憤に駆られた男は憎悪の感情を爆発させ、剣を突き付ける。


「民を食い物にして生きている貴様のような奴がいるから人身売買が蔓延るのだっ!!」


「この国の制度ですよ? 言いがかりも甚だしいのではないですか?」


 私は男の神経を逆撫でする。このまま斬りかかってくるなら、それでも良い。こんなところで足踏みしていられない。

 目を血走らせた男と視線が交差する。


「この……っ!!」


 今にも首に突き刺しそうな状態で睨み合う。

 一触即発の緊迫した空気の中、王都の方面から馬車の音が聞こえた。近づいて来た馬車に描かれた紋章はルクレール侯爵家。迎えに来たのか。


「剣を引け」


 馬車から降りたルクレール侯爵が騎士に指示をする。


「ですがッ!」


「剣を引けと言っている」


「わ、わかりました……っ」


 物言いたげな顔の騎士を残し、私はルクレール侯爵に連れられ馬車に乗り込んだ。


「奴らの動きが思った以上に早くてな」


「いえ、私も迂闊でした」


「本当に良いのか?」


「構いません。渡りに船でした」


「いや……エルフの里の意志に反するのではないか?」


「今更ですね。もう戻るつもりもありません」


 襲撃事件を完全に解明することはできなかったが、王族の一部や宰相が関与していることはわかった。

 私に取れる選択肢はもうない。そんなとき、ルクレール侯爵から反乱を起こす話しを持ち掛けられた。反乱が成功すれば王族を含めた国の頭をすげ替え、貴族を粛正できる。襲撃事件に関与した疑いのある者を全て処分することを条件に、私は反乱に参加することを決めた。

 この手で殺せる機会を逃すはずがない。




 ルクレール侯爵の集めた兵力は圧倒的だった。

 私がいなくても問題はなかっただろう。私たちは一気に王城まで攻め入り蹂躙した。知る限りの仇は全て殺した。反乱に参加していた貴族の中にも紛れていたが、混乱に乗じて処分した。

 反乱が成功し、ルクレール侯爵は国王となった。王妃として迎え入れたいと告げられたが、それは丁重にお断りした。


「この国を出るのか?」


「セリアたちの許に行きたいですし、信頼はしていないですから」


「手厳しいな」


 国王は苦笑する。利害関係は終わりだ。これ以上は彼と共に歩くことになる。そこまでの義理はない。


「手綱はしっかり握ってくださいね」


「善処する」


「いつか、この国から奴隷が必要なくなることを願っています」


「そうだな。そんな日が来ることを私も信じているよ」






スティーナ:エルフの里で巫女をしていたハイエルフ。主人公。復讐が終わった後は、アルバンがいる隣国に向かい、セリアたちの許に帰った。アルバンと奴隷商を営むかたわら、孤児院も再建した。元孤児院出身の子どもたちは孤児院と奴隷商の双方で活躍する。セリアが亡くなるまで側にいたが、その後、孤児院と奴隷商を子どもたちに任せ、何処かに旅立った。


セリア:長い間心神喪失した状態が続いていたが、ある日、心を取り戻す。記憶が混濁し錯乱するセリアをスティーナは支え続けた。落ち着きを取り戻したあとは、孤児院の先生として子どもたちから慕われる。スティーナとは最期まで一緒に暮らした。


ルクレール侯爵:戦場でのスティーナの活躍を知り、エルフの力を取り込むことを画策する。しかし、エルフを脅威と考えた保守派の暴走により機会を失った。反乱の計画は以前から立てており、スティーナの利害と一致したため、復讐にも協力した。

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