エピローグ/黄金王の花嫁
魔王に報酬の船を手渡すことが出来たのは、秋が少し深まった頃。
ウルヴレヒトがコネやら資金やらを都合してくれたことで、
存外早く魔王を旅へと送り返すことが出来た。
スゴロクたちを無事に見送ったアルフレッドは、秋の公休に合わせて休みを取った。
すっかり執着をなくして穏やかに金山の採掘に取り組むグエン氏と酒を酌み交わしたり、
東方へ帰ることを拒んで修行に明け暮れる小さな女剣士を訪ねたり。
思いつく限りの楽しみの楽しさを、存分に味わった。
現在は公休2日目の午後を回ったところだ。
昼食を摂った後に少し身体を動かしたくなって、
側近ふたりを誘って近くの街の大きな麦畑に向かっている。収穫期である。
小さな馬車の御者台にはブルーベルが座り、魔界の駿馬をゆっくりと歩ませている。
「オウカ殿とケルガー殿、うまく行きますかね?」
「期限長いし、勝てるようにはなるんじゃないかな。訓練設備もそろってるし」
半猪の荒武者がまだ20代だと知って驚いたものだがそれはさておき、5年経てば17歳と32歳。
なかなか良い組み合わせだと、アルフレッドは思っている。
「……好き、って、……なんだろうね?」
「ニーナは、どう思う」
金髪に秋の日差しを受けながら、ニーナは考え込んだ。
再び修行の旅に出たレオンと、彼を待ちながらもきっちり仕事をこなし続けるアルフィミィ。
西の女帝と、銀髪の騎士団長。
正式に養子縁組を結んだ、吸血鬼ルインとその従者ラルフ。
などなど、
ニーナも武術会からこっち、なかなかに多様な恋や愛の形を見せられているはずだ。
迷わないわけがない。アルフレッドだってそうなのだから。
「アルフレッドさま、と、クリストフお姉様。わたしは……ふたりとも、大好き。
それだけじゃ…だめ、なのかな? わたし……よくばり、かなぁ」
「ニーナが欲張りなら、私もそうよ。どっちも手放したくないのは、私も同じ」
陛下もでしょう、とクリストフから急に話を振られて、王は多少どぎまぎしながら頷く。
馬車が止まった。
わざわざ済まない、と言いながら駆け寄ってくるのは、
絶賛住み込みバイト中のトーマとその恋人のフブキであった。
丁寧に案内を受けながら馬車を降り、豊かに実った麦畑を目にする。
「難しい話は後にしよう。麦刈りだ麦刈り!」
全身に気力をたぎらせて、アルフレッドが一番に駆け出した。
フブキに渡された農業用の鎌を振るって、大麦を無差別に刈り倒してゆく。
「はしゃいじゃって……」
「でも、ああいうところも嫌いじゃねぇんだもんな、黒騎士さん?」
王が残して爆走する麦を丁寧に束ねながら、トーマがクリストフをからかう。
「もうっ……トーマ君ったら」
否定はできない。
だが、今はとりあえず彼を捕まえて来なければならない。
何事かを考えながら麦畑を静かに歩む『金の』ニーナの髪が、とても美しいからだ。
黄金王なら息を吞んで、それから優しく微笑んで見つめるだろう。
そうに違いない。
「お待ちください、陛下!」
クリストフは、喉一杯に吸い込んだ秋の空気を、精一杯の大声に変えた。
― 了 ―
2019/8/17更新。
2019/8/20更新。




