エピローグ/黄金王の花嫁
「すべてが丸く収まった、というところか?」
「そうだな……」
金山の権利書を目玉商品とした慈善オークションは大渦のごとき盛況ぶりを示した。
武術会での賭けに勝った商人たちがその全額をつぎ込んだ結果、目玉商品には30億ゴルトというとんでもない値段が付いた。
落札したのはもちろん、『緑風商会』会頭グエン=ファーウィンド氏であった。
30年余にわたる上手な商売で稼いだ金と蓄財をすべて叩く決断を彼にさせたのは、
金山への執着だけではないだろう。
「終盤は他人事のように見ていたな。金山に未練はなかったのか」
「全然。あの山を手放せば、もっと自由になれるだろうとずっと思ってた」
アルフレッドとしては側近との約束通り、
吸血鬼ルインを金銭的に打ち負かしてやりたいところだったのだが……。
想定の金額をはるかに超える競り合いとなったために、
その役目をグエン氏に譲らねばならなかったことが、唯一の遺憾であった。
50歳を過ぎ、地位も名誉もあるおっさんが、
小生意気な吸血鬼(に転生したおっさん)とムキになって争い、
二人そろって見事に全財産をすっからかんにした姿は、
クリストフや『金鞘』にとっても溜飲の下がるものだったに違いない。
結果オーライ、というやつだ。
「周囲のみんなが協力してくれてさ……目立つ敵といえば魔物くらい。
そういう状態に国をうまいこと持って行くのが、俺の理想の『国王』の務めなんだよね」
吞めないと公言している酒をちびりちびりと口にしながら語るのを、
魔王は静かに見ていたが、続きを促したくて口を挟む。
「そうできた自信はあるんだろう」
「なんだかんだで、議会ともうまく議論できる状態になったし。金山ももうグエン殿のものだから、
刺客なんか来る理由もなくなったしさ」
まだ不満はあるだろうけど、俺としてはよく頑張れた方かな……。
つぶやくように言って、店を貸切にしてくれたホワイト・ファングにお代わりを要求する。
「次は、何しようかな。何したらいいのかな、俺?」
「……思いつかないなら、少しゆっくりするといいさ。それよりアルフレッドよ、
貴公は余にギャランティを払うべきではないか」
「忘れてなかったか……ちっ」
「当たり前だ。召喚されてからこっち、なかなかよく働いたと自負しているんだぞ?」
「そこは俺らの友情に免じてさあ」
「友だからこそ金銭関係はちゃんとしないとな」
「わかってるよ。何が欲しいの?」
「船」
「は?」
「だから船。新造船がいいな」
魔王は武術会の開催までに、西大陸全土と北大陸の半分ほどまでを地図にまとめている。
北から東へは船で渡ると聞いて、ワクワクしっぱなしなのだとか。
「で、どうせなら自分の船で行きたいと」
「ああ。これよりは……ロデルを連れて行こうかと、な」
アルフレッドはその優しく夢を見るような口調に少し驚いて、ほろ酔い加減の魔王を見つめる。
未来の嫁さんにかっこいいところを見せたい、一人の男の顔をしていた。
時々乗せてくれるならと条件を付けて、叔父に話を通す約束をした。
2019/8/17更新。




