激闘編(19)/戦士の宴(19)
6日に渡った大会も、残すは決勝戦のみとなった。
『白牙傭兵隊』は、『金鞘』にも劣らぬ奮闘ぶりで『貴鷹騎士団』に立ち向かった。
しかし、皇帝と騎士団の力の前に圧倒的な優位を許し、既に敗戦が決まっている。
どうしても全力の勝負をしたいと願い出たジェシー=ヴェントのために、
皇帝の側近が闘技場に上がった。
小麦色のはつらつとした身体は激戦の疲れを全く見せず、緋色の瞳をにっこりと細めたままだ。
「勝負を受けてくださって、ありがとうございます」
「いえ……ジェシー殿こそ、お疲れはありませんか?」
「俺は平気です。身体の底から力が沸き上がってきてて」
それなら安心です、と受けたウィノナは、腰の剣を鞘払う。
鋭い刃に紫色の燐光が走り、稲妻のように放電している。
雷の力で魔法金属を鍛え上げた魔剣である。
対するジェシーも、『南風団』のビスマルクから譲られた大剣を構えた。
「『剣の帝国』近衛騎士団団長ウィノナ=シュトルム! 参ります!」
騎士らしい名乗りが終わらないうちに、ウィノナの素早い突撃がジェシーに襲い掛かる。
闘技場の床を派手に打ち砕いた一撃を跳躍して避け、反撃に出た。
体術と剣技を巧妙に組み合わせた連続的な動きを瞬時に読み切り、
騎士は純白の騎士衣を激しく翻して回避する。美しい銀の髪がきらめいて散った。
「いいですね!」
「まだまだ!」
素早く交錯を繰り返すこと数度、雷の魔力で麻痺してきた両腕を構わず振って、ジェシーは懸命に戦う。
「なぜ、そうまでして戦うのです」
「約束したんです」
「それは……剣の腕前を見せつけることで、叶えられるのですか」
「そうは思いません。でも、俺は……!」
甲高い金属音を響かせて、ジェシーがウィノナの剣を弾く。
騎士は剣を捨てると、怯むことなく大剣の間合いに入り込み、
襟をつかんで背負い投げを見舞った。
ジェシーは大剣を手放して受け身をとると、素早く立ち上がる。
「俺は、貴女たちのように……強い戦士になりたい。
冒険者のように自由に、騎士のように誇り高く、生きてみたい!」
子どもの夢だ、と断ずる大人の狭量さを、若く可憐な騎士は持ち合わせていない。
ウィノナ自身も、堂々と夢を語る皇帝の瞳に惚れこんで騎士になったのだった。
心の底からの純粋な願いは、夜空の月の力さえ引き出してみせる。
人の心を動かすことなど、そう難しくはない。
「“望む自分になる”ことよりも、“望む自分であり続ける”ことの方が難しい。
今の気持ちを忘れずにいる自信がありますか?」
踊るような動作で軽く切りかかる。雷の魔剣がぶつかり、少年の剣と火花を散らす。
無言で打ち合いに応じながらも、少年は彼なりに頭をめぐらせて騎士の言葉を咀嚼しているようだった。
何度も何度もぶつかるうちに雷の熱で戦闘服が焦げ、腕も足もしびれて思うように動かない。
容赦なく襲ってくる騎士の剣と、彼女の絶対的な意志のこもった戦い方を見つめる。
望む自分であり続ける自信があふれているのを感じる。
俺は?
俺にはそんな自信――、
「――あるっ!」
数少ない隙を突いたジェシーの一撃が、小柄な騎士を場外まで吹き飛ばした。
2019/6/12更新。




