激闘編(18)/戦士の宴(18)
「父君とのわだかまりは、もうないのか」
「あります。でも、父は転生しましたし……拘ってても前には進めない」
「そうか。お互い苦労するよな」
ヴィルヘルミナは苦笑を浮かべると、向き合ったクリストフに一礼する。
準決勝の第2試合。
1対1で互角の勝負を繰り広げた両チームは、既に大将を残すだけとなっている。
「そのわりには随分と大胆に端折られたようだが」
「……苦労しますよねぇ」
まったくだ、と応じた西の皇帝が仕掛ける。趣向を変えてか、その手には銀製の細剣がある。
「何でもありですね、皇帝陛下」
「まぁな」
休養日に街で出くわし、父親の事情で苦悩した共通の経験から意気投合した二人である。
西大陸の『剣の帝国』は、かつて勇者と共に旅した戦士が興した国だ。
現皇帝で8代を数える由緒ある国だが、第7代の時代になると一気に凋落を見た。
享楽的な放蕩君主に愛想を尽かした古参の騎士が自らの領地を国として独立させた。
皇帝の散財で資源もほとんど失われ、崩壊の危機にあった伝統の帝国を引き継いだのが、
この若き女帝ヴィルヘルミナであった。
はっきり口にはしないが、男性を信用しきれていないところがあるように見える。
過日の酒の席でそのあたりを深く尋ねることはしなかったが、クリストフにとっても気になる存在ではある。
「おっと!」
「ちっ! 速いな!」
素早い突きをかわした黒騎士が反撃し、それを皇帝が更に回避する。
武術の性質上、激しいぶつかり合いこそないが、魔法剣の涼やかな刃鳴りと鮮やかな軌跡が、静かな戦いを美しく彩る。
「地元のチームに花を持たせるべきなのだろうが」
「そんな気はまったくない、と」
「よく分かっている――」
クリストフの踏み込みを、身体を沈ませて避ける。「正直、政治よりも勝負事が好みでな!」
皇帝は真面目な剣術を捨て去り、蹴りや跳躍を交えたケンカ殺法を見せる。
体調が万全に回復したとはいえ、体術に関しては自信を持ちえない黒騎士は、
回避に重点を置いて隙を狙う作戦に出た。素早い立ち回りのまま、一進一退の攻防が続く。
「気になるのですが」
「どうぞ」
「ぶっちゃけ、ものすごく強いですよね……何故です?」
手を変え品を変えて攻めるが、まったく勝てる気がしない。
そう正直に打ち明けると、豪快な笑いを返された。
「身長を犠牲にしたのだよ」
「は?」
「初代と同じく巨人症でな。子どもの時から長身だったんだが、
背なんか低くていいから『勇者』に劣らぬ才覚をくれと月に願った。その通りになった」
嫡子だと認めなかった父に歯向かい、一騎打ちを行って隠居を決意させたという。
「武の腕だけで皇帝になった。正しくはないのだろうが」
「あの……目の前に細剣突きつけながら遠い目すんの、やめてもらえません?」
「貴公が話をしようとするからだろう」
皇帝は自らの勝利を告げる実況を聞きながら、ぷいと顔を背ける。
口を尖らせた子どもっぽい表情が可愛らしいと、クリストフは思った。
2019/8/11更新。
2019/8/19更新。




