激闘編(14)/戦士の宴(14)
大会4日目。
「本日の第一試合は、『北海水産』対『貴鷹騎士団』です! 北大陸の若者たちは、どこまで奮戦することが出来るでしょうか!?」
実況に煽られて、半狼人の少年が闘技場の中心に歩み出る。
その傍らには、おしゃれに着飾った半狼族の少女がついている。
「少年、名は」
紫の衣の騎士が凛とした声で尋ねる。
「北大陸の森の戦士ソウエンの子、トーマ」
「西大陸『剣の帝国』現皇帝、ヴィルヘルミナ。トーマ殿、どうぞもっと気楽に。楽しみましょう」
大国の皇帝という身分を何気なく明かされてますます緊張する少年の頬を、
恋人らしき少女が無言でぐいぐいと伸ばす。会場にどっと笑いが起きた。
「ははは……お嬢さんの名は、何とおっしゃるのか」
「フブキ。あと3人は、ノルン、ターシュ、ユリウス。けっこう強いよ?」
皆々そのよき名を大切になされよ、と微笑んでから、
皇帝は5対5の戦いを申し出た。
1回戦の『自己中心アドベンチャーズ』のように真面目な試合運びを嫌ってのことでは、もちろんない。
半獣人は個々の実力も高いが、特に狼の血に連なる者は集団戦でその真価を発揮する。
ヴィルヘルミナはそのことをよく理解していた。
果たして皇帝の期待通り、トーマとフブキの婚約者コンビと残る三兄妹の連携は、
戦闘のプロである『貴鷹騎士団』を存分に翻弄した。
激戦の末、ミーナことヴィルヘルミナ皇帝とその側近の騎士、ウィノナを残すのみとなったが、
この二人が異様なまでに強い。
皇帝の戦いぶりは強靭さと華麗さを増しに増して、観客の視線を離さなかった。
半犬族の三兄妹がノックアウトされても、北国の若き戦士らの闘志は尽きない。
フブキが古代語で叫んで小さな嵐を呼べば、ウィノナの魔剣が逆巻く風を断つ。
トーマのすさまじい連続攻撃はヴィルヘルミナの馬上槍をさんざんに破壊し、
今や剣と剣の激しいぶつかり合いを演じている。
「『北海水産』、獅子奮迅の激闘ぶりであります! 西大陸の精鋭騎士たちに、
まったく引けを取っておりません!」
実況に煽られるまでもなく、客席からは割れんばかりの拍手と歓声が巻き起こっている。
どっちに賭けるか決めかねていた商人らが動いたか、掛け金の倍率が跳ね上がって行く。
だが戦士たるトーマには、確信に近い思いがあった。
「皇帝さん、まだ手加減してるだか!?」
「なぜ、そう思う」
「フブキならともかく、俺の剣がアンタに通じるハズねぇべや!
俺ァついこないだ冒険者になったばっかだぞ!」
「敏い子だな。私も偉そうなことを言える人間ではないが……まだまだだ、トーマ殿っ!」
ヴィルヘルミナの様子が、明らかに変化する。
魔法の心得などなくとも、彼女の周りで激しく燃える気炎が見えるはずだ。
小柄な身を捻って繰り出した小さな拳が、雪狼の少年を場外まで吹っ飛ばす。
彼が壁に激突するのを魔法で防いだフブキが、少しだけ悔しそうに降参を申し出た。
2019/8/8更新。




