激闘編(9)/戦士の宴(9)
「本日の最後を飾りますは……たった2人で乗り込んで参りました、
人形遣いの師弟コンビ『糸の上のサーカス団』!」
わざわざ空間を歪ませて派手に登場した二人は、それぞれ可愛らしい人形を肩に乗せている。
先に整列していた生真面目な騎士の一団に、ローブの裾を上げて一礼。
「対しますは西大陸より! 女性だけの精鋭部隊、『貴鷹騎士団』っ!」
西大陸に広大な領地を持つ『剣の帝国』に仕える騎士達である。
歳若い皇帝が善政を敷いているため、地元では熱狂的な人気を誇っている。
人形遣いコンビの、師匠らしい長身の女性が、無言でそのリーダーを指差す。
目を細め、かかって来いと言わんばかりの仕草をした。
「これは――『サーカス団』のジェダ選手、『貴鷹騎士団』のミーナ選手を挑発しております!
彼女はこの大胆不敵な挑戦に応ずるのでしょうか!?」
おちゃらけた試合の後の観客席に、あっという間に緊張感が戻る。
固唾を飲む音さえ聞こえてくるような雰囲気の中を、『貴鷹騎士団』団長が歩む。
長身の人形遣いが待つ中央まで進み、左手を差し出す。
「よき試合と致しましょう」
「よろしく願う。この試合、私と貴君で決着をつけるというのはどうか」
「何故でしょう?」
「弟子が極度の恥ずかしがりでな……この舞台に引っ張り上げるのにも苦労した」
ふっと口許を緩めた騎士は、部下を場外まで下がらせた。
1対1の勝負になることを告げる実況が響き、対戦者が向かい合う。
人形遣いが短く詠唱を終えると、緻密に作られた鋼の獅子が現れた。これを操って戦うのだ。
騎士も何事かを呟き、小柄な身体の2倍はありそうな得物を持ち出した。
短槍ではない。馬上槍だ。
突撃のみに用いる武器を、両腕だけで奮おうと言うのか!?
両者が動いた。
獅子が生きているかのような咆哮を上げて、騎士に跳びかかる。
小柄な騎士は身体ごと馬上槍を旋回させて妨げ、瞬時に反撃に出た。
突く、払う、斬る。
迅速で激しく、華麗な動きが、獅子を繰る人形遣いの表情を緩ませる。
「ジェダ選手、笑っています! この戦いを楽しんでいるのか!?」
「喜びだ。望外の使い手と戦いうる喜び」
獅子の突撃をことごとく避けた騎士が走る。
追いすがる獅子の爪を弾きつつ、長く重い槍を携えているとは思えない速度。
「速い! 速い! 速いっ!
突風のような速度で駆け回るミーナ選手の体力、底がないかのようです!」
「上位魔法の発動を狙っている。じきに決着がつくだろう」
靴底に仕込んだ刃物で床を削り、魔法文字を描きながら走っている。
ジェダが大きく手を動かした。鋼の獅子が跳躍し、決定打を狙う。
「遅い」
魔法文字が発光して浮き上がる。「跪くがよい――『グラヴィティ・フォール』」
誰の目にも映る、しかし奇異な現象が起きた。
不可視の手に殴りつけられたように、獅子が闘技場に叩きつけられ、砕け散ったのだ。
魔法の知識があれば、重力の力場に包まれて崩壊したと知れるだろう。
ジェダはすぐに降参を申し出た。その顔はやはり、穏やかに笑っていた。
2019/8/6更新。




