激闘編(8)/戦士の宴(8)
先ほどから手抜きをしている魔族の選手が多いが、別に人間族を勝たせようなどと談合した訳ではない。
これは魔界の勢力があえて大会に参加しなかった理由でもあるのだが……。
本気で戦うと、どうしても盛り上がりに欠けてしまうことを、
魔族の方が知っているのが大きい。
種族的に詰めようのない差があるのを分かっていて人間の選手と試合をする魔族たちは、
遊んでいるように見えて……、本当に遊んでいる。
『勇者』が姿を消した今では格差があって当たり前。
それをどう楽しむかが、魔族の腕前と器量の見せ所なのである。
魔族同士の対決ともなれば、あまり手を抜く必要もないわけで。
「続いては、コルトシュタインの『霧のプリンス』が登場! レオニュディース=ケネス選手!」
わああ、と歓声が沸き起こる。ふらりと旅立ってから約1年、彼が公の場に出るのは久しぶりだ。
その左手に光る指輪を見てしまったのか、女性客が何人か気を失っている。
「相変わらずワルい男だわ、レオン?」
「僕だって予想もつかなかった。っていうか古代の人だったんですね、リュミーィシェ先生」
「そそ。こう見えてもすごいお婆ちゃんだよー。だから私は戦いません!」
「は?」
「レオンの相手はぁーっ? この子です!」
ばばーん!
どこからともなくラッパが響く。
「反則でしょう、先生?」
「この子が負けたらうちのチームも負けでいいからさぁ。気まぐれが多いのよ」
「仕方がありませんね」
レオンと婦人の間には、秋の日を浴びて燦然と光る、巨大な鋼鉄の巨人が立っていた。
リュミーィシェは、召喚魔法の使い手であった。
「全員でかかっていいなら、条件を飲みましょう」
それでいいわ、と言い終わらないうちに、レオンが右手を小さく上げた。
「これはとんでもないことになりました! 『白牙傭兵隊』の全員が出撃、巨人へ襲い掛かります!」
思い思いの方向から、『白牙』の面々が攻撃を仕掛ける。
大きな動作で応戦する機械仕掛けの巨人の迫力に圧倒されながらも、徐々に分厚い装甲を撃砕し始める。
怒ったような音を立てた巨人が、腕を大砲に付け替えた。どこかユーモラスな動きだった。
派手な爆発が何度も起きる。
命中精度の方はすごぶる悪いが、巨人も遊んでいるのかも知れない。
「派手すぎんだろ、おばはん!」
「うっせーわ、ホワイト・ファング! 火薬は使ってないわよ!」
そんならいいやと吠えた半狼人が、背中から大剣を持ち出して跳んだ。
躍動する4人を相手に何度も撃つうちに砲弾が詰まってしまい、焦る巨人。
「うぉらぁぁぁ!」
一閃!
ホワイト・ファングの一撃がその腕を撃ち砕いた。
戦意を失った巨人が、『白牙』に背中を向ける。丸っこい頭から、大きな白旗が現れた。
「えー、とぉ。『白牙傭兵団』の勝利……ってことでいいんでしょうか?」
「うーむ。むちゃくちゃな試合であったな」
実況席の二人と同様に、観客たちも呆然と闘技場を見守っている。
2019/8/5更新。




