後編(終)/恋愛狂騒(11)
その後、志高く訓練を続ける皆々に刺激を受けて、アルフレッドも剣の稽古を再開した。
ケネス一族やクラウス卿まで元気を取り戻して活躍し、
黄金要塞では体を鍛えたり冒険旅行に出かけることが一大ブームとなっている。
「最近はどうなんよ?」
1ヶ月ほどが経ったある日、王はジェシー=ヴェントを誘って『銀の歯』で吞むことにした。
その席上、気に入りのノンアルコール飲料を勧めつつ尋ねる。
「まあまあです。なかなか皆に追いつけなくて、ちょっと焦ってますけど」
小麦色の肌の少年は快活な顔に複雑そうな笑みを浮かべて答えた。
『ワンダーダイス』が主催の訓練施設は成績制度を設けず、
老若男女すべてを受け入れているが、ジェシーには実力の差が気になってしまうようだ。
「そうかな? 頑張ってるように見えるけど」
「陛下。俺は何より、ニーナにふさわしい男になりたいんです。急がなきゃ……、あと2ヶ月しかないし」
「龍族の血が気になるのか、彼女の」
「そんなんじゃないです、けど」
血脈の話を持ち出すなら、この少年と『翠の』ニーナは、本当は対等なのだ。
魔族らと共に鍛錬を積むうちに、アルフレッドにもなんとなく分かるようになっている。
自身では気づいていないが、ジェシーは魔界の戦闘民族である『剣鬼』の力を秘め、
優れた戦士となる資質を十分に持っている。学ぶ環境もある。
『翠の』ニーナの才覚に引け目を感じる必要などないのだが……。
「俺の話でもしてみよう。俺の側近、『黒騎士』のことだ」
「クリストフさんですね」
「彼女はもともと、難病を患っててな。それ以外でも病気がちな人だった」
「マジですか? 信じらんねぇ……」
暗黒魔法と刺突剣技を駆使して魔物を狩り、黄金要塞の治安維持に務める彼女の姿からは、
なかなか想像がつかないようだ。
「色々あって、それを全部克服して俺のもとへ来てくれた。
強い女性だ。とことん不利な状況を腕づくでひっくり返した、強い人間だ」
飲料を軽く呷って喉を湿らせ、
「彼女を見習えとまでは言わないが、弱音を吐いているヒマはないはずだ……無論、俺もな」
「……はい」
「まだ納得いかないか」
「ぐっ」
「正直でいる方がいい――君の義父になる予定のグエン殿だって、
悲痛や苦慮を味わわなかったわけじゃないんだぞ? 今度それとなく聞いてみるといい」
少年はしおらしい顔で頷く。
「君を責めようってんじゃない。最初から完璧に何でもできる人間なんか、どこにもいないって話だよ。
俺も偉そうなことは言えねぇしな。お互い頑張ろうぜ、後輩」
「はい、アルフレッド様。ありがとうございます」
「いいさ、自分の手で掴み取るべき幸福が待ってくれているのは俺も同じ。
俺は欲張りだから、君より大変なんだぞ?」
「それは陛下が欲張りだからでは……」
アルフレッドは思い切り笑って、もう一度グラスを傾けた。
本格的に武術大会の準備に取り掛かる前の、貴重な休息である。
2019/7/30更新。




