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後編(12)/恋愛狂騒(8)

王は、静かに熟考する商人を、固唾を飲んで見つめる。

その顔が、王もよく知っている赤ら顔に戻った。姿そのものもだ。

病んだ心が姿を望まぬそれに変えるなら、戻らせるのは人間らしい、熱い心だ。情熱だ。

アルフレッドの眼に魔王のような力はないが、分かる。

グエン=ファーウィンドのたぎる野心が見えるようだ。

「ですが、陛下。貴方の目的は、競売の開催だけではございますまい? それでは私に都合がよすぎる」

「ああ。世界中から戦士を集めて、武術大会を開きたい。協賛してくれまいかと思ってな」

左様でございましたか、と言って、商人は腕を組む。

「やはりウィルフレド陛下のご子息であられる。無茶な考えを力ずくで実行してしまう」

「お褒めいただき光栄だ。それで? 俺の無茶に乗ってくれるのか、くれぬのか?」

「やぶさかではございませんが……条件をお出ししたい」

「聞こう」

「陛下は、魔王を自称する御仁とつながりをお持ちだそうで」

「ああ。個人的に交友がある」

「その方と話をしてみたいのです。それをお約束いただければ……」

「ああ。呼べば来ると思うが、呼ぶか」

にやりと笑む商人に負けじと、悪い顔で頷いてみせる。

「は?」

頓狂とんきょうな声を上げる商人の目の前に、とんでもない美少年が現れた。「呼んだかね」

なななな……としばらく狼狽ろうばいした挙句、

グエンは咳ばらいを何度もして気分をどうにか落ち着かせた。

「き……っ、貴公が魔王どのでしょうか?」

「ああ。余はスゴロクだ。貴殿がファーウィンド殿だな、お初にお目にかかる。

 しかし、何故あさっての方を向いておられるのか?」

「私は男色でしてな――そのぅ、貴公のお顔を直視すると目が潰れます」

「正直な御仁を嫌いではない。お話はそのまま伺うとしよう」

してやったりの顔をする王自身が側で聞いているのを分かっていて、

グエンは先ほど持ち掛けられた取引に不満があるようなことを言ってのけた。商人の度胸だ。

「何がご不満かな?」

「武術大会を運営するとなれば、相当な資金が要りますぞ。その後の競売に回す資金が足りなくなってしまいます。私は負ける勝負などしたくない」

「なるほど。何か大金の要るオークションなのですな」

魔王がアルフレッドを振り返った。

王は大仰にうなずいてみせる。

「では、この魔王からご提案いたそう。余はこのほど、人間界で商売を始める事にした。カンパニーをこしらえたばかりである」

商人の眼がぎらりと輝く。哀れっぽい姿で同情を誘うひ弱な人間はもういない。

辣腕にふさわしい強かな姿と顔を、グエンは取り戻したのだ。

「我が商会との取引をなさりたいと?」

「いかにも。お近づきの証に、協賛金を負担し……その後の取引の利益は6:4で分配したい」

「8:2でいかがか」

「構わん」

「そちらが損をするだけですぞ」

「こちらは商売の心得から学ばせて頂かねばなりませんからな。とりあえず下手したてに出ておこうかと」

手を打ちましょうぞ、と上機嫌で言ったグエンは、大好物の酒を一気に飲む。

どこかお茶目な仕草だと、アルフレッドは思った。

2019/7/29更新。

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