後編(11)/恋愛狂騒(7)
「懐かしそうになさるのだな」
「ウィルフレド陛下とスチュアート卿と三人で、よく楽しんだ酒でございます」
「……そうだったか。父は年に一度だけ、前後不覚になるほど吞んだ。
その一番初めには、いつもこの酒を開けていたよ」
商人は「ありがたく」とつぶやいてから、グラスを一気に傾けた。
美味にございますな……と言った声がわずかに潤み、震えている。
グエンとウィルフレド、そしてジェノク=スチュアートは、生涯にわたる友情を誓った友なのだという。
「歳若き折は、スチュアート卿もよき御仁でした。当時は王立学校で一番のハンサム、明るく豪放だった。
結婚を意識する歳になると……徐々にですが歯車が狂っていったように思われます」
「聞いてもいいか」
「スチュアート卿は有り体に言ってモテる男でしたから、ひっきりなしに異性と交遊を持っていました。
王立学校を卒業した頃には、公然と愛人を作っては婚姻せぬまま捨てるようになっていった」
ただ一人、彼が自分から夢中になった女性が、彼を恋愛対象として見なかったこともあるだろうと商人は言った。
それから何人の子ができても決して喜ばず、
よい引き取り先か捨て場を探せと高圧的に頼まれたことも数知れなかったという。
スチュアート家は男系で続いて来た伝統の名家だが、彼のもとに生まれる子はみな女子であった。
「彼を嗤うことは私にはできない。男色を隠すためだけに愛人を囲っていた私には」
「その女性らは?」
「私に子を授けてくれましたが、みな離れていきました。見透かされていたのでしょうな」
「彼女らと共に過ごす間は、どうだった。今でも楽しかったとお思いか?」
「若さ任せの愚かな所業ではございましたが……。誤解を恐れず申せば、楽しゅうございましたぞ。
決して手の届かぬ相手にただ憧れているより、よほど良かった」
商人はふと過去から戻ってきて、
「陛下は――いえ、陛下にもご迷惑をおかけしてしまった」
「俺に謝る必要はない。その件で話があるんだ。商人として聞いて頂けないだろうか」
大商人は背筋を伸ばして居住まいをただす。「どのようなお話でありましょう」
この商人がどういう野心を持っているのか、正確なところは分からない。
だが、調べれば分かる事もある。考えれば分かる事もある。
彼について知った限りの事柄をすべて考えた結果、王はひとつの結論を導き出していた。
「グエン殿は……コルトシュタインの金山をご所望だろう」
「ついに気取られてしまいましたな」
「それを咎めはしない、俺自身、厄介な物を持ったものだと思っていた」
「陛下、何をお考えで」
黄金王が決意を込めて言う。もとより武器は、懐から取り出した一枚の書面だけだ。
「ここに金山の権利書があるっ。これを競売にかける、貴殿にも奮ってご参加いただきたいのだ!」
これまで金山を求めてやまなかったであろうグエン氏には申し訳ないが、
ついに言ってやったという鮮やかな感慨が、アルフレッドの胸を占めている。
2019/7/26更新。




