後編(9)/恋愛狂騒(5)
魔王に打ち明けたことで自信を得たアルフレッドは、最も知らせるべき者らに遠大な計画を話した。
概ね好感触だ。
クリストフは再び彼女の指揮下に集った〝金鞘”のメンバー3人と共に、来るべき日に備えて鍛錬を開始した。
小さなこころで懸命に悩んでいたものか、悪戯好きな面が影を潜めていた『翠の』ニーナも、
王の話を聞いて久しぶりに笑った。
「無茶をなさるのですね」
「それしか長所がないんだ俺」
「わたしはいいと思います。やっぱり陛下はかっこいいお兄さんなのです」
「お兄さんか。悪くないな」
「それで、その大会に年齢制限とかは、あるんでしょうか?」
「特に決めてないが……ニーナも出たいのか」
「はい。お父様と対等に勝負できるかもしれないんですもの。楽しみになってきました」
大きく輝く緑の瞳が、悪戯っ子のようにきらめく。
グエン氏の溺愛ぶりも納得が行くというものだ。
その娘の顔を曇らせてしまっている現状、彼の心のうちはいかばかりだろう。
「グエン殿はお元気かな」
「わたしは、お家から少し遠ざけられてしまっているのですが……仲良しのメイドによれば、病気になったりはしていないみたいです」
ある種の気の病のようなものだろうが、そんな推論をこの場に持ち出しても、ニーナに負担をかけるだけだ。
「それならいいんだ。ちょっと相談があるから、会って話をしたいんだよ」
「? ……武術大会のこと以外にですか?」
敏い子だ。
何でも見透かされそうな緑の目から、目をそらさずに頷く。
「無茶ついでに、ちょっと勝負を挑んでみようかと」
「ギャンブルは大人になってからですよー」
「俺は大人だってば」
「そうでした」
ぺろりと舌など出してみせる。本当に可愛らしい娘だ。
全幅の信頼と愛情を向けられているジェシー=ヴェント少年は果報者だと思う。
婚約記念の武術大会など思いつきの域だと言われればその通りで、
いつものごとく開き直るくらいしかないが……。
ジェシー少年が思い人の父に認められるだけの実力をつけ、堂々と披露することが出来るまでの時間は作れるはずだ。その大きなきっかけとなれるはずだ。
クラウス卿が始めた武術教室に通っているなら、師匠が違っても同門の後輩である。
友の困難には忌憚なく手を貸すのが当然だ。
「で……陛下」
「んん?」
「『金の』ニーナと『黒騎士』さまでは、どちらがお好きなのですか?」
新たに組織された〝金鞘”を実質的に率いる『黒騎士』ことクリストフは、
『霧のプリンス』レオンに次ぐイケメンとしてすでに巷で人気を博しつつある。
大手の大衆新聞でも特集が組まれるほどだから、警備隊の内部なら言わずもがなだ。
「分かってて言ってるだろ」
「えへへ~。レンアイ話って楽しいじゃないですか」
昔から何人も愛人を囲っているという噂の父のことなどまるで気にしていない。
精神的な器量も、〝どちらも大事にして行く”と未だに言い切れないアルフレッドより、
ずっと大きいようだ。
「こりゃどうも参ったね……」
さすがの黄金王も、彼女にかかれば形無しであった。
2019/7/25更新。
2019/7/29更新。




