後編(7)/恋愛狂騒(3)
「スゴロクさんはすげぇな。考えることが大きい」
「どうした。辛いことでもあったか?」
「まあね……自分が基本的に何もできないことはわかった」
「わかったことがあるなら、まだ良し。最悪は事態に翻弄された挙句、何も得るものがないことだ」
それに比べればまだまし、という気休めである。
不器用な面も確かに持つ友の気遣いが、アルフレッドには嬉しかった。
「にしても、ちょっと変わったか? 表情とか」
「意外と目ざといな」
「意外と、は余計だ。話せよ―減るもんじゃなし」
気を利かせてか、女性陣は席をはずしてくれた。
「まあ……親しく話して女性陣のご趣味に貢献するもよい」
「何を言ってるんだ? いいから聞かせてくれよ」
何から話したものかと困ったように微笑みを(以前はこの表情もしていなかった)浮かべた魔王は、
魔界の城を旅立つ際の〝てんやわんや”をかいつまんで語った。
表情や話し方の訓練を改めて積んだ事、鳥人族のキザ男に勧められて姿を少年に固定したこと。
自らの力を押さえ込むローブを開発した時の苦労話――私室が何度も爆発して側近に怒られたところで、
ついにアルフレッドは爆笑してしまった。
「そんなにおかしいか? 余としては至って真面目に取り組んできたのだが」
「だからおもしろいんだろ。旅に出るだけで何でそんなエピソードができるんだっての」
「ふふっ……相変わらず楽しい男だ。疲れることも、辛いことも、あったろうにな」
「まあ、ね。美女と美少女ふたりも侍らせといて、凹んだままってのもさ。贅沢ってもんだろ」
「侍らせているのか。聞き捨てならんぞ?」
「嘘うそ、冗談だって。二人とも大事にしてる、つもりだ」
傍らに置いた杖を構えそうな魔王の様子に、慌てて言い訳をする。
海を旅する間じゅう美女たちと過ごし、未だにその全員と仲良く過ごしたりなんかしている叔父は、
どうやって気楽な関係にまでたどり着いたものだろうか。
「……うむ、真剣に思ってのことだな。信じよう。大事にすることだ、どちらも悲しませぬ方法を探せ」
魔王がしずかな笑みを浮かべる。
解析と判断の魔眼は、やはり伊達ではないようだ。
「さっきから俺のことばっか心配して――嬉しいけどさ――そっちはどうなんよ」
「ん?」
「魔族だったらいろいろあるんじゃねぇの、その、デリケートな話」
「ああ、デリケートな話か。旅に出る前に、側近と婚約したな」
「侍らせてんのか、けしからん」
「待て待て」
ロデルというその娘に、自分の他に慕っている者がいることも知っているから、
その辺は自由に振る舞ってよいと言い聞かせたという。
「マジか……」
「思う相手の幸いこそが最優先である。独占することは、ただ己を満たすに過ぎん」
「辛くねぇの? 嫉妬とか」
「ないな。自分にとって大切な者が、自分以外を大切にするのを、なぜ認められん?
自分への情愛は担保されているのだ。ロデルの振る舞いに文句はない」
「それは……常に相手の理想どおりであれる人が、言えることだろ」
「魔王にできて、人の王に……貴公にはできぬと?」
魔族の価値観だ。自分に出来るとは、アルフレッドには思えない。
2019/7/24更新。




