後編(5)/恋愛狂騒(1)
遅すぎた感はある。
しかし、事ここに至っては、いよいよアルフレッドも床に伏したままでいることはできない。
黒衣の騎士を新たに迎え入れてからほどなくして、『緑風商会』からの大きな働きかけがあった。
見合い話である。
お相手は当然、会頭の末娘。
王が勝手に『翠のニーナ』と呼ぶ、警備隊の長だ。
特別にあつらえた騎士の装いをして職務に奮闘する様子は見ていたものの、
ここにきて自分との見合いとは。
「困ったもんだな、グエン殿にも」
「王、そろそろ動かれるべきでは?」
控えめに進言するクリストフに、真面目な顔をして頷く。
「ああ。決して何も考えてなかったわけじゃないぞ」
「本当かなー?」
ずずずいと身を乗り出してくる。
からかい半分の動作をして、反応を楽しんでいるものと思われる。
……無論、アルフレッドも悪い気はしていない。
「近い近い、近いよ。本当だって」
実際、何かを堪えている様子の『翠の』ニーナと話す時間を、しっかりと確保している。
警備隊の訓練にお邪魔した当初は驚かれたものだが、最近はもう皆も慣れてきたようだ。
クレシダなどはわざとらしく、「隊長さんを狙ってるわけ~?」
などと意味不明の発言をして場を混乱させてくれたりするのだが、
それもまた話しやすい雰囲気を作ってくれている。
ファーウィンド一族の事情や動き、ニーナ自身がどう思っているのか。
頻繁に確かめ、うかがい知ることが出来ている。
「計画っつーか思いつきっつーか、あるにはあるの。
ただちょっと、大掛かりになりそうなんでな。迷ってたわけよ」
「気になります。こっそり教えてくださいよ、クローゼットで過ごした仲じゃないですか」
「いつの話を持ち出してるんだよ、ったくもー」
「クローゼット……?」
二人のやり取りをおもしろそうに見ていた『金の』ニーナが、耳を尖らせんばかりに反応する。
「いやいや、ニーナもそこだけに反応すんのやめてくんない? やましいことは一つもないんだよー」
これではまるでラブ・コメディに出てくる遊び人そのものである。
といって、ここで昔の話を長々と聞かせるわけにもいかない。
「美女と美少女を二人も侍らせてるのは、やましいことじゃないんですかねぇ?」
「うへぇ……自分で言ってるよこの魔導師」
この場は愉快な不名誉をおもしろく笑っておくことにする。
思えば、以前から無茶と無鉄砲ばかりしていた。
今さら一つや二つの無茶を重ねたって、何も変わらないだろう。
王を自称する者が国民全体でなく、周囲にいる人間を見て動く。
正しくはないだろう。
だが……悩む者の一人も助けることもできずに、何が王か。
苦しむひとりを救えずに、何が王か。
良い国にすると誓った。
ひとりの苦悩に向き合う事で、国家に資する行いができる。
「正直、自信はまだ戻ってないけどな……やれることはやるさ」
クリストフがまた顔を覗き込んできた。
瞳に魔法で刻まれた古代の文字を見る。
「陛下を、信じます」
寄せられる信頼を、もう重いとは思わなかった。
2019/7/24更新。




