後編(4)/騎士の帰還(2)
ひとしきりニーナと遊んだクリストフは、改めて王の前にひざまずいた。
「不肖、クリストフ=スチュアート。アルフレッド王の御前に在りますことを、お許しいただきたく」
「ああ。許すともさ……ダサいとこ見せちまった、俺こそ許して欲しいくらいだ。
っていうか……いつから見てた?」
「覗き趣味はありません。『ばかだと思うか?』とおっしゃった辺りからだけです」
「ほぼ全部じゃねぇか! ったくお前はよう……」
「やっと笑ってくださいましたね、陛下」
「どっかで聞いたセリフだぜ」
「それだけ印象に残っているという事です。
貴方の言葉は、一人の人間の気持ちなどすぐに左右させてしまうのですよ。今はお忘れかも知れませんが」
押し黙った王のために、彼の臣下も口を閉じて身体を動かす。
どこに持っていたものか、複雑な意匠の小さなテーブルとティーセットを取り出した。
「さあ、陛下。魔界産の貴重なお茶です。あやしい薬は入っていませんから、是非どうぞ」
ベッドを降りて絨毯に座り込み、遠慮なくカップを口に運ぶ。
紅茶の爽やかな味と、小さく焼かれたアップルパイの甘さを堪能する。
すっかり食いしん坊と化したニーナは〝姉”にせがんで、さらに魔界の甘味を取り出してもらっている。
「陛下。どうなさったのですか」
「やり手の商人に追い詰められてピンチ」
「何回ピンチになるのよ」
「一回はお前も関わってただろうが」
「うん。そうなんですけどね。
早く動けてればあんなことしなくて済んだんですけどね。もう勘弁してくださいってば」
「……それだけ危機に陥るってのはさ。俺に力がないってことなんだよな」
「ご自身でそう思われるなら、そうでしょう。でも、出来る事は本当にないでしょうか。
私は早々に諦めてしまったから、父を止めることが出来なかった。アルフレッドは?」
「動くチャンスをうかがってるうちに打ちのめされてこの状態。ののしられたって文句言えねぇけど、
皆優しいんだよ……憎んでもくれねぇや」
「憎むべき点がないという事です。詳しい事情は把握してませんが、まだチャンスはあるはずです」
「変わったな、クリストフ」
「ええ。自分で驚いているくらい。もう薬も飲まなくて済みます。これからは頼っていただいて大丈夫ですからね」
「心強いよ。おやつ俺にもくれ」
「あら、そんな甘えん坊でいらしたんですか?」
からかうように言いつつも、魔導師は小さく美しい菓子を王に手渡す。
「ブルーベルにもよく言われる」
「姉貴分として見てくださっているのですね。
照れて言葉にはしてないみたいですけど、彼女も嬉しそうですよ」
「あ、連絡は取ってたわけね」
「いろんな人とのつなぎを持つのが楽しいらしいです。魔界にまで気軽に来られるとは思いませんでしたが」
魔界の駿馬を持っているというのは嘘やホラではなかったらしい。
「もっと上手に人を活かせるようになりたいな……」
「できます、陛下なら。私もいる」
大丈夫ですよともう一度言って、クリストフは笑った。
2019/7/23更新。




