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後編(2)/若さと野望と(2)

小人は普段、決して王を名前で呼ばない。

上司と部下として一線を引き、それを順守する真面目そのものの伝令官である。

その彼女が紫の帽子を机に置いて、まっすぐにアルフレッドを見ている。

「私もレオンと同じ思いです。私は貴方を信じる。

 その貴方が信じるなら、どんな悪党だって信じてみせますよ」

いつもの酒場のいつもの個室だ。が、レオンは同席していない。

たった一人の商人に管理されているような都市の現状に嫌気がさして、つい先日、旅に出てしまった。

君を嫌いになったわけじゃない、と言ってくれたのが、王にとっての救いだった。

「貴方は、彼より若いというだけ。ブルーベルや私から見りゃ、あんな奴ただのいきがった小僧です」

「……そう言えばお前、いくつだ」

「人間の勘定に合わせるなら180を過ぎましたね。ギリギリ大戦を経験していないってだけ。

 ああもう、貴方があんまり素直だから、自分でバラしちゃったじゃないですか」

「ははは……悪りい悪りい」

「ま、素直な貴方に挑んで来るのは、私みたいに素直な奴ばかりじゃないってことですよ」

分かったら城まで連れて帰りなさいと言い終わる前に、小人は眠ってしまった。


アルフレッドは待った。

ひたすら待った。

年が明け、春が過ぎても、まだ動かなかった。

彼がたのむのはただ一つ、以前のグエン氏が言っていた、父親としての彼の言葉だけだ。

恩師も、親友も、かつて目の上のたんこぶ役を引き受けてくれていた人も、大事な女性も。

彼のもとを離れる者は誰もいなかった。

ただひとり違う道を歩むレオンからは、面白おかしい旅の様子が魔法の手紙で送られてくる。

誰も離れてはいない。誰の心も、自分を見放してはいない。

そう思えることが、停滞する国家の中で19歳を迎えたアルフレッドを支えていた。

ヒマな日は父を見習い、変装の仕方を変えて市井を遊び歩いた。

相変わらず密室で決定される街の商売ごとを見回る手段として考えた、苦肉の策である。

こうなってみて初めて分かる事だが……。

自分が王としてできることなど、思っていたよりもずいぶん少ないのだろう。

コルトシュタインはもとから自立心の強いお国柄だし、議会も持っている。

国王として行う公共事業も、充分すぎるほどに設備が整っている現在は、あまり話が持ち上がらない。

手に有り余るほどの『王の力』も、

最近ヤケに活発になった魔物から国を(物理的に)守ることに使っていれば、多分それでいい。

自分の子供を育てたことはまだないからよくわからないけど、子の自立を見守る親というのは、

こんな複雑な感情を持つものなのだろうか?

父に国の現状を詳細に記した手紙を送ってみたが、

〝好きにやってみなさい”とやたら達筆な一言が返って来るだけだった。

……信頼が重い。

即位した頃の目の回る忙しさが懐かしく思われるほどだ。

何もできない、と思う日が、まさか自分に来るなんて。

2019/7/23更新。

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