後編(1)/若さと野望と(1)
グエン=ファーウィンド氏の知られざる危惧は、半年と経たないうちに表面化した。
黄金要塞で商いをするほとんどの店を買収し、コルトシュタイン商工会の面目を叩き潰した。
マクシミリアン会頭を始めとした幹部らにその職を退かせ、自らの親族を据えた。
代々の王の立会いのもとで行われていた会議は廃止され、街の商売に関することはすべて密室で決められるようになった。
商工会の後ろ盾を失っても、粘り強く個人で経営を続ける商店には、
独自の販路で仕入れる商品を卸して儲けの一部を納めさせる形で圧力をかけている状態だ。
今やコルトシュタインで新たに商売を始める者は彼の『緑風商会』への加入を義務付けられ、彼の名前で商売をする以外に選択肢を与えられなくなってしまった。
不正を働いているわけではない、のがグエン氏のうまいところだ。
彼は王立議会の議員に〝これでもか”と献金を行い、体よく自分の意志を国家まで通す体制を整えた。
実直とまでは言わないが、父親として悩んでいた彼の様子を知るアルフレッドにしてみれば、
まさしく人が変わったような辣腕ぶりであった。
代々、民間の商売には不干渉の姿勢を貫いてきた王家である。
事ここに至るまでに何か動きを見せられれば、止めることは出来たかもしれない。
しかし、商売をしていない層の市民や冒険者にとっては、
『緑風商会』の安くて質のいい商品が、わかりやすくすべての店に並んでいることは利点だ。
商売上のいざこざも起きないから、王がわざわざ出しゃばることを望む者もいなくなった。
悪いことばかりではない。
税額が下がり、仕事の種類と働き口が増えた。
技術を持つ者はこの街だけでなく、金山を越えた先の街にまで飛び出して稼ぎを増やしている。
緑風商会が一手にする利益も、新たに作られた給付金制度で市井に還元され、
スラム街を解消の方向へ導いている。
悪いことばかりではないのだ。
市場から、国から自由な雰囲気が消えたというだけだ。
「……これでいいんですかね、王」
あれほど望んでいた休息の日々は、無理にゴネなくても手に入るようになった。
国政に関わらないことがこれほどヒマを産みだすなんて、考えたこともなかった。
酔っ払ったアルフィミィの愚痴を肴に、『銀の歯』で吞むことも珍しくなくなった。
「いいとは思わんさ。けど」
「私は貴方を信じている、何でも聞きます」
「まだ、動けないんだ。グエン殿とは約束がある」
「それは……この街を変えてでも守らねばならない約束ですか」
迷った挙句に、そうだ、と告げた。
小人が腕を組んで押し黙った。明日は雪かも知れない。
「もっと責めてもいいぞ、アルフィミィ。グエン殿がここまでやる人だとは思わなかった。
感情に負けて正しく予測をつけられなかったのは俺だ」
「……つまんないこと言わないで下さいよ、アル」
酒の匂いが小人から消えていく。
2019/7/23更新。




