日常編(14)/奇跡の子(2)
燦然と輝く朝日のように、存在するだけで周囲を明るくしてしまう娘だ。
公休2日目に連れて行った『銀の歯』での様子が、王にも楽しく思い出される。
年齢的に(10歳ほどだ)酒は飲めないが、他の客から奢ってもらう軽食や菓子をおいしそうに食べていた。
レオンが気まぐれに弾く異国の弦楽器に合わせて踊り、酒場に逗留している詩人の歌を聴いた。
首を小さく動かして拍子をとっていたのを見て、本当は歌いたいのだろうかと思ったものだ。
「どうだ……この国は。俺の国は」
尋ねるでもなく言いながら、幼子の頭を撫でる。
こそばゆそうにしながらも表情を笑み崩し、そのうちにころりと眠ってしまった。
公休の二日目にクラウス卿が持って来た菓子を渡そうと思っていたのだが……。
王は誰にともなく頷いて、薄い掛け布を手に取った。
その日の午後は公休明けと言う事で、商工会との会合が組まれていた。
マクシミリアン=レングズ会頭は暗殺騒動を無事に乗り越え、職務に復帰している。
王がまず『暗殺事件』での働きを労うと、彼もよく知る豪傑のような笑い方で「お気になさらずともよいですぞ」と大見得を切って見せる。
〝よく食いよく眠るは良き仕事の始め”という信条通り、騎士時代のがっちりした体格を保つ元気な老人である。
「それよりも、陛下。『緑風商会』をご存知でありましょうか?」
「ああ。会頭の娘のニーナ嬢が、警備隊の長を務めてくれている」
「そのグエン殿ですが……街の商店を次々に買収しているようなのです」
「デパートメントでも作るつもりなのか?」
「それに留まればよろしいのですが……警戒なさるがよろしかろうと思います。
さすがに、かの暗殺騒動のようなことは起きますまいが」
そう何度もあっては俺が困る、と冗談めかしたが、マクシミリアンの人柄と調査力は信じるに足る。
商人らに納めてもらう税金の額や貧困層への給付の方法などを考える際には必ず参考にしてきた。
ファーウィンド氏のことについても、ライバルを蹴落とすために行状を密告しようとしたわけではあるまい。
彼の眼から見て、少々あくどいと思われるやり方をしているのだろう。
話を聞いて見なければ判断しかねるところはあるが……。
「いっそ突撃でもするか?」
「素直さは陛下の美点でありますな」
「無謀だと思うか」
「はい。商人ならばもっと慎重に動くところでありますな。
何かの覚悟をお決めになったようだが……何事も焦るべきではありませんぞ、陛下」
「そんなに無鉄砲な奴だろうか、俺は」
「若さの特権です。公の権威もお持ちなのですから、時と場合によって使い分ければよろしい」
「難しいな……王なんてのは」
談笑しているうちに、窓の外に次々と馬車がやってくる。
今日の議題は税額と、新たな遊興施設に関してだというが……さて。
2019/7/22更新。




