表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/94

日常編(13)/奇跡の子(1)

「もちろん、私にも根拠なんてありません。『奇跡の月の子』なんて、伝承として残っているだけで、

 誰も解き明かそうともしない……世界の謎の一つです」

「けど、信じるに足る。そう思ったから俺にも話したんだろう?」

「ええ。クリストフ様はずっと、おひとりで悩んでいらしたから。ろくすっぽ解決策も提案できなかったこと、私も後悔していますわ」

ブルーベルは静かに目を伏せる。

「けれど、貴方が私たちを覆っていた影を退治してくれた。暗闇を払ってくださったわ。

 これよりは御恩返しのため、しっかりと働きますからね」

言いたいことを言うだけ言って、ブルーベルは塔の方へ歩き去った。

「……」

王はソファに身を沈めて、ラルフのことを考える。

望むものを与えてくれていた君主に残酷に裏切られた彼は、なおもその影を追っている。

第三の月の奇跡はまた起きるだろうか?

魂にこびりついた邪悪な影を取り除かれ、新しい身体と心を得て、

ラルフが君主と見定めた世界でたった一人の男は、復活を見るのだろうか。

考え込む王の部屋に、控えめなノックが三度、響いた。

「ニーナ、おいで」

静かにドアを開けて、金龍の娘が歩いてくる。

音もさせない身のこなしは変わらない。剣自慢のクラウス卿が激賞していただけのことはある。

「練習は楽しかったか?」

ちょこんとベッドに腰かけた幼子に、ソファを降りて目線を合わせた王が尋ねる。

嬉しそうににっこりして頷いた。

ウォルト=ケネスが開いた武術教室に通わせている他、リュミーィシェ夫人の講義も受けさせている。

無理をさせようというのでは決してない。本人の希望あってのことだ。

歳に似合わぬ多忙でもまったく疲れることなく、新しい環境での日々を楽しんでいるようである。

ニーナはアルフレッドが自ら作って持たせた筆談手帳に、素早く文字を書いていく。

生来無口な性質のようだとクリストフから聞いているが、懇意の魔法医師によれば、

無茶な身体強化の後遺症が少し残っているという。

本来は暗闇をはねのける金龍の力を減じて、あえて暗黒魔法を受けたというのだ。

自分をこの世界に出現させた人物の願いに、この娘の取りうる方法で応えたのだろう。

王は上機嫌で、娘が書き終えた文字を読む。

仲のいい友人と手合わせを何度も行ったとか。

警備隊の隊長をつとめる、ファーウィンド女史のことだ。

彼女の名もニーナという。

初めて顔合わせした時には、王も存分に驚いたものである。

最近頭角を現しつつある『緑風商会』会頭グエン氏の末娘だが、

本人は至って淑やかで、優れた才能の割に嫌味なところがない。

可愛らしい所作や容貌も相まって、警備隊員からの人気が高い。

悪戯好きで表情がころころ変わる、触れ合うのが楽しい女の子といったところだ。

多少のひいき目はあるが、俺のニーナも決して負けていないぞ……。

などと、意味不明の自信を持っているアルフレッドである。

2019/7/19更新。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ