日常編(12)/暗闇を払って(9)
しかし、今の彼はいささか感情的になりすぎている。
王は大演説になりそうな議長の言葉を、やはり遮ることにした。
「ドナーグ議長、言わんとすることはわかる。落ち着きたまえ。貴殿が議会を支えておられるのだ」
「……はっ。申し訳ありません、私としたことが」
「貴殿がお考えを、ああまで述べられたのを初めて聞いた。王として嬉しく思う。
これまでのご提案についても、鋭意検討を進めたい。よろしいか?」
「はっ……」
「それにな、議長。王は貴殿らが身銭を切って傭兵団を組織してくれたことも知っているぞ。
功績を誇ろうともせぬ驕りなき姿勢、見習わねばならん」
アルフレッドとて、外から文句ばかり言うドナーグらを煙たいと思ったことが何度もある。お互い様だ。
スチュアートのような人間を、二度も三度もこの議会から出すことはまかりならぬ。
独善的にならず、議論を大きく見渡すのが王としての役割なのだろう。
「かたじけない、陛下。よりよく努めまする」
「期待している。……さて、他に王が留意すべきことはないだろうか? 皆々、忌憚なく述べられよ」
朝の会議は短い。
貴族院の議員が集まる中で、議長と一対一の会話をしているわけにもいかない。
武器調達の方法を充実させるべきとか、いざという時に官民一体となって避難できる地域を確保すべきとかの意見が出された。
暗殺騒動で、さすがの貴族たちも自衛の必要性を理解したようだ。
方法としては少々効率が悪かったが、暗殺組織は充分な成果を上げたと言えるのではないだろうか?
他に意見が出ないことを確かめてから、王は会議を閉じた。
――。
「なかなかのお手際でしたわね」
私室に戻ってくつろぐアルフレッドのもとに、ブルーベルが姿を現した。
「見てたのか?」
「〝姉”としては気になりますことよ。私の提案をご検討いただけて、個人的にも気分がよろしいわ」
「黙って使わせてもらうのは悪いかとも思ったが、俺が話をしていない組織のメンバーをないがしろにしたくなくてな」
「お気遣いありがとうございます。彼らも陛下に対して悪い印象を持っていませんわ。大丈夫です」
「俺はなかなか時間が取れそうにない。〝姉上”にはぜひ、新ギルドとのつなぎ役を頼みたいんだ」
「あらあら、困った〝弟”ですこと。仕方がないから引き受けますわよ」
「ははは……ぜひよろしく。で、本題は?」
「ラルフが消えましたわ」
だろうな、と王は言った。
いつの間にか、初夏のひと月も半ばである。
第二の月が隠れ、第三の月が顔を出す頃だ。彼の腕ならどこに行っても危険はないだろうが……。
「伝承どおりのことが、そうたびたび起きるものかな」
「さあ。私も何度か、『奇跡の月の賜物』と出会いましたけれども。頻度なんて計ったことないわ」
「そうか。ちなみにどんな奴に会ったことがある?」
「貴方のお傍についているでしょう」
そういうことか、と王は内心膝を打つ思いだった。
ニーナは親を持たずに生まれたのだ。
人族を明るく照らす第三の月の、もう一つの力によって。
意志ある者の願いを受けて、世界に新たな生命を出現させるという……奇跡の力によって。
2019/7/19更新。
2019/8/31更新。




