日常編(10)/暗闇を払って(7)
「もう、貴方が知っている私ではなかったから。変わってしまったから。父が貴方に殺意を向けているから。
――全部、言い訳ですけれど」
「そう、か」
「……だから、貴方は何も悪くない。父や私のことなど、気にする必要もない。よいと思われることを、
忌憚なく行われて……どうか、ここを良き国に」
コルトシュタインを離れてしまうような言い方だと、アルフレッドは思う。
思い切って尋ねた。
「スゴロク殿から、魔界へ招かれています。処分が決まらねば動けませんが……。
どうしても、かの地へ行こうと思っています」
「……」
「ニーナのことをお願いしたいのです、陛下。あの子が私を変えてくれた、背中を押してくれた。
あの子がいなければ私はこの世界にいなかった、……私の気持ちも、あの子に預けて行きます」
決断は変わらないだろう。
かつての友人として留めても、王として命じてもだ。
自分がうじうじと考えている間にも、彼女は自分がどうするべきかをきちんと決めていたのだ。
アルフレッドは沈黙した。
クリストフも静かに傍にある。
時間を惜しむように。
……王が、ようやく口を開く。
「今、決めた」
「どんな罰も覚悟しています」
ゆったりとした部屋着の、首許を留めた紐を緩める。
「よせ。……違う」
「……」
「世界の男が、みな邪鬼のようだとは……俺もそうだとは、思わないでくれ。どうか頼む」
「ごめんなさい……陛下」
王は薄く笑って、緩んだ紐を結び直してやる。
「変な誤解をさせた俺も悪い。大体、これは全年齢対象の物語なんだから」
「だからメタなことを仰いますなってば。ああーもう、雰囲気とか台無しじゃないですかっ!」
やっと笑ってくれたな、と王が小さく呟く。
クリストフの敏い耳は、しっかりとその声を聴いた。
「冗談はこのくらいにして。
……陛下、私もできることなら、お傍にありたいと思います。だけど……少なくとも今は、できない」
「何故だ。俺にとっては、お前たちを天秤にかけることすらしかねるんだぞ?」
「鈍感」
「ぐっ……」
「私が大好きなニーナを、陛下がお好きにならないはずありません。そんなこと考えなくたって分かる。
正直、私も一目惚れですもん」
だから、同じ舞台に上がるには、自分には準備が必要なのだと。
クリストフは大切そうに言った。
「何も手を打たねば、刑に服するよりも先に命が尽きてしまう。私にはわかるのです。
私の一時の願いのために、貴方を悲しませるわけにはいかない。もう裏切りたくない……アルフレッド」
王は黙って、だが力強く頷いてみせる。
「なに、弱い私の命は脅かせても、魔王どのやニーナの気炎には手も足も出ぬ虫けらです。
これを従え、一人前の魔導師として推参いたします。国王陛下」
「承知した。新たな騎士の誓いと受け取る。いいな?」
「はい」
「俺も、お前や皆の思いにふさわしい、応える事の出来る王となろう。約束だ」
クリストフは微笑んで、静かに頷いた。
月さえ恥じて目をそらす、窓のカーテンの奥である。
2019/7/18更新。




