日常編(9)/暗闇を払って(6)
「自分がもっと強ければ、とか思ってないか?」
図星だ。
クリストフは黙ってしまったが、アルフレッドの言葉にはしっかりと頷いてみせた。
「俺もずっと考えてた。3つほどある、聞くか?」
「……はい」
「ひとつ。今回の事件だが……考える余地って言うか、余裕はなかったか。責めてるわけじゃねぇ、確認だ」
「考える余裕……なかったですね。父の計画をどうにかしたい一心でした。
今になって分かる事ですが、私は貴方を傷つけるのが嫌で堪らなかったんだと思う」
「それは嬉しいんだが――なぜ、最初から自衛軍に密告しなかったんだ?」
「……あ」
クリストフが〝初めて気づいた”と言わんばかりに間抜けな声を上げた。
やはり考慮の外にあったようだ。
そうなのではないか、とアルフレッドが思っていた通りだろう。
「クレシダが言ってたように自衛軍がアテにならなかったっていうことなら、俺にも責任はあるけどな。
それにしたって、ちょっと分かりづらいぜ? 王冠の盗難から暗殺を連想するのは、さすがに難しいわ」
同じ事に思い至ったのだろう。
最初から自衛軍に、スチュアート卿の暗殺計画を告げる事より簡単な解決策はない。
なのに、空回りに近い遠回りをしてしまった。誰もそれと気づかずにだ。
そんな不自然さも理解できないほど……自由すぎる魔族の発想に頼ってしまうほど、
自分が追い詰められてしまっていたのだということに、彼女も気づいてしまった。
クリストフは真っ赤になって、すぐにうつむいてしまう。
痩せた肩を震わせているから、きっと声を立てずに笑っている。
「……本命の警告とかはリコシェ任せだったって言ってたけどな、奴らは」
「クレシダ達には少し、無責任で子供っぽいところがあります。頼れる者を見分ける嗅覚は本物ですよ」
俺はどうにか合格ってところかね、とアルフレッドは大きく息をついた。
「もう一つは自衛軍の事。連中がもっとしっかりしてたら、お前も相談しやすかったんじゃないかと俺は考えた」
「……それは……少し、違います」
最初に頼るべき存在が警察機構たる彼らだったことを認めた上で、
そうできなかったのは自分の気持ちの問題だった、とクリストフは言った。
「私は……貴方に会いたくなかった。昔のつながりを取り戻したいと思わなかった」
「そんなに頼りない王だったか、俺は」
「いいえ、決してそのようなことは。断じて」
「ならいい。続きを聞かせてくれるか」
「はい。つい口を滑らせて、今になって後悔しているのですけど……私は貴方の事が好きだったのです、陛下」
薬を買ってもらった恩は忘れていなかったが、それ以上の好意があったと、恥ずかしそうに言う。
充分に胸を撃つ言い様であり、態度である。
それでも自分の気持ちをここで話してしまう事が、アルフレッドにはどうしても憚られた。
ブルーベルやスゴロクには笑われてしまうような小さな迷いだが、彼にとっては大きなためらいである。
「……だからこそ、会いたくなかった。会えば、おかしくなってしまいそうだった」
クリストフの眼が、アルフレッドを柔らかく射る。
2019/7/18更新。




