日常編(8)/暗闇を払って(5)
ちゃんとしろ俺、と自分に言い聞かせてから、アルフレッドは目的の部屋の扉をノックする。
最も日当たりのよい塔、最上階。
同じく塔に仮住まいする他の者との軽い面談を終え、夜の帳が降り始める時刻になった。
「起きています。どうぞ」
掠れた声で返事が返ってくる。
妙に意識してしまい、彼女が城に来てからまともに話をしていなかった。
許しを得た王は慎重にドアを開ける。
「何を警戒なさっていたのです?」
「読者サービス」
「滅多なことを仰いますな、陛下……。さしずめクレシダ達の着替えでも見てしまったのでしょう」
「ああ。色んな意味で、どうしていいか分からなくなってきてる」
相変わらず楽しいひとね、と薄く笑ったクリストフは、ベッドに腰かけて隣に王を招く。
無言で座った彼に、
「この度は本当にご迷惑をおかけしました。責任は私にあります、どうか他の者らには寛大なる処分を」
口調を改めて願った。
「どっかで聞いたぞ、その言い方」
「目上の方への謝罪って、ある程度決まってると思いますが」
「組織を束ねる人間のプライドみたいなもんかなー、とな」
騒動の最中に失敗を重ねてしまったウォルト=ケネスも同じような言い様をして、
部下に累が及ぶことを避けようとしていた。
人の上に立つ者はこのようにあるべきなのだろうと、アルフレッドは思う。
「陛下。私も、色々のことを考えてみました。聞いて頂けませんか?」
「ああ。昔みたいに、とはいかないだろうが……話してくれ」
声を聞いていたい、という言葉をどうにか飲み込んだのを知ってか知らずか、
クリストフは少しの沈黙を挟んで、言った。
「父の事を、考えていました」
「スチュアート卿の?」
「はい。彼が魔物になってしまった理由。……時間があったから、思い出してみたのです」
一年ほど前から、剣を携えて深夜の街を徘徊するようになっていたという。
彼にしか見えない誰かを追っていたのではないかと。
「親父だろうな。若い時に母上を巡って争ったのを、古参の者から聞いて確かめた」
「ウィルフレド様を憎んでいたのには、そんな訳もあったのですね」
「うん。後になってわかるって、なんだか癪だよな」
同意を示したクリストフが続ける。
「四番目の月の光を、浴び続けてしまったのだろうと……スゴロク殿も仰っていました」
「何でも知ってるな……あの人」
「〝120年余の引き篭もり生活の賜物である”とか言ってましたよ」
四つの月が照らす世界には、それぞれの月について様々な研究がなされている。
これも謎多き分野で、物語の域を出ない説も多いが、少なくとも四番目の月には確信的とされる説があった。
それは魔物を生み出す月――世界に災いの種を蒔く、恐ろしくもうつくしい月。
スチュアート卿は浴びてはならぬその光を浴び続けて、生きたまま魔物に変わってしまった。
止めることはできなかっただろうか、とクリストフは言う。その顔にもう嘆きの色はない。
周囲の人や事情に大きく翻弄されてしまった者の哀しみが、確かに見て取れた。
2019/7/18更新。




