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前夜(5)/兆し

クリストフは無事に目を覚ました。

ゆっくりと起き上がり、小さく手を叩く。

1、2……迷って、3.

「やあ」

夢に見た魔導師が姿を見せた。「呼ばれなかったらダダ滑り、どうしようかと思っていたところだ」

「嘘おっしゃい。ああ言えば呼ばれないはずないと思っていたでしょう」

「冴えているじゃないか。思考誘導を受けているとは思えんぞ?」

クリストフは顔を真っ赤にして気色ばんだ。「なっ……!」

わざわざ暗黒魔法など使わなくても、他者の思考を操る方法くらいは体系化されている。

暗黙の了解として、人に用いられることはなくなったはずだが、

まさか自分の父親に考え方さえも操られているだなんて。

「これも嘘だと思うかね。ならば、心の内で徐々に大きくなる攻撃性をどう説明できる。

 恩があり、好意さえ持っている国王に、どうして会うこともできずにいるというのだ」

ぐうの音も出なかった。

魔法を解いて進ぜよう、という提案は断った。

父の野望と欲望は、必ず黄金要塞とその王に災いをもたらす。

自分が手先となって、アルフレッド王と対決してでも、彼を押し留めなければならない。

「頭の固い娘だな。うまく立ち回ればいいものを」

心を見透かされている。

隠すつもりはもうないけれど(隠したところで恐らく無駄だ)、あまり良い気分はしない。

ツンケンした物言いになるが、本音を抑えることも、この人物の前ではしかねるクリストフである。

「そこまで言う?」

「言うともさ。素直で実直なのはいいことだがな……。

 それだけでは、この場合は誰も救えぬよ。貴公自身さえもな」

魔導師はもう一度、思考誘導を解いてやろうか、と言った。

足りない自分の頭でも、考えれば何かが分かるだろうか。

「父に分からないようにできるんだったら、そうして」

言下に魔導師が口を開く。「失せよ」

と一言命じただけで、頭の中の微熱ともやが退いていくような気がした。

この人なら魔界の病原体もどうにかできるのではないか、という甘えが出てくるが、

そこまで頼っていては、父と向き合う強さとやらも手に入れられない。

そんな風に思えてならない。

「何か、他に解決したいことがあるか」

――甘えるな、私。

内心の決意を表情にも出さず、薄く笑って答える。

「いいえ。私の意志を取り戻してくれた、今はこれで充分」

「よろしい。では、父君の無茶な野望について考えていかなければな」

まずは状況を把握したい、という魔導師の要望を受けて、

父の副官であり組織の参謀でもあるラルフを呼びつけた。

「何用でありましょう、クリストフ様」

「心強い味方が来てくれたわ、ラルフ」

それは頼もしい、と皮肉っぽく笑んだ彼に、

組織の由来や存在意義たる復讐について整理するよう命じた。

父ジェノク=スチュアートは、かつて要職を務めていたコルトシュタイン議会と、

その議員の職にあるこの街の貴族すべてを強く恨んでいる。

その憎悪は先代の“賢王”ウィルフレドにも及び、

先王が築いてきたこの小さな都市国家そのものにまで向けられている。

その念願を果たさんとして集められたのが、ラルフら『暗殺組織』というわけだ。

2019/8/20更新。

2019/9/23更新。

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