日常編(3)/復讐所以(2)
狂気の兆しを見せつつあったスチュアート卿が「ウィルフレドを打倒する」と言い出すまで、
時間はかからなかった。
その当時までにも非道な所業を重ねて自らが怨みを買う者となっていたが、
彼はそのことに気づく暇もないほどウィルフレドへの恨みに燃えていた。
卿の暗い野望は、かつてすげなく捨てた我が子らを探し当てる所から始まった。
理由も告げずに集め、麻薬で意志を奪うのを、ラルフは見ていたという。
恐れて逃げ出そうとした彼は捕らえられ、すさまじい折檻を受けた。
身体強化の魔法をかけられた上で、存分に痛めつけられた。
ラルフはここで言葉に詰まった、と書いてある。
意を決したように、その時の痛みこそが自分のよろこびであったと告げたらしい。
彼は勇気ある男だった。
ずる賢い男でもあった。
君主のウィルフレドに対する復讐心を利用して、明らかに失敗するような愚かな襲撃作戦ばかりを立てた。
失敗しては折檻を受けた。
身体はすぐにボロボロになった。それでもやめなかった。
もっと、もっと、もっと――スチュアートの思いなど端から酌んではいなかったのかもしれない。
ただ彼を利用していたのだと、わずかな嘆きを見せている。
クリストフには〝尊敬する彼に人殺しをさせたくなかった”と綺麗なことを言ったらしいが、
この調書に書いてある言葉も確かに彼の本音だったろう。
そしてスゴロクの、魔族の度量は彼の邪欲を受け入れてなお余りある。
ラルフは全てが終わった今、中立たる理解者に醜い自分をも晒して見せたのだ。
やはり強い人間だ。
アルフレッドは書類をめくる手を休めない。
停滞を繰り返していたラルフ、いや彼ら暗殺組織の転機は、金龍の娘ニーナが現れたことだったという。
クリストフの調書と並べて読むとよくわかった。
調書というよりは複雑な物語の欠片であるかのように仕立ててある。
堅苦しい物事をとことん嫌うアルフレッドの性格を見ての事だろう。
おっさんの眼力は、魔眼などなくても侮れない。
少しだけ笑いを含みながら読み進める。
ニーナが現れたことで鬱屈していた気力が爆発したクリストフは、
父と王家の因縁に一気に決着をつけようとした。
巻き込まれて戸惑うラルフの心情も克明に記されているが、
アルフレッドは彼らに同調することが出来なかった。
彼らはスチュアート卿を、止められるタイミングがあったにもかかわらず止めなかった。
クリストフは言う、勇気がなかったからだと。
ラルフは言う、その状況を保つことを望んでいたからだと。
どちらも正しいのだろう。
どうして自分を頼ってくれなかったのかと、アルフレッドは考える。
自分が初恋の相手であったと、彼女は言ってくれた。
幼い頃から憧れていた人物の命を狙えと言われれば、自分も誰にも相談できなくなってしまうだろう。
ましてや、その本人に告げるなどは。
理解する。
理解しようとする。
次々と書類の束を咀嚼しては、ひたすらに全員分の調書を読み進める。
――窓には静かな月明かり。
2019/7/16更新。




