日常編(1)/事件終結
コルトシュタイン全土を巻き込んだ暗殺事件は、終わった。
渋りまくる議会を必死で説得したアルフレッドは、もと暗殺組織の構成員に対する処分を独断と偏見、
もとい、自らの権限において行う事を了承された。
「全員もらい受けるつもりだったのに」
通常営業を再開した『銀の歯』で祝杯をあげつつ、魔王が愚痴る。
「けけけ、奴らは譲らんよ。ただでさえ叔父貴に二人も引き抜かれちまったんだから」
「むぅ……貴公が大事なのは、あの二人なんじゃないのか」
「何でそれを……あ、例の魔眼ってやつか!?」
「何人たりとも、この眼は欺けん――浮気者」
「うっ、うるせぇよっ! 魔王なんかもっとすげえだろうが!」
個人差はあるが、魔族は恋多く愛深き種族である。
彼らの恋愛や夫婦の形が虹の数より多様であることは、人間族でも誰もが知っている。
「まあ、そうだけどな。余にも異母妹がいる。母も人間だし」
「そうなんだ」
「だから気にするなと言うわけではないぞ。本人たちの意向次第、レディ・ファーストだ」
「わかってるよ……世話焼き魔王め」
身の回りに麗しく愛らしい女性が一挙に二人も現れたことで、
アルフレッド青年の若いこころは大いに揺れている。
相談した訳でもないのにズケズケ茶々を入れてくるのを、この魔王だからだろうか、
むしろ好ましく受け取れていた。
「世話焼きついでに、約束通り調書を取って来た。一言一句逃さず記録してある。映像もあるぞ」
スゴロクはどこか楽しそうに、懐から分厚い書類と、布に包まれた正方形の箱をテーブルにどかっと置く。
組織の構成員すべての供述と動機、事情が記録されていると思われる大量の資料だ。
魔王がこれらをどこにどうやって持っていたのかは、最大の謎としてアルフレッドの心に残るだろう。
暗殺組織が全体として大罪を悔い、行状を改めんとしているのかどうか。
これは王が議会を説得した際、課題として彼らから示されたひとつだ。
王が組織についてのいくつかの不安を払拭してみせたならば、
処分を一任する事に反対しない、と言うのがコルトシュタイン議会の結論であった。
中立の立場である自分ならば公正な事情聴取が行えるだろうと、スゴロクが自ら手を上げた。
〝他人の考えを知って記録してみたいです”と顔に書いてあったのをあえて無視し、
魔界へ戻る前の頼みとして依頼していたのだった。
「この映像記録装置ってバカ高いんじゃなかったっけか」
「カネなどすぐに稼げる。それよりも、使いどころが問題なのだ。ケチな使い方をしたって楽しくあるまい」
「気を付けるよ」
「貴公の金遣いはなかなかよろしい。金山を持っている以上は銭カネの理不尽が続こうが……まあ頑張れ」
「おいおい、これ以上続くと俺がもたんぜ?」
「災いと幸福は表裏一体である。どちらが生きることを愉しめるか。勝負だ、アルフレッド」
「ああ。喜んで受けるぜ、スゴロクさん」
王と魔王は軽い調子で握手を交わす。
政治的な意図がある、などと穿った見方をする者は誰も居ない。
個室のドアを少しだけ開けてのぞき見する、銀エルフの貴婦人が一人いるだけである。
2019/7/16更新。




