中編(終)/去りゆく悪夢
激しく誇り高い戦意が、黄金王とその軍勢に力を与える。
戦いに参加した50人弱の暗殺組織のうち、残った半分ほどの人員が奮戦し、
新たな魔王への結露を切り開く。
コルトシュタイン貴族の一団も王の意志を受けて彼らと共闘し、魔物の残骸を築いていく。
倒された魔物は時間が経てば消滅するとはいえ、戦場は惨憺たる有り様であった。
「大丈夫か」
「平気です。陛下と一緒です」
クリストフは息を切らしつつも、どうにか王と足並みをそろえて戦い続けている。
ラルフはもう目前だ。
黒い影に身体を乗っ取られ、ひとり苦闘している。
「そっか。戦いが終わったら、悩むことになりそうだぜ、俺」
「え?」
「独り言だ。先にお前の部下と、親父さんを助けなきゃな」
「ありがとうございます」
「礼は後だ。気合入れるぞ」
「はい、陛下」
深呼吸をふたつして、武器を構え直す。
「大変結構。だが、気合だけでは魔王を倒せんよ」
空間が歪む。強力な転移魔法だ。
魔王スゴロクが普段の何倍もの魔力を伴って現れた。
「スゴロクさん!」
「魔王どの!?」
「まあ驚くな。魔王は基本、何でもありだ」
少年の姿が、あまりのエネルギー量のために宙に浮きあがっている。
「魔界十傑同盟との会談が長引いて、遅くなってしまった。盟主の爺さんが遅刻魔でな」
「話が見えん! はっきり言ってくれ」
「奴を弱らせろ。魔界で引き取ることになった。ちょうど戦う相手が欲しかったらしい、運がよかったな」
「わかりました。でもラルフは」
「力を吐き出させれば助かる」
クリストフが頷いて、先に仕掛けた。
のたうつ影と切り結び、魔王に分け与えられた魔力を駆使して立ち向かう。
「世話かけちまったな」
「礼は後、だろ。行くぞ」
「俺、剣投げちゃった」
影に溶かされでもしたのか、結局投げっぱなしである。
手にした予備ももうボロボロだった。
「阿呆。これを使え」
ニーナの大剣を受け取る。今度はしっくりと手になじんだ。力が満ちてくるのが分かる。
アルフレッドは一転、すさまじい動きでクリストフに加勢する。
筆舌に尽くしがたい激闘の後、ようやくラルフにまとわりついていた影を打ち払うことに成功した。
「よくやった! 下がれ!」
王たちがラルフを担いで退避した直後、スゴロクが魔力を開放する。
人間界と魔界を隔てる『扉』が現れた。
「うぉぉ!」
「あ、あれは!」
巨大な何者かの手が〝ぬぅっ”と現れ、悪あがきのようにうごめく影をむんずと捕らえる。
満足そうに2、3度手を振ったかと思うと、そのまま扉ごと消え失せてしまった。
「十傑同盟が盟主、ガイウスの義手。何でも掴んで領地まで攫ってしまう、まあ災害みたいなもんだ」
「あれはどうなりますか」
「適当な形を与えて……『永遠の戦場』行きだろうな」
先の大戦を終結させることに納得しなかった連中が引きこもって戦い続けている、
別次元にあると言われる戦場だ。
新しく誕生した魔物の王は、そこで永遠の戦いを楽しむことになるのだろう。
「結局、魔王たちに弄ばれてしまうのね」
「誤解を招く言い方はよせ、クリストフ殿」
「はは……でも、これで終わりだなんて、ねぇ……父上」
拍子抜けするほど簡単に去ってしまった悪夢を見送るように、クリストフは暫くその場に立ち尽くしていた。
2019/7/15更新。




