中編(10)決戦(3)
「よう、来たぜクリストフ」
「陛下! どうやって包囲を……!?」
「先生に頼んで、ちょちょいとな」
「ああ、婦人ですか……あの時の誤解は解いてくださったんでしょうね?」
「いやぁ、もう無理だろ。あの人も分かってて言ってるし」
もう一人の家庭教師だった魔法医師に彼女を診せた時の事を言っている。
こっそりクローゼットに隠れさせていたのを見られて以来、
男色趣味があるとの誤解を夫人から受けたままのアルフレッドである。
「困りましたね。お会いしたくなってきましたよ……懐かしい、楽しい思い出……」
「ずっと覚えてくれてたんだな」
「当たり前です。初恋です」
「だったらこんな大ごとになる前に、連絡してくれりゃ良かったんだ。なんだよ、結局ひとりで無茶しちまって」
「それは私も思います。ちょっと無謀でした。あとで叱って、ね」
クリストフが武器を構える。アルフレッドが貸したままになっていた細剣だ。
邪悪な化け物の影が、二人と暗殺組織の人員を覆っている。
護衛のケネス兄弟に倣って、王も剣を抜いた。
「ひとりで倒したいわけじゃないんだろ?」
「それは……」
はるか前方に立つ巨大な人影に剣を向けたまま、一瞬だけ考え、「ないです!」
「了解した……ぜっ!」
アルフレッドが大きく振りかぶり、剣を投げる。
巨人のような形をとった黒い影の、頭の部分に向けてだ。
『王の力』をまとった剣は、巨人の顔を覆った腕に突き刺さり、魔力の粒子を飛散させる。
「アルフレッド!? 挑発してはだめ、貴方が狙われます! 奴にはもう意志がある!」
「だからさ! お前らが助けてくれるんだろ!」
「まったく、貴方という人は……!」
あからさまに舌打ちしたクリストフは王の傍らに立って剣を掲げると、
「巻き添えを食うぞ! 王と共に戦える者は残れ、そうでなければ逃げろ!」
組織の残りの人員に緊急命令を発する。
……が、彼らはだれ一人動かない。
どころかそれぞれ武器を構えて、大きく暗い影を睨みつけているではないか。
「あのねぇクリストフ様。逃げろなんて命令、聞く奴がいると思う?」
似合いもしないウィンクなどしつつ、黒ずくめの少年が姿を見せる。
大剣を軽々と構えた金龍の娘も一緒だった。「姉さま、後でゆっくりお話ししましょうね」
「リコシェ! ニーナも!」
「僕らが守ってあげる。史上初で最大の親子ゲンカ、存分にしていらっしゃい」
「ケンカで済ますな、ばか」
「みんなを助けるんでしょ? だったらこれは殺し合いじゃない。ただのケンカだよ」
巨人の影から召喚される魔物に向けて、ダガーが射撃を始めた。
それが合図だった。
始まった激戦の中央で、アルフレッドが前方を見やる。
暗く巨大な影の発生源だろう地点に、長身の人影がある。
「お前の部下は無茶が好きらしいな」
「あとで叱ってやってください」
ラルフだ。
乱れ飛ぶ黒い魔力の粒子が、彼を取り巻いているようだった。
「走れるか?」
「はい、陛下」
ケネス兄弟と18人の暗殺者たちはすでに散開して、敵を討ちにかかっている。
「相手は全部魔物だ、遠慮なく叩き潰してやれ! 終わったら俺から特赦を出す! これで最後だ……かかれ!」
王は予備の剣を片手に、最後の号令を発した。
2019/7/15更新。
2019/8/31更新。




